代表的な生薬の一種で、脂肪燃焼の漢方薬「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」に使用されている「防風(ぼうふう)」。独特の香りを持つことから、お正月にいただく「お屠蘇(とそ)」にも用いられます。名前の意味や防風の作用、特徴を紹介します。
「防風」とはどんな植物?
生薬に使われるセリ科の多年草
防風は生薬の一種。夏に白い花を咲かせるセリ科の多年草で、根と茎の部分を水洗いし、陰干ししたものを使います。
江戸時代に中国から伝わり、幕府の命を受けて現在の奈良県の森野旧薬園で栽培されました。なお、同じセリ科で食用に使われる浜防風(はまぼうふう)は、姿、名前は似ていますが別の植物です。
- 〔防風〕
- 分類(科・属名)...... セリ科ボウフウ属
- 原産地 ...... 中国
- 使用部分 ...... 根、根茎
- 主な作用 ...... 発汗、解熱、鎮痛、消炎、排膿
名前は「風邪(ふうじゃ)を防いで癒やす」に由来
防風の名前の由来について、古い書物には「風邪(ふうじゃ)を防いで癒やすのに最要のもの」と書かれています。風邪とは漢方医学用語で外部由来の病気の原因(邪)の一つで、他に寒邪、暑邪、湿邪などがあります。
薬用養命酒にも配合されている防風は発汗・解熱作用があり、痛みを止めることから関節炎、筋肉痛にも用いられます。
また消炎・排膿作用があるので、湿疹や皮膚のかゆみ、皮膚が化膿する病気の場合には、薄荷(ハッカ)や荊芥(ケイガイ)などの生薬と合わせて使われます。
漢方薬「防風通聖散」でも注目
防風を使用した代表的な漢方薬といえば「防風通聖散※」。防風、麻黄(まおう)など18種類の生薬が配合されています。さまざまなメーカーから発売され、ドラッグストアなどで購入可能です。
防風通聖散は体の代謝を促す漢方薬で、皮下脂肪が多く、便秘がちの人によく合います。胃腸の熱を取り、過剰な食欲を抑える作用もあるので、最近は肥満を解消する薬としても使われていています。
独特な香りを活かしてお屠蘇の材料に
防風はお正月に飲むお屠蘇と深い関係
屠蘇の原処方を考案したのは、中国後漢時代の名医である華佗(かだ)です。当時流行した疫病を抑えるために処方が作られました。
この原処方には防風は使用されていなかったのですが、その後、中国唐代の名医・孫思邈(そんしばく)が原処方に防風を加えて改良し、お酒に浸して服用する「屠蘇散(とそさん)」として仕上げました。防風の独特な香りの成分がアルコールで効率的に引き出されて美味しいと評判になったとされています。
その処方は平安時代に日本に伝来し、最初は宮中の正月行事として屠蘇散をお酒に浸して作った「屠蘇酒」が飲用され、 江戸時代には広く庶民まで普及しました。正月に邪気を払い、無病息災と長寿を願っていただく風習は今でも残っています。
日本国内では、この屠蘇散の改良処方が多く生まれましたが、その多くには防風が処方されています。近年まで用いられてきた有名な処方は、医師であり漢方学者の矢数道明(やかずどうめい)が考案した「延寿屠蘇散<矢数方>」です。
- 〔延寿屠蘇散<矢数方>〕
- 防風
- 丁子(ちょうじ)
- 桂枝(けいし)
- 白朮(びゃくじゅつ)
- 桔梗(ききょう)
- 山椒(さんしょう)
- 〔家醸本みりんに添付されている屠蘇散〕
- 桂皮
- 山椒
- 陳皮
- 桔梗
- 大茴香(だいういきょう)
- 丁子
- 浜防風
この方にお話を伺いました
養命酒製造株式会社商品開発センター 丸山 徹也 (まるやま てつや)
1958年長野県生まれ。1981年静岡薬科大学薬学部卒業後、養命酒製造株式会社入社。中央研究所研究部長、商品開発センター長を歴任。薬剤師。