以前は健康にあまりよいイメージのなかったコーヒーですが、近年、コーヒーの健康効果が世界中で認められ、健康長寿に役立つ飲み物として注目を集めています。コーヒーを飲むことで得られるメリットや、食後コーヒーの効果、ダイエットへの影響など詳しく解説します。
コーヒーが叶える健康効果とは
1人あたり1日約1杯のコーヒーを消費しているという日本人。お酒やたばこと並ぶ嗜好品として、以前は不健康そうなイメージもありました。1991年に、WHO(世界保健機関)がコーヒーを発がん性物質の可能性があると位置づけたこともコーヒーのイメージダウンにつながりましたが、2016年にはそれを裏づける証拠はないとして撤回されています。
そして今、コーヒーは健康で長生きするための飲み物として認知されるようになりました。その背景には、世界中で行われている研究や調査で判明した、コーヒーの健康効果があります。
1:死亡リスクの低下
コーヒーの健康効果が注目されるきっかけになったのは、アメリカの権威ある医学誌『the New England Journal of Medicine』に、2012年に発表された論文でした。
その論文は、40万人以上の健康調査においてコーヒーの摂取量と生命予後(病気などが回復し命を維持できるかの予測)との関連を分析したもので、コーヒーをよく飲む人は、飲まない人と比べて総死亡リスク(さまざまな原因で死亡するリスク)の低下が認められたのです。その後、日本を始め世界各地で調査が行われ、人種や地域にかかわらず、コーヒーの飲用によって死亡リスクが低下することが明らかになりました。
2:体重増加の予防を期待
コーヒーを飲むことはダイエットに役立つのかどうかも気になるところです。結論からいうと、下記の理由から、体重増加の予防に有効だといえます。
- 砂糖や牛乳を加えなければゼロカロリー
- 脂肪を燃焼し、熱を産生させる
- カフェインが基礎代謝を高める
ただコーヒーを飲めば痩せられるかといえば、それは難しいです。バランスのとれた食事や適度な運動などを心がけながら、コーヒーを上手に活かしていきましょう。
3:糖尿病への効果
日本では1,000万人を超えると推計され、年々増加している糖尿病の有病者。糖尿病は、目や腎臓、神経、血管に生じる合併症のほかにも、さまざまな病気との関連が指摘されています。糖尿病には、若い世代を中心に発症する1型糖尿病と、生活習慣が関わる2型糖尿病がありますが、コーヒーには2型糖尿病の予防効果が確認されています。
コーヒーには抗酸化作用や抗炎症作用をもつポリフェノールの一種、クロロゲン酸が含まれています。コーヒーの健康効果にどのようにかかわるかは明らかになっていませんが、食後の血糖値の上昇を抑えインスリンの効きをよくすることから、糖尿病や肥満の予防に一役買っていると考えられています。
4:肝臓病全般への効果
健康診断でおなじみの肝機能の状態を示す「GOT(AST)」「GPT(ALT)」「ɤ-GTP」は、コーヒーを飲む人のほうが数値は低いということがわかっています。また、肝臓の疾患には、B型肝炎やC型肝炎、非アルコール性脂肪性疾患、アルコール性肝機能障害、胆石症などがありますが、それらのほとんどにおいて、コーヒーが症状を改善させたり、進行を予防したりすることが報告されています。
5:コーヒーの文化的な効果
日本には昔から文化としてお茶を喫する風習がありましたが、コーヒーを飲むことも、同じように文化ととらえることができます。人との会話を楽しむ場にコーヒーがあることは多いでしょう。朝コーヒーを飲むことが1日のやる気を出すきっかけになったり、食後のコーヒーでリラックスできたりします。このように暮らしの中で発揮されるコーヒーの力もまた、心身の健康をサポートするもの。ぜひ注目してください。
6:コーヒーを飲むとお通じがよくなるのは本当?
コーヒーを飲むと便意を催すという人もいます。カフェインが胃腸の働きを促すことや、コーヒーの香りによってリラックスし、副交感神経が活発になることが排便につながっていると考えられます。コーヒーを飲む→トイレに行くが習慣となり、結果としてコーヒーが排便を促すスイッチのような役割になっている可能性もあるでしょう。
便秘解消に効果的な方法は以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
コーヒーに含まれる成分は1,000種類以上!
