イタリアンなどのレストランで飲む機会が増えてきた食前酒。シャンパンやカクテルなどが一般的ですが、梅酒のように果実やハーブを漬け込んだ、薬膳の知恵を活かしたお酒もおすすめです。食前酒の効果や楽しみ方を紹介します。
食前酒とは?
食前酒とは、文字通り食事の前に飲むお酒のこと。食前酒を飲む習慣は18~19世紀にヨーロッパで始まったとされ、フランスやイタリアでは、食事前に家族や友人などと食前酒を楽しむのが定番です。日本ではフレンチやイタリアンが広まる中で認知されていきました。
食前酒のことを、フランス語ではアペリティフ(apéritif)、イタリア語ではアペリティーボ(aperitivo)といいますが、語源となったのはラテン語のアペリーレ(aperire)。この言葉には「開く」という意味があり、食欲を開かせる、あるいは楽しい時間の幕開けをイメージさせる言葉といえるでしょう。
略してアペロ(l'Apéro)と呼ばれることもありますが、こちらには食前酒という意味だけでなく、夕食前に軽くお酒とおつまみを味わう時間も含めた呼称として使われます。
食前酒の主な効果と種類
食前酒には以下のような効果が期待されています。
- 〔食前酒のメリット〕
- 胃を刺激して食欲を増進させる
- 胃液の分泌を高める
- 食事をより美味しく味わえるようにする
- 気持ちを切り替えて楽しい食事の時間に備える
- 会話が弾む雰囲気をつくる
これらのことから、一般的に食前酒は、胃を刺激する炭酸や酸味のあるもの、スッキリとした味わいのもの、アルコール度数が控え目の軽やかなものが好まれます。
- 〔食前酒に一般的に飲まれているお酒〕
- 白ワインやロゼワイン
- シャンパンやスパークリングワイン
- シェリー酒
- ビール
- カクテル
- スパークリング日本酒
空腹の状態でアルコール度数の高いお酒を飲むと、胃の粘膜を傷めてしまう恐れがあります。またクセや味が強いものは、その後の食事に影響することも。なお、食前酒は大量に飲むものではないので、適量を楽しみましょう。
食前酒にもおすすめ! 薬膳の知恵を活かしたお酒
ヨーロッパでは古くから薬膳の知恵を活かしたお酒も食前酒として楽しまれています。白ワインにニガヨモギやコリアンダー、ナツメグなどのハーブやスパイス、砂糖を加えたベルモットもその一つで、オンザロックやソーダ割り、マティーニやマンハッタンなどのカクテルで飲まれます。ニガヨモギやコリアンダーには健胃作用が、ナツメグやアンジェリカには消化を助ける働きがあり、食前に飲むのにぴったりです。
また、アニスやフェンネル、カルダモンを使ったアニス酒もヨーロッパでは食前酒の定番ですが、お酒に使われているこれらのハーブは健胃作用が期待できます。このほかオレンジにハーブを加えたリキュールも親しまれています。
さらに、日本の梅酒、中国の桂花陳酒(けいかちんしゅ)や杏露酒(しんるちゅう)のような、果実や花を漬け込んだお酒も食前酒として飲まれることが多いです。梅酒は梅の酸によって胃が刺激されることから、食欲が増す作用があるといわれています。
ハーブやスパイス、果実には香り豊かなものも多くあり、その香りにも「気」を巡らせたり、緊張を和らげリラックスさせたり、消化を助けたりする効果が期待できます。ラベンダーやカモミール、シナモン、カルダモンなどの香りが楽しめるお酒にもぜひ注目してみましょう。
ハーブや果実をアルコールに漬け込むことのメリットは?
