【和ハーブ連載】実は数少ない日本原産野菜の一種、三つ葉(ミツバ)
NEW

【和ハーブ連載】実は数少ない日本原産野菜の一種、三つ葉(ミツバ)

和ハーブ協会の古谷暢基(ふるや まさき)さんがさまざまな和ハーブを紹介する連載記事です。今回取り上げるのは、お吸い物やかき揚げでおなじみの三つ葉(ミツバ)。実は数少ない日本原産野菜の一種だとご存知ですか? 野生種の魅力や間違えやすい毒草なども合わせて解説いただきます。

〔目次〕
ミツバは数少ない"日本原産野菜"
香り豊かで栄養価の高い野生のミツバ
忘れられた身近な野生和ハーブ
ミツバに似ている毒草に注意

ミツバは数少ない"日本原産野菜"

ミツバは数少ない

副菜食材として使われる「野菜」は、食卓には欠かせない健康食材です。しかしながら、現代日本の土地・気候で育てられて食される野菜たちのほとんどは、実は海外由来であることはご存じでしょうか?

例えばニンジン・タマネギなどは中央アジア原産、ナス・ウリ類・れんこんなどは南アジア原産、ジャガイモ・トマト・カボチャ・サツマイモなどは中南米原産です。小松菜・壬生菜・野沢菜・広島菜などの各地方で特産されるアブラナ科の青菜類も、多くは地中海周辺が原産です。

寒い時期に鍋の具材や漬物で食べられる同じアブラナ科のハクサイは日本原産のイメージが強い野菜ですが、明治時代以降に中国から導入されたものです。農林水産省や地方自治体が認定する「伝統野菜」ですら、ほとんどが古い時代に大陸から導入された外来種が原種となります。

ちなみに、日本野生原種がルーツとなっているものは、セリ・ウド・ワサビ・サンショウ・ジネンジョ・ジュンサイなどわずか20種類ほど。これら数少ない日本原産の野菜の中で、多くの地域の人里近く、それも1年の中で長い期間にわたり採取が可能な和ハーブが、今回の主役「三つ葉(ミツバ)」です。

香り豊かで栄養価の高い野生のミツバ

香り豊かで栄養価の高い野生のミツバ

ミツバはセリの仲間で、北海道から沖縄までの日本全国の湿った土地や日陰に生える草本植物です。江戸時代ぐらいから野菜としての栽培がスタートし、現在は水耕栽培されたものを、スーパーなどで通年にわたって手に入れることができます。

野生のミツバは、特に春先、新芽から勢いよく伸びてくる時期が、香りが強くて背丈も高い上に茎や葉がやわらかく、食べやすさ・味・芳香・収量のバランスが最高となります。その後も味・香り・収量は落ちるものの、秋までは食べることができます。

茎葉だけでなく、根も美味しく、薬効も多い部位です。天ぷら、炒め物、スープのだしなど、さまざまな調理法で楽しめます。

ビタミン類やミネラルなどの栄養価やテルペン類などの特有の香り成分の含有量は、栽培種より野生種のほうが高くなります。保護され人工肥料で育てられる水耕栽培種に比べ、自然の土壌からしっかりと栄養素を吸収する上に、紫外線や微生物などの環境因子に対抗する成分である「ファイトアレキシン」を体内に増やすからです(これは植物の種類によっては「アク」や「苦み」を増やすということにも繋がりますが、もともとクセが少ないミツバは、比較的それらが少なくなる傾向があります)。

忘れられた身近な野生和ハーブ

忘れられた身近な野生和ハーブ

身近で、美味しくて滋養も高いミツバですが、現代においては野生の姿は忘れられ、生活圏に生えていることも、あまり意識されていません。

私が全国各地で行っている和ハーブ観察・散策講座では、野生のミツバを見つけると、参加者の方々に「この植物は何か分かる方いらっしゃいますか?」と聞くようにしています。すぐにミツバと正解できる人の確率はそれほど高くなく、あるいは「ミツバって野生もあるのですか?」という質問をされる方もいらっしゃいます。しかしその場で茎葉をちぎれば、その香り高さに感動の声が上がります。

