新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大はワクチンの接種が進んできているといえども、未だ予断を許さない状況。感染対策のために、おうち時間やテレワーク(リモートワーク、在宅勤務)が続き、ストレスや不調を感じている方も多いと思います。
テレワーク下でストレス・不調を感じていた夏太郎さん(仮名)の症状を参考に、生活の中でできるセルフケアを確認しましょう。
テレワークによるストレス・不調【夏太郎さんの症状】
もともと運動が好きでジムにも通っていた夏太郎さん。テレワークに加え、感染予防のために昨年からジムにも行かなくなり、体調不良と体重増加を訴えて、「緑の診療所」を受診してきました。
- 〔夏太郎さんの症状〕
- みぞおちから脇腹にかけて張りと鈍痛を感じるが、胃カメラや血液検査での異常はなし
- 胃腸科で処方された胃薬が効かない
- 食欲はあり、仕事中につい何かを食べてしまう
- テレワーク前に比べ体重が3kg増えた
- 集中力が続かなく、イライラしやすくなった
- 眠れるが熟睡感がなく、朝、気怠さを感じる
- 寒がりではないが、手足の先が冷える
このような体調不良は西洋医学では異常なしと診断されるため、治療法はありません。しかし漢方では、これをストレスによって気(元気のもととなる生命エネルギー)の巡りが悪くなったときの典型的な症状とし、治療対象であると考えます。
夏太郎さんには、気の巡りを促す漢方薬を処方するとともに、セルフケアをアドバイスしました。ストレスの要因は生活環境の変化で、今後も長期的に続くことが予想されます。このような場合、セルフケアの果たす役割は大きく、漢方薬よりも重要なくらいです。
夏太郎さんと同じような症状に心当たりのある人は、今すぐ気の巡りをよくするセルフケアを実践しましょう。
気の巡りを良くするセルフケア
気の巡りを良くするポイントは心身両面のリフレッシュ。運動やストレッチに加え、食生活も見直しましょう。
ここでは、今すぐできるセルフケアをご紹介します。
すきま時間にウォーキング
運動不足もストレスの原因になります。
電車や地下鉄での通勤がなくなるだけで、1日5,000歩前後も歩数が減ってしまうこともあるので、テレワーク中は意識して歩く時間をつくりましょう。
ウォーキングをするなら、歩幅を意識的に大きくして遠くを見ながらスタスタ歩く「エクササイズ・ウォーキング」がおすすめ。大腿四頭筋を大きく動かすので普通に歩くよりもエネルギー消費が大きくなります。まとまった時間がとれなくても始業前・昼休み・退勤後に10分ずつ歩けば、まとめて30分歩くのと変わらない効果が得られます。
全身ストレッチ
ウォーキングする時間がとれないとき、体調が悪いときはストレッチをしましょう。体だけでなく心も伸びやかになりますよ。
立つか仰向けに寝た姿勢で全身の伸びをしたり、座ったまま肩回しや上半身の伸びをしたり...といった簡単なものでOK。座りっぱなしだと足もつりやすくなるのでアキレス腱を伸ばすのもお忘れなく。
ストレッチは、息を止めずにゆっくり吐きながら繰り返し行いましょう。肩こりや腰痛といった不調を感じる前にこまめに行うのがおすすめです。
その他のストレッチは、以下の記事もチェックしてみてください。
甘いものを控える
テレワーク中は運動量が減るだけでなく、いつでも近くに食べ物があるのでつい甘いものに手が伸びがち。特にチョコレートには、テオブロミンというカフェイン類が含まれるため、集中力が切れると食べたくなります。夏太郎さんの体重が増えたのもつまみ食いも原因のひとつでしょう。
ちなみに、脳が利用できるエネルギーは原則ブドウ糖だけ。運動中は血糖値(血液中のブドウ糖の量)が下がると筋肉内のグリコーゲンがすぐに分解されて血糖値が維持されるので空腹を感じません。
