【和ハーブ連載】「クサギ」の興味深い食文化と伝統的な食べ方
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【和ハーブ連載】「クサギ」の興味深い食文化と伝統的な食べ方

和ハーブ協会の古谷暢基(ふるや まさき)さんによる不定期連載。前回記事では、飢饉のときに私たちの祖先の命を救ってきた「かてもの」文化についてお話しいただきました。

今回のテーマも同じく「食の和ハーブ」文化について。まずは基本を押さえたうえで、いくつかの地域で伝統的に食べられてきた「クサギ」について、歴史や食べ方をご紹介します。

"美味で滋養豊富な土地の知恵"を感じながら読み進めてみてください。

〔目次〕
「食の和ハーブ」の基本
パイオニアプランツの代表種「クサギ」
各地に伝わるクサギの食べ方
染料としてのクサギ

「食の和ハーブ」の基本

和ハーブ協会では、日本各地で江戸時代以前から食されてきた植物素材を「食の和ハーブ」と定義し、以下のようにジャンル分けしています。

なお「食の和ハーブ」には、野生種・栽培種・外来種のすべての植物を含みます。

〔和菜〕
  葉・茎・根に食物繊維やビタミンなどの機能性成分を多く含み、「副菜(おかず)」として食べられる伝統植物食材。このうち栽培種を野菜(蔬菜:そさい)、野生のものを山菜や野草などと呼んで区別する。
〔和ハーブ・和スパイス〕
  辛味や香りを持ち、薬味やあしらいとして使われる伝統植物食材。食欲増進や殺菌の効果効能を持つものも多い。茎葉の部分をハーブ、果実(種子)・根・花・樹皮などをスパイスと呼ぶ。
〔和穀(穀物)〕
  果実(種子)のうち、でんぷんを多く含む伝統植物食材。エネルギー源である「主食」として食べられる。
〔和果(果物)〕
  果実のうち、単糖類などを多く含んで甘みがある伝統植物食材。「デザート」や「おやつ」として食べられる。
〔薬草〕
  健康維持の目的や、体調が悪い時などに食べられる(もしくは茶材として飲まれる)伝統植物食材。

パイオニアプランツの代表種「クサギ」

クサギの若葉

クサギの若葉

「クサギ」は、シソ科の中高木で、"パイオニアプランツ"の代表種。春の新芽はアクが少なく柔らかいので、おいしく食べられる「食の和ハーブ」です。

パイオニアプランツ(Pioneer Plants)とは文字通り、自然界で開拓者的な役割をする樹木。乾燥や高温に強く、栄養素が少ない裸地(らち)に好んで生え、森林を形成する植物たちのために土壌や日照などの環境を整えます。

クサギの名の由来は「臭い木」で、葉や葉柄(ようへい:葉と茎を繋いでいる部分)をちぎると非常に強い香りを放ちます。ただし、その香りはピーナッツのように香ばしく、いわゆる"悪臭"という印象は少ない和ハーブです。

各地に伝わるクサギの食べ方

クサギは北海道から沖縄まで全国に広く分布しますが、メインの食材として食べられる地方は限られています。

江戸後期に編纂された『紀南六郡志』によると、和歌山県では一度地上部を刈り取り、翌春に土から出てくる新芽を高級山菜として扱っていたという記録があります。ほかにも、北陸地方には大豆などと煮込む伝統料理法が伝わっています。

また、岡山県の山間部では、春の新芽を湯がいて乾燥させたものを、植物が少ない冬までの年間保存食にしていました。そして、これを活用した「クサギ菜飯」は、今でも盛んに食べられる郷土料理です。

乾燥させたクサギ

乾燥させたクサギ

〔クサギ菜飯の作り方〕
水で戻したクサギを人参・ゴボウ・卵などと一緒に醤油やみりんなどで甘辛く炒める。
別の鍋で、ヤマドリ(現在は鶏肉)を醤油や酒を入れた煮汁で茹で上げる。
ご飯の上に1と2を綺麗に盛り付け、鶏の旨味がタップリと出ている煮汁を掛け回す。

クサギ菜飯

クサギ菜飯(クサギナのかけ飯)

そして実は、九州南部の宮崎県椎葉村周辺にも、同じ「クサギ菜飯」が存在します。地理的にまったく連続性が無く、距離もある2つの地域に、名称もレシピも同じ食文化が存在することは非常に興味深い現象。

