そうそう、今年はビックニュースがあるんです!めったに咲かないレモングラスの花が咲きました。3月に入ってイネ科らしい穂があらわれ、地味...いや、渋い花が咲いたのです。30年以上レモングラスを育てていますが、花が咲いたのを見るのは初めてのこと。めったに咲かない花が咲くのは、何か良いことが起きる前ぶれと考えましょう。ちょうど視察にいらした薬学部の教授と学生さんに、開花したレモングラスを紹介すると、「これは珍しい!」と、皆さん写真撮影をなさっていました。
渋いっ!
レモングラスは熱帯アジア原産。水戸は寒さが厳しいため、冬は温室で栽培します。昨年は10月に約40人のボランティアさんと外で育ったレモングラスの葉を切って収穫し、株を鉢に植え直して温室に移動しました。
レモングラスは、秋に行われる水戸黄門漫遊マラソンでランナーの皆様にふるまうハーブウォーターの材料としても大活躍します。レモンの爽やかな香りがランナーの元気の源になってくれることを願って、皆で大移動を行いました。
冬の間、温室でレモングラスを育てていると、猫のミーちゃんがやってきてレモングラスが並ぶ間をすり抜けるように歩きます。「ミーちゃんはレモングラスが好きみたいですよ。」とスタッフのSさんが言っていました。温室に閉じ込められ、「出して〜」とニャーニャー鳴いている事もありますが、危険を冒してもレモングラスに会いたいみたいです。
たまに起きるミーちゃん閉じ込められ事件
ハーブには、レモンに似た香りをもつ種類がいくつもあります。シソ科のレモンバームにレモンバジル、クマツヅラ科のレモンバーベナ、フトモモ科のレモンマートル、そしてハーブファンに大人気のイネ科のレモングラスです。ちなみに、レモンはミカン科。それぞれ科が違うのに、同じレモンの香りがするのは不思議ですが、レモンの精油成分に微量に含まれるシトラールなどの成分が、その香りの秘密です。病害虫から身を守るため、進化の中でレモンのような香りが誕生したのかもしれませんね。実際、レモン系の香りがするハーブには防虫効果が確認され、虫除けスプレーの材料に利用されています。
ここで、6月のハーブ園で色鮮やかな花を楽しめるハーブをご紹介します。「薬剤師のバラ」と言われる「ロサ ガリカオフィキナリス」という薬用のバラです。13世紀のパリでは薬剤師がこのバラの花びらでジャムや砂糖漬けを作っていたので「薬剤師のバラ」と言われるそう。燃えるような赤いバラが咲きます。枝代わりで花が赤、ピンク、白の縞模様になる「ロサ ムンディ」も一緒に植えました。特に薬剤師の方には見ていただきたいバラです。
上が「ロサ ガリカオフィキナリス」、下が「ロサ ムンディ」
- 【レモングラス】
- 学名:キムボポゴン キトゥラトゥス(Cymbopogon citratus)
- 科名:イネ科キムボポゴン属
- 原産地:熱帯アジア
- 特徴:草丈約100cm
- 開花期:日本で多く栽培される西インドレモングラスはほとんど開花しない。東インドレモングラスは葉鞘の基部が赤く花が咲く。
- 栽培のポイント:熱帯原産なので、霜が降りる場所では栽培は難しい。初夏から秋は、屋外の日当りと排水が良く肥沃な場所で良く育つ多年草。盛夏をのぞき生育時期は有機質肥料を月1回施すと良い。
- 収穫:適期は夏。株元5〜6cmを残して切って束にし、サッと水洗いします。水気を充分に取った後、暗くて涼しい部屋に束ごと吊って乾かします。乾燥したら使いやすい大きさに切り、シリカゲルを入れた密封袋に入れて保管しながら利用。
第1回記事「マタタビよりも夢中?!甘い香りのキャットミント」
第2回記事「地味だって大注目!南国の香りレモングラスの花」
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第10回記事「死以外の全ての病を癒す!?不思議なニゲラ(ブラッククミン)」
第11回記事「養命酒にも使用。美しいだけじゃないんです!シャクヤク」
第12回記事「薬用ハーブ園癒しのシンボルツリー、苦~い薬木キハダ」
この方にお話を伺いました
水戸 養命酒薬用ハーブ園(水戸市植物公園内) 西川 綾子園長 (にしかわ あやこ)

水戸市植物公園園長。園芸家。筑波大学第二学群農林学類卒業後、民間企業を経て水戸市植物公園開園のために水戸市へ移住。NHK「趣味の園芸」講師や書籍の執筆なども行う。2009年第14回NHK関東甲信越地域放送文化賞を受賞。2014年公益社団法人日本植物園協会常務理事就任。2017年オープンの「水戸 養命酒薬用ハーブ園」では、約40 種類のハーブを栽培。園のシンボルツリーである薬木「キハダ」を囲むウッドデッキを中央に配置し、歴史を学べる薬草エリアと、五感で楽しむハーブガーデンエリアの2つのエリアを設けている。