【和ハーブ連載】中世から伝わる「仙薬」桑の葉&桑の実(マルベリー)
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【和ハーブ連載】中世から伝わる「仙薬」桑の葉&桑の実(マルベリー)

和ハーブ協会の古谷暢基さんがさまざまな和ハーブを紹介する連載記事です。今回は古くから薬効が知られ、健康と美容にパワーを発揮する「桑(クワ)」を解説。桑の葉や果実(マルベリー)を美味しくいただく方法もお伝えします。

〔目次〕
日本全国47都道府県に生息し有用される唯一の樹木
戦前の養蚕産業を支えていた桑
"薬草の王"茶の木(チャノキ)と同等に扱われた薬効
糖尿病や肥満を防ぐ成分に注目
抗酸化成分の豊かな桑の実(マルベリー)

日本全国47都道府県に生息し有用される唯一の樹木

桑の樹木の画像

地域の自治体や企業などの要請を受け、和ハーブの講演や調査、研究などで全国の山林を回らせていただいています。南北に長く標高差も激しい島国の日本では、地域ごとに生息する植物やその活用文化にかなりバリエーションがあります。

特に木本植物(樹木)の植生はそのエリアの自然環境を特徴づけますが、日本にある1,000種以上ある樹木のうち、北海道にも沖縄にも生息する種はたった2種しかないということはご存じでしょうか?

その2種とは、「桑(クワ)」と「たらの木」。このうち「たらの木」は、本州~九州地方では山菜料理(新芽)や胃腸薬(根皮)として活用され、アイヌ民族も食用・薬用で使いましたが、沖縄では活用されてきませんでした。一方、今回の主役の「桑」は、アイヌ・琉球を含めた全国で有用されてきました。すなわち47都道府県のどこでも生息し、活用されてきた唯一の樹木の和ハーブが「桑」ということになります。

戦前の養蚕産業を支えていた桑

ところで、"桑といえば蚕(かいこ)"というイメージが今もあると思います。蚕が蛹(さなぎ)となるときにつくる繭(まゆ)の材料として吐き出す白い糸は、古代中国から伝わった絹織物の原料です。絹はかつてアジアの宝として、大航海時代に全世界の垂涎の的となった高級繊維です。その絹を生むお蚕様の唯一の餌が、桑です。実際には蚕は桑の葉以外の植物の何種類かを食べることで知られていますが、繭糸を吐き出す能力が落ち、その結果、蛾まで成長する確率が減ることが知られます。

絹織物は、戦前の日本の主力輸出品として根幹産業となり、それに伴い養蚕業も非常に盛んになりました。1930年代には全国の農家の40%以上が行っており、実に全畑地面積の1/4が桑畑だった、という記録が残ります。昔の地図には桑畑を表すことだけを目的としたマークがあったことも、養蚕産業のかつての隆盛を想像させることでしょう。

"薬草の王"茶の木(チャノキ)と同等に扱われた薬効

桑の葉の画像

一本に分裂葉と不分裂葉が混ざってついている桑の樹

桑は蚕だけでなく、人にとっても大変に薬効が高い和ハーブです。
鎌倉時代の禅僧の栄西が記した『喫茶養生記(きっさようじょうき)』にて、日本のハーブティーの代表「緑茶(茶の木が原料)」の薬効と有用性が紹介され、日本に広まったことは以下の記事でご紹介しました。

実は、この『喫茶養生記』は上巻・下巻で構成されていました。その上巻には茶の木、そして下巻には"茶の木に勝るとも劣らない仙薬"として、桑が紹介されていたことはあまり知られていません。糖尿病や血管系の病気などに効果が高い和ハーブとして「桑は是れ又、仙薬の上首」と最高評価で表現され、書物の別名が『茶桑経(ちゃそうきょう)』と称されるほどでした。そんな桑が、日常茶としては日本で茶の木ほど広まらなかった理由はさまざまですが、前述したように"蚕の餌"としての存在が優先されたことも、その一つでしょうか。

糖尿病や肥満を防ぐ成分に注目

桑はビタミン類やミネラルなどの栄養バランスがよい上に、『喫茶養生記』で書かれた通り、実際に糖尿病や肥満を防ぐ成分が近年研究され、注目を集めています。

成分名は「1-デオキシノジリマイシン(DNJ)」で、"イミノ糖"の機能を持ちます。ブドウ糖の分子構造によく似ることから、小腸内での本物のブドウ糖の吸収を阻害することで、糖尿病や肥満の原因となるインスリンの過剰分泌を防ぐ効果があるといわれます。乾燥または生葉をお湯に煮出した和ハーブティーの形で、主食や糖質食材をとる際に一緒に飲むのがおすすめです。

なお、桑の葉は成葉でも比較的やわらかくクセがないので、一年中、食材として使えます。天ぷら、炒め物、ペーストの素材、また出たてのやわらかい葉や若い葉は、お浸しやサラダでそのまま食べられます。

抗酸化成分の豊かな桑の実(マルベリー)

桑の実ビネガーのソーダ割りの画像

桑の実ビネガーのソーダ割り

桑は葉だけでなく、果実も最高の食材。桑の実は日本のみならず、世界のあちこち(北半球)で「マルベリー」として親しまれます。

血管を丈夫にし、抗酸化作用を持つビタミンCは100gあたり30~40mgと、柑橘類と同じくらい含みます。また、同じく抗酸化作用が高い色素アントシアニンもとても豊富で、その含有量はブルーベリーの4~5倍というデータがあります。美容の大敵であるむくみを取り、細胞の代謝を高める効果を持つミネラルのカリウムは、果実類の中でトップクラスの含有量です。

5月頃、果実が赤くなり目立ってきますが、食べ頃は紫が濃くなった時期。植物の果実の"熟す"とは、果実の中にある種子が発芽能力を備えたときで、植物は色や香りで動物たちに「早く食べて糞で撒き散らせ!」と命令します。

熟したときに赤色の場合は鳥に食べてほしい植物たち、同じく濃い赤紫~黒色で香りを発する場合は哺乳類にも食べてほしい植物たちです。その結果、桑は哺乳類である人にも理想的な栄養素を提供します。なお、亜熱帯気候の沖縄では、桑の果実がもっとも多い場所で年に7回も成ることで知られます。

桑の実とガマズミのソースをかけたグリルチキンの画像

桑の実とガマズミのソースをかけたグリルチキン

そのまま生で食べるのはもちろん、ジャムやマルベリーソースもおすすめ。マルベリーソースは、塩こしょうをした鶏肉または白身魚などをオイルを引いたフライパンで焼いた後に取り出し、そこに桑の実を入れて少々のお酒(白ワインなど)で軽く煮て、肉や魚にかけていただきます。

この方にお話を伺いました

(一社)和ハーブ協会代表理事、医学博士 古谷 暢基 (ふるや まさき)

古谷 暢基

2009年10月日本の植物文化に着目し、その文化を未来へ繋げていくことを使命とした「(一社)和ハーブ協会」を設立、2013年には経済産業省・農林水産省認定事業に。企業や学校、地域での講演、TV番組への出演など多数。著書は『和ハーブ にほんのたからもの〈和ハーブ検定公式テキスト〉』(コスモの本)、『和ハーブ図鑑』((一社)和ハーブ協会/素材図書)など。国際補完医療大学日本校学長、日本ダイエット健康協会理事長、医事評論家、健康・美容プロデューサーでもある。

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