糖質制限ダイエットがブームになってから、お米を食べることに罪悪感を抱いてしまう人も。けれどお米にはさまざまな栄養が含まれていて、健康へのメリットも多くあります。ダイエット中のお米の食べ方について解説します。
- 〔目次〕
- 健康的なダイエットをめざすならお米に注目
- 健康に役立つお米の栄養素
- 薬膳から見たお米の魅力
- お米の種類と加工品の健康効果
- ダイエットのときにこそご飯をすすめる理由
- タンパク質や野菜もとれて栄養満点! 養生ご飯レシピ3選
- これからも美味しいお米を食べ続けていくために
健康的なダイエットをめざすならお米に注目
糖質制限ダイエットの注意点とは?
近年、病気の治療を目的とする糖質制限ではなく、ダイエット目的の糖質制限がブームになっています。炭水化物を控えて、脂質やタンパク質をエネルギー源のメインとするダイエット方法で、その影響からお米が敬遠されるようになりました。しかし、糖質制限ダイエットでは以下のデメリットが懸念されます。
- 脂質やタンパク質の摂取が増え、栄養バランスが崩れやすくなり、別の健康リスクが高まる。
- 炭水化物を食べないことで、脳の主なエネルギー源であるブドウ糖が不足。脳が栄養不足に陥り、低血糖の症状が現れる。
- エネルギーが不足すると、脂肪や筋肉中のタンパク質がエネルギー源として利用されてしまい、筋肉量が低下する。
- 食物繊維が不足し、腸内環境が悪化。便秘や肌荒れなども起こりやすくなる。
たとえ体重を落とすことに成功しても、健康を害してしまうのはNGです。ダイエットでは栄養バランスを考え、極端な食事制限は控えましょう。
健康に役立つお米の栄養素
お米に含まれる栄養といえば炭水化物の印象が強いのですが、その他にもさまざまな栄養素が含まれています。健康への効果を確認しましょう。
1:炭水化物・タンパク質→エネルギー源になる
お米の主な栄養素は、体のエネルギー源となる炭水化物とタンパク質であり、ほかにビタミン、ミネラル、食物繊維などいろいろな栄養素が含まれています。中でもタンパク質は、牛肉や牛乳に含まれるタンパク質と同じくらい質がよく、体に必要な必須アミノ酸がバランスよく含まれています。
2:難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)→腸内環境を整える
炊いたご飯には、食物繊維と水分、ご飯が冷えることで生まれる難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)が含まれます。
食物繊維が腸内の善玉菌のエサとなり、増殖を助けることで腸内環境を整えるのに加え、難消化性でんぷんも小腸では消化・吸収されず大腸に届くことから、食物繊維と同じ働きが期待できます。腸内には免疫細胞の多くが集まっており、腸内環境を整えることは免疫力を高めることにつながります。
薬膳から見たお米の魅力
薬膳では、その中心的な役割を担う五穀(稲・麦・黍・稗・豆)は五臓を養うと考えられていて、栄養を体全体に運び、消化吸収を促して元気をつくる「脾(ひ)」を助ける働きがあるとされています。
五性でいうとお米(うるち米)は平性であり、偏りがないとされます。そのため、どのような性質をもつ食材とも合わせやすく、1日3食食べても体のバランスを崩しません。「陽」の気に満ちたお米は炭水化物が豊富で活動のエネルギー源となり、「気(き)」を養うほか、胃腸を丈夫にし、消化吸収機能を回復させ、イライラを和らげる働きもあります。
お米の種類と加工品の健康効果
お米は精白米が一般的ですが、精米の度合いや種類によって働きは異なります。またお米を加工した食品にも食べることで得られるメリットがあります。
お米の種類1:玄米
ぬかや胚芽を残した玄米は、精白米に比べるとビタミンB1や食物繊維が豊富。ぬかに含まれるガンマオリザノールには、コレステロールの吸収を抑える働きや抗酸化作用などが認められています。疲労回復や便秘の予防にも有効ですが、消化しにくいのが難点です。
胃腸の弱い人や老人、中学生以下の子どもは十分に栄養を摂取できないこともあるので控えたほうがよいでしょう。玄米よりも消化のいい、ぬかを残して精米した「分つき米」や、胚芽部分を残した「胚芽米」がおすすめです。
お米の種類2:もち米
体を温める温性の性質をもつため、寒い季節のほうが食べるのには適しています。お正月にお餅を食べるのは理にかなった行動なのです。「脾」の働きを高め、胃を温めるので、慢性的な疲労の回復や冷え症、冷えからくる下痢の予防に有効です。ただし消化吸収に時間がかかるので、老人や子どもは食べ過ぎに注意しましょう。
