和ハーブ協会の古谷暢基(ふるや まさき)さんによる不定期連載です。第2回は、クロモジとの出会いや「クロモジ三兄弟」と呼ばれる同じクロモジ属の樹木について語っていただきました。
私とクロモジとの出会いは、和ハーブの研究を始めた頃にお世話になっていた薬草の聖地「伊吹山」。地元の薬草名人が「和の香りの王様と言えばこれ!」と紹介してくれたのがクロモジでした。
和の香りの王様、クロモジ
その後、初めてクロモジを山の中で自分一人の力で見つけた時の感動は忘れられません。場所は、戦前、香料として使われていたクロモジの一大産地であった伊豆半島の森の中。
葉を千切って確かめた時の、あの優しいながら印象深い爽やかな香りは、今でも鮮やかに記憶に残っています。
甘く爽やかな香りで、鎮静作用や抗不安作用があるクロモジ。ストレスの緩和や心身のバランス調整に役立つため、アロマテラピーなどで人気が高まっています。
伊吹山のおじい直伝クロモジ活用法
伊吹山では昔から、お茶や浴剤、焚き火の発火材など、幅広い範囲でクロモジが活用されてきました。
泊りがけの山仕事では、即席の五右衛門風呂にクロモジ、タムシバ(ニオイコブシ)、ニワトコの3種類の香りの樹木をミックスさせてお湯に入れ、星空を見ながら一日の疲れを癒したそうです。
豊かな山の香りクロモジ三兄弟
山にはクロモジの兄弟や親戚がいっぱいいて、山の豊かなアロマを演出しています。特に同じクロモジ属の樹木「檀香梅(ダンコウバイ)」と「油瀝青(アブラチャン)」はクロモジと合わせ「クロモジ三兄弟」と呼ばれます。
両種はクロモジと隣り合って生えていることも多く、似たような特徴を持っています。長男はもちろん、和の香りの王様クロモジです。
クロモジ三兄弟の次男「檀香梅(ダンコウバイ)」
次男のダンコウバイは葉の先が小さく三裂していて、その形を動物や恐竜の足跡に例える人もいますが、私にはメロンなどを食べる時に使う先割れスプーンの形に見えます。
名前の"檀香"は香道に使われる「白檀(びゃくだん)」が由来。葉を千切れば、クロモジを少しスパイシーにした爽やかなアロマが漂います。
香り豊かなので、葉を乾燥させてお茶やハーブソルトなどに使うのがおすすめです。
クロモジ3兄弟の三男「油瀝青(アブラチャン)」
三男のアブラチャンという可愛らしい名前は、文字通り枝葉に油分が多く含まれることからきています。油分が多いということは素材がしなって加工しやすく、同時に水分を弾くということ。「かんじき」などの雪中民具の素材としても重宝されてきました。
1956年(昭和31年)の第1次南極観測隊では、富山産のアブラチャンを使った「立山かんじき」が使われ、一躍有名になって全国の豪雪地域から注文が殺到したそうです。
葉を天婦羅にすると、豊富な油分から来る旨味と香りを美味しくいただけます。同じく葉や枝に良い香りを持つクロモジの兄弟や親戚は、他に「シロモジ」「アオモジ」「ヤマコウバシ」などがあります。
山の豊かなアロマを演出するクロモジの仲間。森林散策の際に探してみると楽しいですよ。
次回は、ダイエット効果など、クロモジの知られざる活用法をご紹介します。
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この方にお話を伺いました
(一社)和ハーブ協会代表理事、医学博士 古谷 暢基 (ふるや まさき)

2009年10月日本の植物文化に着目し、その文化を未来へ繋げていくことを使命とした「(一社)和ハーブ協会」を設立、2013年には経済産業省・農林水産省認定事業に。企業や学校、地域での講演、TV番組への出演など多数。著書は『和ハーブ にほんのたからもの〈和ハーブ検定公式テキスト〉』(コスモの本)、『和ハーブ図鑑』((一社)和ハーブ協会/素材図書)など。国際補完医療大学日本校学長、日本ダイエット健康協会理事長、医事評論家、健康・美容プロデューサーでもある。