【和ハーブ連載】命を支えた「かてもの」文化。誕生背景と代表食材
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【和ハーブ連載】命を支えた「かてもの」文化。誕生背景と代表食材

和ハーブ協会の古谷暢基(ふるや まさき)さんによる不定期連載。 第7回は、和ハーブが「食」という人の命の根本を支えるジャンルにおいて、私たちの祖先を救ってきた「かてもの」文化についてお話しいただきました。

野生素材を食料とする文化「かてもの」

かてもの

「かてもの」とは、「糧(かて)となるもの」の意味で、飢饉に備えて普段は積極的に食さない野生素材を食料とする文化を指します。

食材・食品の大量生産システムやインフラが発達していなかった江戸時代以前、人々への食糧供給は不安定な要素が多くありました。

特に日本人の主食たる米、つまり「イネ」の原産地はインドであり、必ずしも日本の土地に適している作物ではありません。東北地方などの寒冷地域では、大きな飢饉が起きることもしばしば。そこで生まれたのが「かてもの」文化です。

「かてもの」文化の誕生の背景には、平安時代以降の仏教文化の広まりにより獣肉類を大っぴらに食べることが避けられてきた歴史があります。

これにより家畜や遊牧などによる食肉の調達システムが発達せず、食材の大部分は年によって収穫量が不安定な農作物が占めるように。「かてもの」は、そんな農作物収穫が不調で十分な食料源とならない状況において生まれたのです。

ちなみに、イネに限らず、「和食」に多く使われるダイズやムギ、ソバ、野菜などの植物食材は、意外にもほとんどが大陸から導入されたものです。

「かてもの」についての書

かてもの(復刻本)表紙

『かてもの』(復刻本)表紙

「かてもの」の種類、またその調理法などノウハウをまとめた書は、各地に残されています。

その代表と言えるものが、寒冷地で飢饉も頻繁であった山形県南部の米沢藩で作成された、その名もズバリ『かてもの』。編纂を命じたのは、近世の名君として現代ビジネス書などでもとり上げられる藩主の上杉鷹山です。彼は野生する"食の和ハーブ"の研究とともに、土地に合った植物の栽培の研究・推進も行いました。

『かてもの』をはじめとした各地の書に記されている素材の大部分は野生植物"食の和ハーブ"。その他、キノコ類や獣肉などの記載があることも。

次からは、「かてもの」の代表的な食材を紹介します。

「かてもの」の代表食材

ウコギ

ウコギの垣根

ウコギの垣根

上杉鷹山が飢饉対策として、一般家庭に対しても大いに栽培を推奨した和ハーブ食材が、「ウコギ(ウコギ科)」です。

香りが良く薬効も高いと同時に、トゲがあり成長が早い中低木であることから、家の垣根にも適しているウコギ。"食べられる垣根"として、民家で育てられていました。

米沢では現在も「ウコギコロッケ」や「ウコギソフトクリーム」などが販売され、地元を代表する名物食材としての存在感を残しています。

ウコギのおにぎり

ウコギのおにぎり

スベリヒユ

『かてもの』よりスベリヒユ記載ページ

『かてもの』よりスベリヒユ記載ページ

『かてもの』で取り上げられる食材の代表として、山形県民の命を長年に渡り、支え続けてきた「スベリヒユ(スベリヒユ科)」。多肉植物で、直射日光下の乾燥地という厳しい条件でも繁殖し、他の土地では畑の厄介な雑草として知られています。

山形では現在でも「ひょう」の愛称で家庭の常備菜として愛されており、春や夏は新鮮な葉茎を生のままでお浸しや酢の物にして食します。また、茎葉は乾燥させると保存食材になるため、冬場の食物繊維・ビタミン・ミネラル源として利用されてきました。

スベリヒユの花

スベリヒユの花

ちなみにスベリヒユは別名「五行草」といい、薬効成分が豊富な和のハーブでもあります。

"葉は緑、茎は赤、花は黄、根は白、果実は黒"と部位別に5つの色素を発現させますが、特に茎の赤い色素は「ベタレイン」という特有の成分でその健康効果が注目されています。さらに、スベリヒユの特徴であるほのかな酸味の素となるリンゴ酸や、現代人が不足する不飽和脂肪酸のオメガ3も豊富に含みます。

スベリヒユは、今の私たちにとっても積極的にとりたい食材なのです。

次回は、全国の伝統食材として使われてきた、一般にはあまり知られていない和ハーブとそのレシピを紹介します。美味で滋養豊富な"日本の土地の知恵"をお楽しみに。

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この方にお話を伺いました

(一社)和ハーブ協会代表理事、医学博士 古谷 暢基 (ふるや まさき)

古谷 暢基

2009年10月日本の植物文化に着目し、その文化を未来へ繋げていくことを使命とした「(一社)和ハーブ協会」を設立、2013年には経済産業省・農林水産省認定事業に。企業や学校、地域での講演、TV番組への出演など多数。著書は『和ハーブ にほんのたからもの〈和ハーブ検定公式テキスト〉』(コスモの本)、『和ハーブ図鑑』((一社)和ハーブ協会/素材図書)など。国際補完医療大学日本校学長、日本ダイエット健康協会理事長、医事評論家、健康・美容プロデューサーでもある。

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