お米種類3:黒米
黒米は、アントシアニンやビタミンEの働きで老化の予防が期待できます。薬膳では、黒い食材は成長や生殖、水分代謝にかかわる「腎(じん)」を養うとされます。胃腸を丈夫にし、体力や気力の向上、血行改善にも役立ち、元気のない人、貧血気味の人におすすめです。逆に、若い人や血気盛んな人は控えたほうがよいでしょう。
加工品1:米油
米ぬかから抽出される米油。抗酸化物質を多く含み、サラッとしていて胃もたれもしにくいのが特長です。
加工品2:米粉
米粉には、うるち米を原料にした「上新粉」や、もち米を原料にした「白玉粉」、「道明寺粉」、「餅粉」などがあります。お菓子に使うと、もちもち、しっとりとした食感に仕上がり、水で溶けば、片栗粉の代わりにボリューム感のあるとろみがつけられます。
小麦粉に比べて油を吸収しにくく、グルテンフリーなので小麦アレルギーのある人にも安心して使えます。腹もちがよく、ゆっくり消化されることから血糖値が急上昇しにくいというメリットもあります。
加工品3:ぬか
精米の際に出るぬかのうち、胚芽にはタンパク質や抗酸化作用のあるビタミン、リンやマグネシウム、鉄などのミネラル、毒素の排出を促すフィチン酸などが、表皮には食物繊維などが豊富です。
ぬか漬けのぬか床にするほか、クッキーやパンの材料、コーヒーなどのドリンクや料理のトッピングに使えます。そのままでは使いにくいので、フライパンで乾煎りしたり、市販のパウダーを使ったりしてもよいでしょう。
ダイエットのときにこそご飯をすすめる理由
ダイエットというと、どうしてもカロリーや糖質の量などが気になりますが、数字だけに縛られてよいのでしょうか。
ご飯1杯と食パン1枚ではご飯のほうがカロリーは高いのは事実です。しかし、粒の状態で食べるご飯は、パンや麺類に比べるとよく噛む必要があるため満足感が得やすく、消化に時間がかかって腹もちもよく、血糖値の急激な上昇が抑えられます。食物繊維の働きにより便秘の予防にも有効です。
カロリー的には差はありませんが、GI値に着目して、精白米に比べてGI値の低い玄米や白米と玄米の中間的な位置にある分つき米、胚芽部分を残した胚芽米を選んでもよいでしょう。また、パンと比べると、どちらかというとご飯のほうがカロリーの低いおかずに合うことも見逃せません。これらのことから、ダイエットをするならパンよりご飯がよいのです。
タンパク質や野菜もとれて栄養満点! 養生ご飯レシピ3選
1:さつまいもと豚肉の中華風炊き込みご飯
疲労回復に有効な豚肉と食物繊維豊富なさつまいもを使っています。さつまいもは油で炒めて、抗酸化作用を持つβ-カロテンの吸収をアップ!
- 〔材料〕4人分(1人分279kcal 塩分2.1g)
- さつまいも ......200g
- 豚肉 ......120g ※カレー用を使うと食べ応えが出せます
- 干ししいたけ ......2枚
- 米油(オリーブオイルでも可)...... 大さじ1
- (A)
- 酒 ...... 大さじ1
- 醤油 ...... 小さじ2
- 米 ...... 2合
- (B)
- 水 ...... 300ml
- 酒 ...... 大さじ1
- 鶏ガラスープの素 ...... 小さじ2
- 塩 ...... 小さじ1/2
- 醤油 ...... 小さじ2
- 小ねぎ ...... 1/2束
- ごま油 ...... 大さじ1
- 〔作り方〕
- さつまいもは皮つきのまま1cm角に切り水にさらす。豚肉は食べやすい大きさに切り、分量外の酒(大さじ1)、塩・こしょう(各少々)を振って混ぜておく。干ししいたけは戻して薄切りにし、戻し汁をとっておく。米は研いで水気をきる。小ねぎは小口に刻む。
- 水気を切ったさつまいもと、豚肉、干ししいたけを米油でサッと炒めてAを加え、ひと煮立ちしたら火を止める。
- 炊飯器に米、2、B、干ししいたけの戻し汁(90ml)を入れて混ぜ、炊く。
- 炊きあがったら5分蒸らして混ぜる。
- 小ねぎをごま油でサッと炒め、盛りつけ時にご飯にのせる。混ぜてもよい。
◎ポイント
食物繊維を含む胚芽米でつくるのもおすすめです。胚芽米は白米とは浸水時間や炊くときの水の量が異なります。袋の記載を目安にしましょう。
2:人参とイカのやわらかリゾット
エネルギーを補う米、血を補う人参とイカに、巡りを促す玉ねぎを加えたやわらかめのリゾット。安眠にも有効なチーズをたっぷりかけていただきます。
- 〔材料〕4人分(1人分491kcal 塩分2.4g)
- 米 ...... 1合
- イカ(冷凍)...... 120g
- (A)
- 酒 ...... 大さじ1
- 塩 ...... 少々
