お腹が冷えると、なぜ下痢や腹痛が起こるのでしょう? 冷えは女性の悩みというイメージがありますが、近年は男性にも増えています。特に年齢を重ねるほど冷えてくるのがお腹です。
そこで、お腹が冷える原因と、それが引き起こす症状についてご紹介します。食事や日常習慣など、お腹の冷えの改善に有効な対策もお伝えしますので、体調管理に役立ててください。
お腹の冷えの原因は?
お腹が冷える原因は、生まれつきの体質から生活習慣などさまざまありますが、原因別に大きく「急性の冷え」と「慢性の冷え」に分けることができます。
急性の冷え
急性の冷えとは、何らかの原因で一時的にお腹が冷えている状態です。薄着をしている、夏の冷房やお風呂の湯冷めなどで体が外側から冷えた、冷たいもののとり過ぎで胃腸が冷えたなどの場合が多く見られます。
急性の冷えは寒気や腹痛、下痢などを伴いますが、症状は一時的なものですぐに回復することが多いのが特徴です。
慢性の冷え
慢性の冷えは、長い時間お腹の冷えが続いたり、繰り返しお腹の冷えが起こったりする状態で、やはり寒気や下痢・腹痛などの症状が現れます。
慢性の冷えには「胃腸が弱っている」場合と「体が弱っている」場合があり、生活習慣や体質的なものである場合がほとんどです。
胃腸の弱りからくるお腹の冷え
偏った食事や暴飲暴食、冷たい飲みもののとり過ぎなどは胃腸の働きや血流に影響し、お腹の冷えにつながります。
体を締めつける下着をつけていたり、姿勢が悪かったりする人、運動不足の人なども、血流の悪さから胃腸の冷えを招いてしまうことがあります。
体の弱りからくるお腹の冷え
慢性的な疲労や虚弱体質、老化、病気などで体が弱ると、全身を温める力が衰え、お腹の冷えを招いてしまいます。これが体の弱りからくるお腹の冷えです。腹痛や下痢だけでなく、頻尿や腰痛といったトラブルも起こりやすくなるといわれています。
中には、生まれながらの体質として体が冷えやすい人もいます。そのような人を、東洋医学では「虚証(きょしょう)」と考えます。
「虚証」の人は体力や抵抗力がなく、低血圧で疲れやすい傾向があります。子どもの頃から手足など末端に冷えを感じ、しもやけに悩まされる人や冷房が苦手な人も見られます。
この体質に男女差はなく、冷えも性別に関係なく生じます。熱を生み出す筋肉が多い分、男性のほうが体は冷えにくいのですが、筋肉が少ない人は女性と同様に冷えに悩まされることも多いでしょう。
生まれつき「虚証」に該当する体質ではなかった人でも、年齢を重ねていくうちに体が弱り、冷えを感じるようになったり、元気な人がその体の強さから暴飲暴食や働き過ぎを重ね、冷えをため込んだりしているケースもあります。
下記記事では「虚証」かどうかのセルフチェックができます。自分が「虚証」か気になった人は、ぜひ確認してみてください。
また「過緊張」になると、血管が収縮して血行が悪くなり、冷えが生じます。すると「虚証」のような体の弱い状態に陥りやすくなります。
過緊張とは、自律神経の1つである交感神経が活発に働き、過剰な緊張が続いている状態のことです。ストレスなど外部の影響もありますが、むしろ「完璧主義」「まじめ」「先のことまでいろいろと考えてしまう」といった自身の性格によって起こるもの。大人だけでなく子どもにも多くみられます。
下記記事では、過緊張の症状と効果的な対策をご紹介しています。こちらも参考にしてください。
お腹の冷えで起こる症状は?