コーヒーの成分として有名なのはカフェインですが、その他にもクロロゲン酸、ニコチン酸など1,000種類以上もの成分が含まれています。それらのうち何がどのように作用しているのかは、明確にはわかっていません。「薬用養命酒」に含まれる生薬と同じように、それぞれの働きを活かしながら、総合的な力で健康をサポートしていると考えられます。
メリットもデメリットもあるカフェイン
コーヒーの成分として真っ先に思い出されるのがカフェインです。近年のエナジードリンク人気から、カフェインの過剰摂取に対する注意喚起も行われていますが、その一方で、認知症やパーキンソン病への有効性に関する研究も進められています。
- 〔カフェインの主な働き〕
- 解熱鎮痛作用がある
- 神経を興奮させ、眠気を覚ましたり疲労感を軽減したりする
- 尿を増やす
- 脈拍を増加させたり、血圧を上げたりする
脈拍の増加や血圧上昇は体の負担になりそうですが、日頃からコーヒーなどでカフェインを摂取している人は心配する必要はありません。ただし、小学生以下の子ども、妊娠中の女性は注意が必要です。コーヒーを飲む場合は、ノンカフェインのものを選びましょう。また、心臓や肝臓の疾患で治療中の人も、主治医に相談したほうがよいでしょう。
カフェインは常用性にも注意してください。カフェインを摂取して疲労感を軽減したり集中力をアップしたりするのが続くと、常用性が高まります。特に子どもの頃からカフェインを常用していると、ほかのものにも依存しやすくなってしまう場合があります。
カフェインは体内で素早く代謝されますが、ときにはカフェインとその代謝物が逆の作用を示すこともあります。また、カルシウムの吸収を抑え排出を促す働きがあるという報告と、骨粗しょう症予防効果があるという報告の両方が存在するように、まだまだ解明されていない部分も多いのが現状です。カフェインは悪者か、悪者でないかは一概には言えず、飲むことにメリットもデメリットもあると覚えておきましょう。
以下記事では、効率よく健康効果を得るための飲み方や二日酔いとコーヒーの関係について解説しています。ぜひ参考にしてください。
コーヒーを飲むなら食前? 食後?
コーヒーを飲むタイミングは人それぞれ。朝一番に飲むという人もいれば、昼食後に楽しむという人もいるでしょう。では、食前と食後、どちらがいいのでしょうか? それぞれに以下のようなメリットがありますが、健康効果に大きな違いはありませんので、どちらが最適なタイミングかを決めるのは難しいといえます。自分の体調やスケジュールに合わせて楽しむのがよいでしょう。
食前のコーヒーのメリット
コーヒーに含まれるカフェインによって交感神経が刺激されるため、食前に飲むことで食欲を抑える効果が期待できます。また、血糖値の上昇を抑えるクロロゲン酸も、食前に飲んだほうがより効果的に働くと考えられます。
血糖値が急上昇すると、食後に強い眠気や倦怠感を感じることがあります。そのため、食前にコーヒーを飲んで血糖値の急上昇を抑えることをおすすめします。血糖値が急上昇してしまう原因や対策について、以下の記事で詳しく説明しているので是非参考にしてください。
食後のコーヒーのメリット
空腹時に飲むと胃を刺激してしまい、胸焼けや胃痛の原因になるため、慢性胃炎のある人や胃の不調を感じている人は食後がおすすめです。また、食後のコーヒーには、食事の余韻を楽しみ、リラックスしたり気分を切り替えたりするといった効果があります。
コーヒーは無理せず美味しく飲みましょう
コーヒーが健康寿命に貢献することは疑いがなく、健康習慣として適度に飲むことをおすすめします。しかし、体や味覚との相性もありますし、体調によっては飲みたくない日もあるでしょう。健康長寿はコーヒーだけが叶えるものではありませんので、無理をせず、自分にあった方法で健やかさを手に入れていきましょう。
この方にお話を伺いました
北品川藤クリニック 院長 石原 藤樹 (いしはら ふじき)
![石原 藤樹](https://www.yomeishu.co.jp/health/ishihara_fujiki.jpg)
医学博士。大学卒業後、信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長。2015年、北品川藤クリニックを開設。診療の傍ら「北品川藤クリニック院長のブログ」でほぼ毎日情報を発信し、人気ブログへと育てた。著書に『健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな!』(KADOKAWA)、『実年齢56歳、血管・骨年齢30代の名医が実践!コーヒーを飲む人はなぜ健康なのか?』(PHP研究所)などがある。