ハーブやスパイス、果実を度数の高いアルコールに漬け込み、その素材のもつ成分を自然に近い状態でじっくりと溶かし込むと、成分が体に吸収されやすくなるだけでなく、口当たりがよくなって飲みやすさも増します。ハーブなどには熱に弱い性質をもつものもありますが、アルコールに浸すことで成分を抽出できるという利点があります。
アルコールそのものにも、消化を助けて食欲を増進させたり、血行・血流をよくして体を温めたりするなどの効果があります。さらに、気分転換やストレス軽減、リラックスといった働きも期待できます。
アルコールの力に薬膳の知恵が加わることで相乗効果が生まれ、それぞれを単体で体に取り入れる以上の働きをしてくれるのです。
日本には奈良時代に中国から伝来
こうした薬膳の知恵を活かしたお酒の歴史は古く、西洋ではローマ時代、東洋では紀元前から用いられてきたとされており、日本には奈良時代に遣唐使によって中国からもたらされたというのが通説です。
江戸時代初期には全国でさまざまな種類が作られるようになりましたが、その背景には、健康への関心が高かった徳川家康の影響があったともいわれています。身近なところでは、お正月に飲む「お屠蘇(とそ)」がその一種です。
薬膳の知恵を活かしたお酒の楽しみ方3選
薬膳の知恵を活かしたお酒というと、味や飲み方の敷居が高いように思われるかもしれません。体によさそうなイメージから健康意識の高い世代に好まれるような印象もあるでしょう。しかし、実はもっと身近で手軽な存在であり、最近は若い世代の間でも、素材から抽出される自然の力やナチュラルな美味しさに興味をもつ人が増えてきました。
お酒の飲み過ぎは厳禁ですが、体質やそのときの体調に合うと、普段は不得手な味わいであっても不思議と美味しく感じられますよ。
1:身近な野菜も芳醇に! 新たな味に出合える
薬膳の素材はハーブやスパイス、果実、野菜、花などさまざまで、その働きも異なります。「薬膳だから珍しい素材や高価な素材を使うのだろう」と思われるかもしれませんが、近所のスーパーで手に入るような、身近なものの力も活かされています。
例えば、紫蘇やセロリなどの香味野菜、干ししいたけやゆり根、にんにくといったどちらかというとおつまみになりそうな素材を用いることがあります。アルコールに漬けることによって新たな味わいに出合えるのも、醍醐味の一つ。ゴーヤは苦味が和らぎ、にんにくはまろやかに、タラノキはウイスキーのような芳醇な香りを放つようになります。
女性にはラベンダーやカモミール、ローズ、エルダーフラワーなど、香りのよいものが人気です。心地よい香りによるストレスの緩和や、美容効果などを期待される人が多くみられます。一方、男性は香りよりも飲んだときにインパクトを感じるもの、飲んで元気になれるようなものを好む傾向があります。
2:飲み方も自分のスタイルでOK
薬膳の知恵を活かしたお酒は、素材によって味も香りも異なるので、飲み方の自由度が高いのも特長です。味わいを堪能するストレートやロック、さっぱりとした水割り、香りが際立つお湯割り、飲みやすい炭酸割りやジンジャーエール割り、など、濃さを調整しながらさまざまな飲み方ができます。トニックウォーターも好相性です。
慣れてきたらいろいろな種類のお酒をブレンドしてみてもいいでしょう。何をどう飲めばいいか迷う人もいますが、まずは興味をもったお酒や、素材の効能を調べて自分に合いそうなお酒を試してみましょう。お店で注文する場合は、スタッフに相談すると適切なアドバイスがもらえます。
3:好みの素材でお酒をつくるのも◎
興味があれば自分で薬膳の知恵を活かしたお酒を作ってみるのもいいでしょう。その場合、フレッシュで質がよく、安全な素材を吟味することが大切。漬け込むお酒は度数が高くクセのないものがおすすめです。一度に大量につくるのはリスクが高いので、まずは少量から始めましょう。
梅酒のように氷砂糖を加えることもありますが、必須ではありません。加えなければ、より自然の風味を感じられる飲み口に仕上がり、甘いものが苦手な人でも楽しめます(※)。
ぜひ自分に合うお酒を、自分が美味しいと思う飲み方で味わって、薬膳をもっと気軽に親しんでください。
- ※自宅でお酒をつくる場合は酒税法に則り、下記の点を守りましょう。
- ・アルコール分20度以上のもので、かつ、酒税が課税済みのお酒を使う。
- ・お酒に混ぜるのは以下に該当しないものにする。
- (1)米、麦、あわ、とうもろこし、こうりゃん、きび、ひえ、もしくはでんぷんまたはこれらのこうじ
- (2)ぶどう(やまぶどうを含む)
- (3)アミノ酸もしくはその塩類、ビタミン類、核酸分解物もしくはその塩類、有機酸もしくはその塩類、無機塩類、色素、香料又は酒類の粕
- 根拠法令など:酒税法第7条、第43条第11項、同法施行令第50条、同法施行規則第13条第3項
この方にお話を伺いました
BARこころゆ マスター 大越 裕之 (おおこし ひろゆき)
臨床心理士、公認心理師、精神保健福祉士、保育士。大学卒業後、海外生活を経て臨床心理士となり、教育や福祉の現場で経験を積む。コロナ禍の2022年7月、誰でも気軽に悩みを相談できる場所として、薬膳の知恵を活かした酒やお茶を提供する「BARこころゆ」をオープン。現在、昼間は心理士として勤務し、夕方からマスターとしてカウンターに立っている。