和ハーブ協会の古谷暢基(ふるや まさき)さんによる不定期連載です。第4回は、植物によって生かされている私たちが、どのように植物を活用していけばよいのか、お話しいただきました。
今回は、植物の特徴と、それらの成分を生活の中でとり入れる方法をご紹介します。
「生産者」の植物
植物たちは厳しい自然界を生きていくために様々な化学成分(有機化合物)を体内に作っています。それらは2つのグループに大きく分かれます。
- 生きていくために絶対に必要な成分(一次代謝産物)
- より健やかに安全に生きるために環境や状況に対応するための成分(二次代謝産物)
1.の一次代謝産物は、生きていくためのエネルギーや植物の身体構成物質に関係するもの。人間でいう三大栄養素と共通するイメージです。
具体的には、光合成によって作られる「糖」を出発点に、「タンパク質」「脂質」「ATP(アデノシン三リン酸)」など。
一方、2.の二次代謝産物は一次代謝産物を原料に作られるもの。前回ご紹介したいわゆる「ファイトアレキシン」のことです。
紫外線や酸化に対抗する「アントシアニン」などの色素成分や、人にとっては"癒しのアロマ"だが微生物にとっては"毒ガス"となる「リナロール」などの揮発成分が、その代表です。
植物によって作られる物質は決められていますが、環境に応じてその生産量や比率は変化します。
植物の凄いところは、このような自分が生きていくために必要な物質のほぼ全てを、"自家生産"で賄えてしまうところです。そのため、自然界では「生産者」と呼ばれます。
植物の恩恵を受ける動物
一方、動物は生きていくための必須栄養素を体内でイチから生産できないため、植物が作り出す成分に頼らざるを得ません。
言い換えれば植物が存在しなければ、人間を含む動物はその生命を維持することができないという事。自然界では「消費者」のポジションに甘んじます。
そもそも、食物より大切な酸素も植物が大気に送り出しているわけですから、まさに人を含む動物たちは植物を"尊敬"しなければなりませんね。
植物を効果的にとり入れるには
さて、植物の恩恵を受けることで、健康や美容への活用に留まらず、命を維持している私たち人間。その成分はどのようにして身体にとり入れるべきでしょうか?植物の立場に立って考えれば見えてきます。
植物は丸ごといただく!
植物の有効成分を身体の中に入れたい場合、「丸ごと食べる」ことがもっとも生物として理に適っており、また最大限にとり入れることのできる方法です。
ですが植物も生き物ですから、他の生物には基本的には食べられたくないはずです。特に食べられたくない、"栄養生産工場"の葉や茎や、"貯蔵倉庫"の根や種子などは、細胞を守るために堅い食物繊維(セルロースなど)で覆われています。
この食物繊維、動物の消化酵素では分解されない構造をしています。私たちが享受したい植物の恵みの多くは細胞の中にあるので、調理で切ったり磨り潰したり、口の中でしっかりと咀嚼したり、物理的に食物繊維を破壊する作業が必要です。
美味しくいただく方法
丸ごと食べる以外にも、成分の可溶性の特徴を活かした抽出法があります。
例えばハマナスの花弁などに含まれる、アントシアニンや水溶性ビタミン(B、C)などの水溶性成分は、ハーブティーとして飲んだり、茹でてスープにしたり、水分系調味料(ビネガーや醤油など)に漬け込むことによって摂取できます。
同じくカキドオシの茎葉などに多く含まれるカロテノイドや脂溶性ビタミン(A、D、E、K)などの脂溶性成分については、オイルに漬け込んだり(和ハーブオイル)、肉や魚など脂が多い食材と一緒に調理したり、炒めることによって、摂取することができます。
また濃度が高いアルコールに漬け込むと、水溶性・脂溶性にかかわらず多くの成分が抽出できます。そのためハーブ酒や果実酒などにして、直接飲む、または調味料として使うのがお薦めです。
和ハーブの王様、クロモジの活用方法
さて、クロモジの葉の素晴らしい香りとクセのない味を楽しむには、まずは食材として活用するのがお薦めです。
柔らかい若葉はサラダやおひたし、または白身魚の刺身に巻いてカルパッチョなどにするのもオシャレ。
ちょっと硬めの夏以降の葉でも、ジュノベーゼなどのペーストや、乾燥させて砕けやすくした乾燥葉をハーブソルトや揚げ粉などに使うことで、その栄養素を丸ごと享受することができます。
葉だけでなく枝や果実にも多くの成分が含まれます。
乾燥した枝葉は和ハーブティーとしても王者級。またホワイトリカーに1か月ほど漬け込めば、お酒好きも唸る香りと旨味、そして美しいブラウン色を放つ和ハーブ酒が完成です。
お風呂にも活用
素晴らしい香りと有効成分を持つクロモジは、"日本の宝の習慣"お風呂文化にも欠かせません。日本各地で枝葉が生・ドライ問わず入浴剤として活用された文化が残っています。
現代に至り、クロモジ精油をバスソルトの原料や、あるいは石鹸やクリームの原料に使うことで、皮膚にその有効成分を作用させることが可能です。
次回は、「これを知っていたらすごい!」少し珍しい和ハーブの知識について、和ハーブ検定の問題からお話しします。
過去の記事
この方にお話を伺いました
(一社)和ハーブ協会代表理事、医学博士 古谷 暢基 (ふるや まさき)
2009年10月日本の植物文化に着目し、その文化を未来へ繋げていくことを使命とした「(一社)和ハーブ協会」を設立、2013年には経済産業省・農林水産省認定事業に。企業や学校、地域での講演、TV番組への出演など多数。著書は『和ハーブ にほんのたからもの〈和ハーブ検定公式テキスト〉』(コスモの本)、『和ハーブ図鑑』((一社)和ハーブ協会/素材図書)など。国際補完医療大学日本校学長、日本ダイエット健康協会理事長、医事評論家、健康・美容プロデューサーでもある。