「疲れた時、この場所にくると癒される...」
水戸 養命酒薬用ハーブ園のそれは、シンボルツリーの薬木「キハダ」を囲む円形のデッキです。キハダは4月下旬から葉が芽吹いてきます。ミーちゃんとデッキに腰を掛けて下から木を見上げると、緑の葉が青空をバックに風にそよぎます。
薬用ハーブ園が最も輝く春~初夏
デッキを囲むように植えているたくさんのハーブも、春を迎えて鮮やかに色づき、瑞々しく爽やかな香りを届けてくれます。本当に、この季節のハーブ園の心地よさは、いちど体験してほしい!
5月下旬頃になると、ミカンの皮のような香りがする小さな実が「パラパラッ」と音を立ててデッキに落ちてきます。まるでキハダが語りかけてくるように思えてなりません。こんな体験ができるのは5月下旬から6月上旬の短期限定です。
胃腸薬に使われる激苦の薬木キハダ
キハダは日本の山地にも自生するミカン科の落葉高木です。樹皮を剥がすと鮮やかな黄色なので「黄肌」と名付けられました。黄色の部分を干したものは生薬名:黄柏(おうばく)と呼ばれて胃腸薬などに用いられ、なめてみるとものすごく苦いです。古くから奈良県の「陀羅尼助(だらにすけ)」や長野県の「百草丸(ひゃくそうがん)」などの民間薬にも広く用いられています。
キハダを利用するのは人間だけではありません。山林のキハダには樹皮を野生の鹿に食べられているものがあります。鹿も効能を分かっているのかもしれませんね。
そうだシンボルツリーを作ろう(水戸 養命酒薬用ハーブ園物語)
「どんなハーブ園を作ろうか」と悩んでいた時、「あの木をシンボルツリーにするといい、きっと憩いの場所になるよ」と、愛植物設計事務所の山本紀久先生がアドバイスしてくださったのがキハダでした。苗木を植えてから30年近く経ち、高さ8mほどになっていましたが他の樹木の影になって目立たず、当時は存在感ゼロでした。
周囲の樹木を切って整理をすると、堂々とした姿が登場し、みんなでビックリ。「今まで気がつかなくてゴメン!これからは大切に育てるからね。」キハダに語りかけ、大工さんに素敵な木製デッキを作ってもらった、というわけです。
夜も魅力を放つキハダ
昼間は、憩いの場としてお客様とスタッフを癒すキハダですが、夜、スポットライトを浴びた樹皮の美しさには、また別の魅力があります。夜間開園を行う9月(昨年の様子はこちら)、スポットライトがキハダに当たると、樹皮の模様が浮き出て、なんとも言えない迫力ある美しさが際立ちました。
後ろで白く光っているのがキハダ。幹をアップにすると樹皮の模様がくっきり
目立たなかったキハダはハーブ園ができたことで、シンボルツリーにふさわしい存在感のある薬木に変身しました。
おまけの癒し
オフィスで仕事をして、疲れている時、ミーちゃんが側にやってきて温かい眼差しを送ってくれることがあります。...ありがたいけどミーちゃん、資料やパソコンの上は勘弁してください。
なでてもええで
- 【キハダ】
- 学名:フェロデンドロン アムレンス(Phellodendron amurense)
- 科名:ミカン科キハダ属
- 原産地:アジア東北部
- 特徴:樹高10〜20m、雌雄異株の落葉高木で、日本全土に自生する。カラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハが好む食草。古くから整腸薬の原料に使われ、江戸時代の薬木No.1と言えるほど昔からキハダを主成分とした薬が広く用いられている。
- 栽培のポイント:日当たりの良い場所で、水はけの良い場所を好む。サビ病が中間寄主としてキハダにつくことがあるので、マツの側には植えないほうが良い。乾燥を嫌うため、木が若いうちは夏の間は敷きわらでマルチングすると極端な乾燥を防ぐことができる。
- 開花期:5〜7月
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この方にお話を伺いました
水戸 養命酒薬用ハーブ園(水戸市植物公園内) 西川 綾子園長 (にしかわ あやこ)

水戸市植物公園園長。園芸家。筑波大学第二学群農林学類卒業後、民間企業を経て水戸市植物公園開園のために水戸市へ移住。NHK「趣味の園芸」講師や書籍の執筆なども行う。2009年第14回NHK関東甲信越地域放送文化賞を受賞。2014年公益社団法人日本植物園協会常務理事就任。2017年オープンの「水戸 養命酒薬用ハーブ園」では、約40 種類のハーブを栽培。園のシンボルツリーである薬木「キハダ」を囲むウッドデッキを中央に配置し、歴史を学べる薬草エリアと、五感で楽しむハーブガーデンエリアの2つのエリアを設けている。