- 黒こしょう ...... 少々
- 人参 ...... 小1本
- 玉ねぎ ...... 小1/2個
- オリーブオイル ...... 大さじ2
- (B)
- 白ワイン ...... 50ml
- 湯 ...... 200ml
- コンソメ ...... 1/2個
- 塩 ...... 小さじ1/2
- 黒こしょう ...... 少々
- 粉チーズ ...... 大さじ1
- イタリアンパセリ ...... 少々 ※お好みで、生でもドライでも可
- 〔作り方〕
- 米は研いでザルに上げておく。イカは解凍して洗い、水気を取って5mmの幅に切り、Aを混ぜておく。人参はすりおろし、玉ねぎは粗みじんに切る。
- 鍋にオリーブオイル大さじ1を入れて玉ねぎ、人参の順に加え、炒める。鍋の中央を空け、残りのオリーブオイルと米を入れて炒めてから野菜と炒め合わせる。
- 2にBとイカを入れ、蓋をして中火にかける。沸騰したら弱火で12、13分炊き、一度火を強めてから消し、5分蒸らす。器に盛り、粉チーズを振ってイタリアンパセリをのせる。
◎ポイント
炊飯器に全ての材料を入れて炊いても美味しく出来上がります。
3:鮭と切り干し大根、きくらげの炒め煮の混ぜご飯
血の巡りをよくしてむくみを改善する鮭に、切り干し大根、白ごまなど「肺(はい)」を潤す食材を加えた常備菜。レシピは8食分です。作ったものを、1人分につき40~50gを温かいご飯に混ぜていただきます。
- 〔炒め煮の材料〕8食分(1食分104kcal 塩分0.74g)
- 切り干し大根 ...... 25g
- きくらげ ...... 10~20g
- 人参 ...... 100g
- 生姜 ...... 35~40g
- 鮭缶 ...... 大1缶
- 酒 ...... 大さじ1
- オリーブオイル ...... 大さじ2~3
- (A)
- だし ...... 50ml
- 醤油 ...... 大さじ2
- みりん ...... 大さじ1
- 白すりごま ...... 大さじ2~3
- 〔混ぜご飯の材料〕1人分(1食分356kcal 塩分0.74g)
- 温かいご飯 ...... 150g
- 鮭と切干し大根、きくらげの炒め煮 ...... 40~50g
- いりごま ...... 小さじ1~2(お好みで)
- 〔作り方〕
- 切り干し大根は戻して食べやすい長さに切る。きくらげは戻して千切りにし、人参と生姜も千切りにする。鮭缶は缶汁を軽くきり、粗くほぐして酒を振りかけておく。
- フライパンでオリーブオイルを温め、生姜を炒めて香りが立ったら人参、きくらげ、切り干し大根大根の順に加えて炒める。
- 全体に油が回ったら鮭を加えて軽く炒める。Aを加えて混ぜ、煮汁がほぼなくなるまで時々混ぜながら煮る。味をみて、薄ければ醤油(分量外)を加えてととのえ、白すりごまを加えて混ぜ、火を止める。
- 温かいご飯に作った「鮭と切り干し大根、きくらげの炒め煮」と、好みでいりごまを加えてよく混ぜる。
◎ポイント
炒め煮は日持ちもよくご飯や麺に混ぜるなどアレンジが手軽です。冷蔵庫で4~5日間保存可能。ただし、3~4日経ったら再加熱しましょう。
以下のページでは薬膳粥のレシピを紹介しています。こちらもぜひチェックしてみてください。
これからも美味しいお米を食べ続けていくために
日本人の体には、ご飯を中心に、主菜や副菜、汁物をそろえて栄養バランスがとりやすい和食が合うというのも忘れてはいけません。世界各地に暮らす人々は、自分が住んでいる土地の気候風土に合った食べ物を長年食べ続けてきました。日本人も日本でとれる物を自分たちが食べやすいように調理や加工をしてきた歴史があり、内臓の機能も食文化や環境に合わせて進化してきました。そのため、海外発祥の健康食が必ずしも日本人に有効であるとは限りません。
お米には、生命力や気力を養う力があります。添加物も入っていません。しかし、食生活やライフスタイルの変化などから1人当たりのお米の消費量は減っており、それに伴ってお米の生産量や生産する水稲収穫農家数も減少を続け、農業従事者の高齢化も進んでいます。
一方で、日本はカロリーベースでの食料自給率が主要先進国でも最低水準にあります。その中でほぼ100%の自給率を維持しているのがお米であり、食料安全保障の要と考えられています。
この方にお話を伺いました
料理研究家、管理栄養士、国際中医薬膳管理師 植木 もも子 (うえき ももこ)
中医学や雑穀などを取り入れた、美味しいだけでなく、体によい料理が評判。著書は『身近な素材でつくるかんたん養生酒』(PHP研究所)、『薬膳ナムル手帖』(家の光協会)など多数。