東洋医学では、病気は体の冷えたところから入り込むとされます。お腹には消化器や泌尿器、子宮があり、これらの臓器がうまく働かなくなることで下記のような不調が現れやすくなります。
消化器トラブルと基礎代謝の低下
お腹が冷えると、自律神経の1つである交感神経が活発になって血行が悪くなり、腸の働きが低下します。その結果、下痢や腹痛、消化不良、胃痛といった消化器のトラブルが起こりやすくなり、体に必要な栄養が十分にとれなくなってしまいます。
内臓全体の働きも落ちるので基礎代謝が低下し、太りやすくなる場合も。逆に栄養が十分にとれずに瘦せてしまう人もいます。
免疫力や気力の低下、老化
腸には多くの免疫細胞が存在します。そのため、冷えにより免疫細胞の活動が低下すると免疫力も低下し、感染症にかかりやすくなることもあります。
また、東洋医学では「腎(腎臓とその働きを含めたもの)」は生命力の源とされます。お腹が冷えて「腎」の働きが低下すると、気力の低下や老化にもつながります。
女性は生理痛が悪化することも
女性のお腹には子宮があり、お腹が冷えると子宮への血流も悪くなります。生理痛がひどくなるだけでなく、子宮筋腫や子宮内膜症、卵巣嚢腫といったさまざまな婦人科系のトラブルの悪化要因になることもあります。
東洋医学から見た冷えの症状
東洋医学では、冷えをいくつかのタイプに分けて考えます。人によってはこちらの症状の方がしっくりくる場合もあるので、代表的なものを知っておきましょう。
瘀血(おけつ)
東洋医学では、手で直接おへその下に触れて「冷たい」と感じたときは、血の巡りの低下によって体が冷えている「瘀血(おけつ)」と考えます。顔色が悪かったり、肩こりや口の渇きに悩まされたりします。
冷えのぼせ(気逆)
30、40代になると、上半身はほてるのに下半身は冷えている、いわゆる「冷えのぼせ」の状態になる人が増えます。顔が異常にほてって冷やすと楽になる、イライラしやすいという人は、その可能性があります。
東洋医学では、通常上から下に流れる「気」が上へと逆流する「気逆(きぎゃく)」のタイプといいます。
水毒
すねを指でつまんで痛みを感じたら、体の水はけが悪くなり、「水」が滞って冷えてしまう「水毒(すいどく)」の可能性が。
大量に汗をかいたり、逆に汗をかかなくなったり、体がむくんだりします。気圧や湿度の影響で不調が出やすいという特徴もあります。
お腹の冷えの対策は?
お腹の冷えの予防や対策として、日常生活から取り組めることがいろいろあります。ただし、これら全てに取り組むのは無理があり、あれもこれもと欲張り過ぎると心身の負担に。
無理をせず、暮らしの中に取り入れやすいことや自分にできることをコツコツと積み重ねていくようにしましょう。
腹部と腰回りを温める
お腹の冷えの多くは外側から温めることで改善できます。部屋を暖かくしたり、服を1枚多く着たりするなど、腹部と腰回りをケアしましょう。
カバーする範囲が狭いと冷えにつながるので、お尻やお腹をすっぽり覆うデザインの服を選びましょう。素材は速乾性のものがよいでしょう。
秋冬は腹巻きやカイロを活用するのも効果的です。
なお、カイロは貼る場所によって効果が異なります。下記記事では、冷えや腰痛に効果的な貼る場所・ツボや、使う際の注意点などを解説しています。あわせて参考にしてください。
空調の利いた環境で過ごすことが多い人では、夏でも薄着は避けるのが正解。膝掛けや羽織るもの、薄手の腹巻などでお腹を冷やさない対策が必要です。
また、サイズが合わないきつい下着は血液の流れを滞らせるので、体に合ったサイズを選ぶことも大切です。
食べものは「冷え」と「温め」のバランスが大切
冷え対策というと、体を温めるものを食べて冷やすものは避けると考えがちですが、食養生の基本は「中庸(ちゅうよう)」です。暮らしている地域の気候や環境に合わせて、冷えと温めのバランスをとることが大切です
体内で熱をつくるためには、栄養バランスに偏りがない食事をとり、体に必要な栄養をしっかり摂取すること。
食べ方も大切で、よく噛んで食べると、消化のための内臓の活動で代謝が上がる「食事誘発性熱産生」が高まり、体が温まりやすくなります。
また、水分をとり過ぎると体に水分がたまり、冷えにつながります。ゴクゴク飲まず時間をかけて飲むようにすると、飲み過ぎの予防になります。
体を温めるおすすめ食品
タンパク質、ビタミンB1・C・E、鉄分などを含む食品は、熱を生み出したり血行を促したりするのに加え、鉄欠乏性貧血に有効な栄養素でもあります。
血管を拡張するポリフェノールを含むココアや赤ワイン、エネルギー代謝を高める発酵食品も、体を温める効果があるのでおすすめです。
