「薬酒」とは、「生薬」をお酒に浸け込み薬効成分を抽出したもの。例えば正月に飲まれることで知られる「屠蘇(とそ)酒」も薬酒のうちのひとつです。「生薬」は、植物・鉱物・動物などの全体や一部に、薬用目的で簡単な加工(乾燥など)を施したものをいいます。
日本における薬酒の歴史は古く、奈良時代に遣唐使を通じて中国から伝わったといわれています。
薬酒の効能
生薬の効用を効果的に取り入れている薬酒ですが、お酒そのものの薬効パワーも見逃せません。アルコールには消化を助けて食欲を増進させる、血行・血流をよくして体を温めるなどの効果があります。
これに生薬の薬効パワーが加わることで、単体で服用する以上の効果を発揮してくれるのです。生薬の中には熱に弱いものもあり、それらはお酒に浸すことでその薬効を抽出できる利点もあります。
薬酒が成立した当初は活用の領域が幅広く、さまざまな疾病に用いられていました。しかし、時代が進むにつれて滋養強壮や体質改善、慢性疾患などの分野で用いられるようになりました。
江戸時代に造られた主な薬酒の種類
江戸時代の薬酒専門店の引き札(広告)を見ると、当時どのような種類の薬酒が販売されていたかが分かります。各薬酒の効能は『古今和歌集』の序文に記された「六歌仙」にかけたのか、分かりやすく三十一文字で詠まれていました。
例えば、長寿酒は「痰咳や 頭痛めまいに 肩のこり 疝気すんばく 引風によし」、蕃紅花(サフラン)酒は「もの忘れ 逆上息切 立眩み ぶらぶら病 血の道によし」と詠まれています。
その他にも、蝮酒や、胡椒酒、砂糖泡盛、薄荷泡盛などさまざまな種類の薬酒が販売されていました。引き札には現代に通じるものもあれば、「ほんとに?」という内容も見られます。
奈良時代から続く薬酒の歴史
奈良時代~戦国時代
奈良県の東大寺正倉院に伝わる文書の1つには「写経生は終日机に向かっており胸が痛み脚がしびれるので2日に一度は薬の酒を飲ませてほしい」という記載があるので、天平11年(739年)頃には既に「薬の酒」があったことが分かります。
平安時代に入ると、嵯峨天皇は中国伝来の「屠蘇酒(とそしゅ)」を正月の朝に飲むという宮中行事を始め、その後民間にも普及しました。戦国時代には薬酒を愛飲していた武将も多くいたといわれます。
江戸時代
江戸時代の初期には日本各地でさまざまな薬酒が造られました。薬用養命酒もこの頃創製された薬酒のひとつです。
この時期に薬酒造りが盛んになった要因として、蒸留技術の普及が挙げられます。焼酎のような度数の高いお酒を造ることが可能となり、保存性の高い薬酒ができるようになりました。
また、徳川家康が健康維持に熱心で薬酒にも関心が高かったことも薬酒造りが盛んになったきっかけと言われています。
この頃の薬酒の特徴の1つがみりんを使用していること。焼酎を使ったみりんが製造されるようになり、当時高価であった砂糖を使わずとも、甘味があって飲みやすい薬酒を造ることが可能になりました。薬酒とみりんのもつ滋養効果との相性も良かったと考えられます。
自宅で楽しむ薬酒
ウォッカとお好みのスパイスを使えば、手作りの薬酒を自宅で楽しめます。
ホワイトリカーとシナモンの薬酒レシピも。
体調を労りながら、さまざまな薬酒を楽しんでみてください。
この方にお話を伺いました
養命酒製造株式会社、商品開発センター、センター長 丸山徹也 (まるやま てつや)
1958年長野県生まれ。1981年静岡薬科大学薬学部卒業後、養命酒製造株式会社入社、中央研究所所属。その後同所研究部長、同所副所長を歴任。2014年より同社商品開発センター長。薬剤師。