音や視線が気になる、人付き合いが苦手、気疲れする......。"繊細さん"とも呼ばれる「HSP」(ハイリー・センシティブ・パーソン:敏感気質の人)は、さまざまな刺激を人一倍感じ取りやすいため、慢性的なストレスで交感神経が高ぶりやすく、脳疲労を起こしてしまうことが。HSPさんの"疲れてしんどい"をラクにするセルフケアを紹介します。
HSPとはどんな人のこと?
HSPは生まれつきの気質
HSPとは、生まれつき感覚刺激に対する感受性が強く、人一倍敏感な神経のもち主のことで、エイレン・アーロン博士が提唱した、これまでにない新しい心理学的概念です。光、音、匂い、感情、場の雰囲気など、環境におけるさまざまな刺激に反応しやすいのが特徴で、全人口の15〜20%ほどいるとされています。
遺伝的な要因があることがわかってきており、病気ではなく、多様性のひとつの特徴です。生まれ持った性質で、新生児のときから刺激に対して強い反応を示すことが多くあります。
HSPの4つの特徴
HSPに当てはまる特徴として、以下の4つの性質(DOES)があります。
深く考える(Depth of processing)
1を聞くと10のことを想像してイメージを広げたり、深く掘り下げて考えたりします。行動を起こす前に観察や内省をし、一瞬でいろいろなことがひらめき、あれこれ考えすぎてしまうために、会話ですぐに答えられなかったり、行動を起こすのに時間がかかってしまうことも。
過剰に刺激を受けやすい(Overstimulated)
光・音・匂いなど、HSPでない人が気にならない感覚の刺激が雪崩のように押し寄せ、圧倒されてしまうという特徴があります。些細な違いや変化に気がつき、注意が向いてしまうことも。
決して人嫌いなわけではなく、楽しくても、人と会って会話をすることでクタクタに疲れてしまいます。
感情の反応(特に共感力)が強い(Emotional reactivity and high Empathy)
共感力に優れ、他者の考えや気持ちをよく察します。人が怒られていると自分が怒られているように感じて、つらくなることも。小説や映画の登場人物にも深く感情移入してしまい、事故や事件のニュース、暴力的なシーンなどが苦手。ただし一様にあらゆる状況に深く共感するわけではありません。
些細な刺激を察知する(Sensitivity to Subtleties)
かすかな音や色、光、匂いや味、触感、相手の表情や声のトーン、しぐさなど、細かなことに気づきます。これは感覚器官が特殊なのではなく、脳内で深く刺激を処理しているため。
HSPの中には、その敏感な気質が影響し、芸術性・創造性が高いという特徴もあります。
HSPセルフチェック
当てはまる項目に、程度に応じて以下のマークを入れてください。1つでも◎がつく場合はHSP気質の可能性があります。
◎=かなり当てはまる
○=当てはまる
△=少し当てはまる
×=当てはまらない
?=分からない
- 〔得意なところ〕
- □ 素直で純粋で人を信じやすく優しい
- □ 人を守りたいという気持ちが強い
- □ 使命感があり向上心が強い
- □ 真面目で責任感が強い
- □ ネガティブな感情への共感性が高い
- □ 相手の気持ちを読むのが得意である
- □ 正義感が強く礼儀正しい
- 〔苦手なところ〕
- □ いつも相手に合わせて「いい子」でいようとしてしまう
- □ 色や音や匂いなど、ちょっとした刺激が気になる
- □ 夢や空想がリアルで現実と混同してしまう
- □ ひとりになる時間や空間があると助かる
- □ 相手のペースに合わせることができない
- □ 相手のことを考えすぎて嫌だと言えない
- □ 集団の中で無口になってひとりになる
- □ 感情、言葉、行動を表に出せず抑えてしまう
- □ 監視や評価や時間制限などが苦手
- □ 周囲の人の気分や感情に左右されてしまう
- □ とても神経が疲れやすい
- □ 一度にたくさんのことができない
- 〔人付き合いの傾向〕
- □ 自分には関係のない問題に巻き込まれやすい
- □ 予期せぬほど多くの人に嫌な思いをさせられる
- □ 必要以上に口に出してしまうことがある
