歴史が息づく街、京都で触れたクロモジにまつわる文化と伝統、「絞り染め」と邪気を払う「垣根」についてお伝えします。
金色に輝く「絞り染め」の美しさ
「絞り染め」をご存じでしょうか。細い糸で生地を絞り、染料がそこへ入らないように染め、模様を生み出す技法です。
京絞りでは、1mmくらいの小さな絞りを何万と作り、そのドットを組み合わせて繊細な模様に仕上げます。
伝統に支えられ洗練を極めた技術は、さすが京都の伝統工芸品と思わずにいられないものでした。
絞りの高度な技術を引き継ぐ職人さんは少なくなってきているそうで、一反一反が貴重な宝物のように見えてきます。
京絞りの当主が着目する、クロモジ「絞り染め」の魅力
京絞り寺田の当主、寺田豊さんは長年にわたり京絞りを染め続け、数々の賞を受賞してきました。
近年、力を入れているのは、草木染めならではの表現ができる植物の魅力の追求です。
染料は、植物を煮出して作りますが、媒染といわれる色素の定着剤の使用と、染めの時間や回数で色味は変わってきます。
さらに、同じ植物でも産地や時期によって色の出方は変わるので、無限の組み合わせの中で色味を追求します。
クロモジもやはり、産地や採取時期により色の出方が異なるそうです。
寺田さんは様々な植物を用いますが、クロモジを使ってみて驚いたのは、染料にカビが生えないということ。
煮出しただけの染料は、通常は時間が経つとカビが生えてしまうそうです。
クロモジで染めた生地は、光を反射して金色に
クロモジの枝を煮出したお茶がピンクになるように、クロモジの染料も赤みがかった茶色になります。
クロモジで染められた生糸は金に。絞りが施された生地は、光を反射して一層輝きを増すのです。
「植物の目に見えない魅力を可視化できるのが染め物の魅力」と、寺田さんは言います。
桜、楠、茜...染めに用いる植物は様々で、当然、色味も異なります。
植物としての見た目と、染め上がりの色味が全く異なることもあります。
染料は、植物を丸ごと煮出した、植物の全てが詰まった液。
その液から発出する色味こそが、植物そのものの世界観を表しているとも考えられます。
草木染めの奥深さを教えていただきました。
京町家の邪気を払う、風情のあるクロモジの垣根
京都秦家は京都市の有形文化財にも登録されている京町家。
伝統薬の『奇應丸』を製造、販売されてきた商家で伝統文化を色濃く残しています。
当主の秦めぐみさんにお話を伺いました。
座敷庭を拝見すると、立派なクロモジの垣根が現れました。
クロモジをぐっと曲げて作った独特の垣根は、「そで垣」といわれるものだそうです。
座敷庭の奥、垣根の向こうには手水があります。つまり、そで垣は庭とお手洗いを分けるためもの。
目隠しという視覚的な効果の他に、香りが"邪気を払う"との考えから、不浄なものを追い払うという役割も持たせていたようです。
他にも、「たいまつ垣」という、こぶりの垣根も。繊細なあしらいで、クロモジならではの風合いで庭の趣をよくします。
野宮神社や桂離宮の伝統あるクロモジ垣根
野宮神社は、黒木鳥居(くろきとりい)※と源氏物語の六条御息所の場面で有名な神社。
こちらの垣根はクロモジでできています。
宮司の懸野直樹さんによると、昔は多くの神社でクロモジ垣が使われていたとのこと。
やはり邪気を追い払うという意味がこめられていたのではないか。
維持に手間と費用はかかるが、京都の造園屋さんならたいていクロモジ垣を作れるはずだ、とおっしゃっていました。
クロモジ垣は、桂離宮にも美しいものがあります。
京都市の北部ではクロモジが採れ、お茶を作っている会社さんもあると聞きます。
京都のクロモジ文化は奥深い。
クロモジが京都の文化で重要な役割を果たしてきたことを実感しました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
《お話を伺った皆さま》
京絞り寺田当主 寺田豊(てらだ ゆたか)さん
秦家当主 秦めぐみ(はた めぐみ)さん
野宮神社宮司 懸野直樹(かけの なおき)さん