体に冷えを感じるときや体を冷やす性質の食材をとるときは、シナモンやサフラワー、クミン、コリアンダーなど、体を温めるスパイス・ハーブ類を取り入れるとよいでしょう。
冷たいものは控えめに
胃腸が活発に動くのは、体温と同じくらいの温度の食べものを食べたときです。冷えを感じているときやエアコンなどが利いた環境にいるときは、アイスクリームやジュースなどよく冷えた食べものや飲みものは控えましょう。
下記記事では冷え性(冷え症)対策におすすめの食べもの&栄養素と、体を温める飲みもの&飲み方について解説しています。こちらも参考にしてください。
運動をして筋肉をつけるのもおすすめ
筋肉を動かさなかったり筋肉量が少なかったりすると、血液やリンパの流れが滞り、熱も十分につくれなくなるため、冷えやすくなります。脂肪は熱がつくれないので、脂肪が多いのも体を冷えやすくします。
ほどよい筋肉を維持し、余計な脂肪をつけないことを意識しましょう。
また、下半身には大きな筋肉があり、その中を静脈やリンパが通っています。下半身の筋肉が衰えると、血液やリンパの循環を促すポンプのような役割が果たせなくなり、血行の低下やむくみの原因になるので、意識して鍛えるようにしましょう。
どうやって鍛えればいいのかわからない、という人は、下記記事を参考にしてください。自宅で今すぐ始められる筋トレとストレッチをご紹介しています。
入浴時はしっかり湯に浸かる
入浴も体温を上げるためには必要な要素です。シャワーではなく湯船に浸かることで、血行や代謝が促がされます。リラックス効果もありますし、自律神経が整うのも良い影響となります。ただし、冷えのぼせの人は半身浴にし、心地よいと感じる時間内で十分です。
下記記事では、冷えを解消するための入浴法を解説しています。こちらもぜひ参考にしてください。
睡眠の質を高める
睡眠不足や睡眠の質の低下は、自律神経の乱れや疲労の蓄積につながります。睡眠不足になると成長ホルモンが十分に分泌されないため、熱を生み出す筋肉もつくられにくくなります。
就寝の1時間ほど前にお風呂に入り、深部体温を上げておくと、体温が下がるのと共に心地よく入眠できます。
睡眠の質向上のためは、寝る前にスマホを見たり明るい部屋で過ごしたりするなど、心身の刺激となることは避けたほうがよいでしょう。
ストレスをためない
心身にストレスがかかると交感神経が優位になり、過緊張の状態になります。すると筋肉や血管が収縮し、血行が悪くなって体の冷えにつながります。
自分なりのリラックス法を見つけ、ストレスはこまめに解消していきましょう。
下痢・腹痛の改善にはハーブがおすすめ!
お腹が冷えると起こりやすい下痢や腹痛に、有効なハーブやスパイスがあります。料理に加えたり、ハーブティーにして飲んだりするとよいでしょう。
ただし、妊娠中の人や子どもが使ってはいけないハーブもあります。使用する際には、かかりつけ医に相談しましょう。
- 〔胃腸の改善に効くハーブ〕
- ・乾燥させた生姜、山椒...胃腸を温め、冷えによる腹痛や下痢の改善に有効
- ・ラズベリーリーフ、オオバコ、ペパーミント、フェヌグリーク、レモンバーベナ...胃腸の働きを助ける
- ・ジャーマンカモミール、リコリス(甘草)...ストレスを和らげる
- ・ローズヒップ...下痢を抑える
- ・フェンネル...胃腸のぜん動運動を整える
下記の記事では胃腸にやさしくてリラックス効果もある4つのハーブティーをご紹介しています。あわせて参考にしてください。
生まれつき冷えやすい体質の人や、年齢を重ねて冷えに悩まされるようになった人にとって、冷えは生きていく上でずっとかかわっていかなければならない大きな課題です。しかし、有効な手当ての方法を知っておけば、それだけ体や気持ちの負担を軽減することが可能になります。
この記事で紹介した対策を、ぜひ役立ててください。
この方にお話を伺いました
目黒西口クリニック 院長 南雲 久美子 (なぐも くみこ)

日本東洋医学会認定漢方医学専門医、日本消化器内視鏡学会認定医、認知症サポート医、介護支援専門員。大学卒業後、東京慈恵会医科大学内科研修・入局、関東逓信病院(現NTT東日本関東病院)消化器内科非常勤嘱託を経て、北里研究所東洋医学総合研究所にて、漢方・鍼灸を学ぶ。1996年に東洋医学と西洋医学を融合して治療する目黒西口クリニックを開業。著書に『新版 冷え症・貧血・低血圧』(主婦の友社)、『タイプ別 冷え症改善ブック』(家の光協会)、『名前のない病気 不定愁訴』(家の光協会)がある。