- □ 人間関係の泥沼に引きずり込まれたりする
- □ 意図せず深く付き合うはめになったりする
HSPをラクにするセルフケア
漢方やハーブの力を借りる、簡単なツボ押すなどして、疲れた心をレスキュー。ほっとできる時間をつくりましょう。
悩みに合わせた漢方を処方してもらう
HSPは自律神経のうち、アクセル役の「交感神経」が優位になりやすい性質を持っています。ストレスや緊張状態が慢性的に続き、気が休まらないでいると心身が疲弊していくことに。しかし病院で不調を訴えても異常が見つからない、ということがほとんどです。
漢方薬は不調の本質的な部分に作用するため、HSPのセルフケアに有効といえます。またマイルドに効くので、薬剤に敏感な人にも使いやすいというメリットがあります。
漢方薬を取り入れる場合は、HSPの診断と治療を扱い、漢方処方も行なっているクリニックで処方してもらうようにしましょう。
- 〔よくある悩みと処方薬〕
- フラッシュバック(記憶の再生)....桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)、四物湯(しもつとう)など
- イライラ....抑肝散(よくかんさん)、抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)など
- 不安....甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)など
- 慢性疲労....補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)、黄蓮解毒湯(おうれんげどくとう)など
アロマの香りでリラックス
求める効果に応じたアロマを取り入れ、ディフューザーなどを活用して香りを楽しむのもおすすめです。ただし、匂いに過敏な人は控えてください。
- 〔鎮静効果のある主なアロマ〕
- ラベンダー....心を落ち着かせ、寝つきを良くします。
- ローズマリー....集中力を高め、肩こりや筋肉疲労をやわらげます。
- オレンジスイート....ゆううつ感を改善します。
ツボ押しで気持ちがスッキリ!
自律神経のバランスを整え、疲れを解消するツボを刺激して心身の緊張をほぐしましょう。
イライラ、ストレス解消に有効
労宮(ろうきゅう)....手のひらのほぼ中央のくぼみ部分。自律神経を整え、イライラやストレスなどの精神的な疲れにも有効といわれています。
目の疲れにも効果的
合谷(ごうこく)....手の甲の親指と人差し指のつけ根。自律神経の乱れを正常に戻し、気持ちを落ち着かせます。疲れ目や肩こりなど、首から上の疲れにも効果的です。
イライラ、首肩こり解消に
手三里(てさんり)....前腕の外側、ひじを曲げたときにできるしわの一番外側から指3本分手首側に向かったところにあるツボ。イライラやストレスに効果があります。肩こりなど首周辺の筋肉の疲れを和らげます。
元気を出したいときの一押し
湧泉(ゆうせん)....足裏の中央よりやや上、指を内側に曲げたときに凹む場所。エネルギーが湧いてくるツボです。
脚の疲れやだるさをケア
承山(しょうざん)....ひざの裏とくるぶしの中間点。脚の疲れやだるさを解消するほか、むくみにも有効です。
まとめ
生まれ持っての気質を変えることは難しいです。敏感気質であることを受け入れ、刺激をコントロールすることが大切。自分に合ったリラックス方法を見つけたり、つらいときは休んだりしながら上手に付き合っていけると良いですね。
この方にお話を伺いました
十勝むつみのクリニック院長 長沼 睦雄 (ながぬま むつお)
1956年生まれ。北海道大学医学部卒業後、脳外科研修を経て神経内科を専攻、日本精神神経学会認定医の資格を取得する。道立札幌療育センター、道立緑ヶ丘病院精神科を経て2016年に十勝むつみのクリニック開院。東洋医学やエネルギー医学、気功療法など統合的な医療を行う。『敏感すぎる人のいつものしんどい疲れがすーっとラクになる本』(永岡書店)、『敏感すぎて生きづらい人のこころがラクになる方法』(永岡書店)などHSP関係の著書多数。