「クサギ菜飯」が、岡山の山間部と宮崎県椎葉村に同時に存在した理由を考えるとき、平家の落人文化の系譜を辿っていくと、面白い説が浮かび上がってきます。

平家落人たちの足跡と一緒に散在する「クサギ菜飯」の文化

岡山県は平家ゆかりの土地で、「クサギ菜飯」文化はもともと岡山県で根付いていたと考えられます。そして、後述する「平家落人伝説」で岡山県に住んでいた一族が宮崎県の椎葉村に逃れて隠れ住んだ際に、その食文化を持ち込んだのではないでしょうか。

故郷を追われた人々が、逃げ込んだ先で郷土にもあったクサギを見つけ、故郷の食文化を懐かしんで綿々と受け継いできたのではないかと考えられます。

遠く離れた地域での不思議な食文化の共通性は、平家落人伝説の隠された事実を現代に伝えているような気がしてたまりません。

クサギの果実

クサギの果実(岡山県・大芦高原にて10月中旬撮影)

宮崎県椎葉村の平家落人伝説

宮崎県椎葉村は、平家落人伝説の代表的な地域。壇ノ浦の戦いで敗れた平家の武士たちが逃げ込んだのが、山深い椎葉の秘境だったと言われています。

やがて鎌倉幕府にその存在を知られると、幕府は弓で有名な那須与一に追手を命じます。このとき、病気の与一に代わって討伐に出たのが弟の大八郎でした。

椎葉の土地に辿り着いた大八郎は、現地で慎ましく暮らす落人たちを見て討伐を止めます。そして、平良清盛の末裔といわれる鶴富姫と恋に落ち、子どもを授かるのでした。

鶴富屋敷の前でご説明をお聞きする様子

鶴富屋敷の前で平家落人伝説の説明を聞 く「GENTEN旅」参加者(GENTEN旅は、和ハーブ協会主催のフィールドワークを中心にした体験型講座。地域の植物名人から貴重な知識や技術を学べる/2016年10月撮影)

しかし永住を決意した彼のもとに届いたのは、鎌倉幕府から兵をまとめて帰るようにという指令。「生まれた子が男子ならわが故郷下野(栃木県)の国へ、女ならこの地で育てよ」という言葉を残し、大八郎は後ろ髪を引かれる思いで鎌倉へ戻ります。

生まれた子どもは可愛い女の子で、姫はその子孫に「那須」の姓を名乗らせ、今でもこの地域には那須姓の方が沢山住んでいます。

染料としてのクサギ

クサギの花

クサギの花

クサギの「食の和ハーブ」以外の用途として重要なのが染料です。

夏に咲く花は"臭木"という名前に反して、ジャスミンのような華やかな香りがします。そしてこれがアゲハチョウなどの昆虫により受粉すると、濃い青紫に光沢が入った宝石のような果実がたわわに実ります。

また、果実を支える萼(がく:花のもっとも外側にある、葉が変形した部分)は紫色の花びらが開いた美しい形状をしており、知らない人はこれを花だと勘違いするほどです。

クサギの果実の色素は「トリコトミン」といい、媒染無しで濃い青色から浅葱色の染色が可能。萼からは灰褐色の色素が抽出できます。

クサギの果実と萼

クサギの果実と萼

遠く離れた土地で、同じ食べ方がされてきたクサギ。

次回は、日本各地の「食の和ハーブ」文化をさらに掘り起こしてご紹介予定。国外の有用法との関係にも触れつつ、和ハーブの新たな未来的活用法を探っていきたいと思います。

過去の記事

第7回
【和ハーブ連載】命を支えた「かてもの」文化。誕生背景と代表食材
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第6回
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第2回
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第1回
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この方にお話を伺いました

(一社)和ハーブ協会代表理事、医学博士 古谷 暢基 (ふるや まさき)

古谷 暢基

2009年10月日本の植物文化に着目し、その文化を未来へ繋げていくことを使命とした「(一社)和ハーブ協会」を設立、2013年には経済産業省・農林水産省認定事業に。企業や学校、地域での講演、TV番組への出演など多数。著書は『和ハーブ にほんのたからもの〈和ハーブ検定公式テキスト〉』(コスモの本)、『和ハーブ図鑑』((一社)和ハーブ協会/素材図書)など。国際補完医療大学日本校学長、日本ダイエット健康協会理事長、医事評論家、健康・美容プロデューサーでもある。

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