しかし、じっとしているとこの反応が起きにくく、おまけに脳のエネルギー消費は大きいので血糖値が下がりかかるとすぐに甘いものを欲すように。テレワーク・おうち時間でつまみ食いが増えがちな背景には、このような体の仕組みも影響しているのです。
仕事をしながら何かつまむ「ながら食べ」は食べ過ぎのもと。何か食べたくなったら立ち上がってまずストレッチをしましょう。後述のハーブティーを飲んで一息いれてから、本当にお腹がすいているかチェックしてください。
食べたいというより、一息入れたいだけだったということも多いはず。
また、余計なものを摂り過ぎないためには、テレワーク中も朝食、昼食を規則正しくとるのがおすすめ。朝食に糖質だけでなくタンパク質と食物繊維を摂ると血糖値の上昇・下降が緩やかになり、その効果は次の食後にも続きます(セカンドミール効果)。
朝食をきちんととっていれば、昼食の主食を菓子パンやドーナツなどに置き換えてもOK。甘いものを食べたいという欲求も満たされます。
カフェイン摂取量を減らす
カフェインの効果は5~6時間続くので、飲む時間によっては夜の睡眠を浅くしてしまいます。その結果、夏太郎さんのように眠れるが熟睡感がなく、朝に気怠さを感じることも。
仕事に集中できなくなるとカフェイン飲料が欲しくなりますが、コーヒーや紅茶は午前中だけにし、午後や夜のリフレッシュにはハーブティーをいただきましょう。リラックス効果のあるレモンバーベナにペパーミントをブレンドするのがおすすめです。
体に負担をかけない気分転換のコツについては、以下の記事もご覧ください。
ハーブティーや薬酒で手足の先の冷え対策
手足の先だけの冷えも、気の巡りの悪化が原因。生命エネルギーである気が、体の先まで十分に届かず、手足の先だけが冷えていると考えられます。「ストレスは感じるけど、具体的な体調不良はない」という程度の人は日常的にハーブティーを飲むだけでも改善が期待できます。
疲れが抜けにくくなっていて冷えも強い場合には薬酒もおすすめです。疲労回復に役立つ高麗人参や心身両面の強壮に効果的なエゾウコギ、さらに気の巡りをよくする陳皮やカルダモンを含んだものを選ぶとよいでしょう。
手足の冷え対策の詳細はこちらをご覧ください。
テレワーク・おうち時間のリフレッシュ方法
コミュニケーションの機会を意識的につくる
テレワーク・おうち時間中は、人とのコミュニケーションが減ることもストレスの要因になっています。夏太郎さんは独り暮らしのため、たまに友人とリモート飲み会で話すほかはまったく会話がなくなったそうです。
わいわいと大人数で会話が難しくとも、ウォーキング中に顔見知りとあったら手を振る、離れて挨拶するなどは可能なので、意識的にコミュニケーションの機会をつくりましょう。
歌を歌う
歌うのはストレス発散になるとともに、自律神経のバランスを整えるのに効果的な呼吸法にも。マスク生活では顔の表情筋や発声に用いる筋肉を使うことが減ってしまいます。歌を歌ってマスク生活で動かしにくい筋肉を動かすのもいいリフレッシュになるでしょう。
気の巡りを良くするセルフケアを普段から行って、テレワークやおうち時間を健やかに過ごしましょう。
この方にお話を伺いました
緑蔭診療所 橋口 玲子 (はしぐち れいこ)
1954年鹿児島県生まれ。東邦大学医学部卒。東邦大学医学部客員講師、および薬学部非常勤講師、国際協力事業団専門家を経て、1994年より緑蔭診療所で現代医学と漢方を併用した診療を実施。循環器専門医、認定内科医、医学博士。高血圧、脂質異常症、メンタルヘルス不調などの診療とともに、ハーブティーやアロマセラピーを用いたセルフケアの指導および講演、執筆活動も行う。『医師が教えるアロマ&ハーブセラピー』(マイナビ)、『専門医が教える体にやさしいハーブ生活 』(幻冬舎)、『世界一やさしい! 野菜薬膳食材事典』(マイナビ)などの著書、監修書がある。