観察の際に3枚に見える小葉は、実は1枚の葉が3つに分裂した三出複葉(さんしゅつふくよう)です。野生のものは小葉1枚で10㎝を超える大きさのものがあり、スーパーで売られているミツバのイメージを覆します。夏頃に、同じセリ科のニンジンに少し似た、複散形花序(ふくさんけいかじょ)の白い小さな花を咲かせます。

ミツバに似ている毒草に注意

ミツバに似ている毒草に注意

左からウマノミツバ、キツネノボタン

ミツバに似ている毒草は少なくないので、採取する際には注意が必要です。「ウマノミツバ」、「ウマノアシガタ」、「キツネノボタン」などがあり、生息環境も同じで、よく隣り合って生えています。

これらの毒草に比べ、ミツバの複葉はきれいに3枚に分かれていることが多く、1枚1枚の葉のギザギザがあまり深くありません。そして真ん中の小葉にのみ、小葉柄(葉を軸とつなげる細い茎のようなもの)があることで見分けられます。さらにこれらの毒草をちぎっても芳香はまったく感じられないことも、見分けのポイントとなります。

これから春になり、3~4月の野生のミツバは、まさに香りの塊といえます。もし手に入ったら、まずはさっと湯がいて冷水で絞り、だしつゆでシンプルに食べて、その素晴らしい香りと味を堪能してみてください。

過去の記事

第14回
【和ハーブ連載】新クロモジ三兄弟は色違いのシロモジ&アオモジ
2023.02.06
第13回
【和ハーブ連載】ワラビが侵入道具に! 忍者の驚き薬草活用
2022.08.19
第12回
【【和ハーブ連載】ヨモギの効果とは?身近な薬草の知られざる力
2022.06.06
第11回
【和ハーブ連載】江戸の花見は長かった!? 桜の歴史と生き残り戦略
2022.03.25
第10回
【和ハーブ連載】不老長寿の和柑橘「タチバナ」が伝える悲しい伝説
2022.02.15
第9回
【和ハーブ連載】「和柑橘」とは?滋養を豊富に取り入れる活用法
2021.12.10
第8回
【和ハーブ連載】「クサギ」の興味深い食文化と伝統的な食べ方
2021.10.22
第7回
【和ハーブ連載】命を支えた「かてもの」文化。誕生背景と代表食材
2021.07.09
第6回
【和ハーブ連載】いくつわかる?「和ハーブ検定(生活・文化編)」に挑戦!
2021.02.02
第5回
【和ハーブ連載】いくつわかる?「和ハーブ検定(食・薬編)」に挑戦!
2020.12.01
第4回
【和ハーブ連載】植物は丸ごといただく!人と植物の関係と活用法
2020.8.21
第2回
【和ハーブ連載】和の香りの王様クロモジと「クロモジ三兄弟」
2020.2.21
第1回
【和ハーブ連載】日本古来のハーブ「和ハーブ」の種類とクロモジ
2019.10.25

この方にお話を伺いました

(一社)和ハーブ協会代表理事、医学博士 古谷 暢基 (ふるや まさき)

古谷 暢基

2009年10月日本の植物文化に着目し、その文化を未来へ繋げていくことを使命とした「(一社)和ハーブ協会」を設立、2013年には経済産業省・農林水産省認定事業に。企業や学校、地域での講演、TV番組への出演など多数。著書は『和ハーブ にほんのたからもの〈和ハーブ検定公式テキスト〉』(コスモの本)、『和ハーブ図鑑』((一社)和ハーブ協会/素材図書)など。国際補完医療大学日本校学長、日本ダイエット健康協会理事長、医事評論家、健康・美容プロデューサーでもある。

SHARE

   
    
北欧、暮らしの道具店
絵本ナビスタイル
Greensnap
水戸市植物公園
コロカル
HORTI(ホルティ) by GreenSnap
TOP