肩こり、冷え性(冷え症)、むくみ、痛み、さらには免疫細胞の機能低下まで、血行不良になるとさまざまな不調を招きます。いわば血液を巡らせることは健康の一丁目一番地。血行を滞らせる原因と改善策を詳しく解説します。
血行不良とは?

血行不良とは、体の中を血液が正常に巡っていない状態を指します。血液には、健康維持に欠かせない次のような働きがあるため、その巡りが悪くなるとさまざまな不調を招きやすくなります。
- 〔血液の働き〕
- 体内に取り込まれた栄養素や酸素を全身に運ぶ。
- 体内の老廃物や二酸化炭素を回収し、処理する器官まで運ぶ。
- 体温を調節する。
- 体内に入り込んだ病原体や異物を排除したり攻撃したりする。
血行不良の原因

血行不良になる原因には、次に挙げるような生活習慣、体質、病気などが考えられます。
生活習慣による原因
日頃からの食事や運動、睡眠といった生活習慣が、血行不良の原因となる場合があります。
体を冷やす

外気温が下がる冬は、寒さによって体が体温を維持しようと、手足の血管を収縮させて血液を体の中心部に集めるため、血流が低下し、末端まで血流が届きにくくなります。また、夏場であっても強すぎる冷房の中で肌の露出が多い服装で長時間過ごしたり、冷たいものや体を冷やすものをとりすぎたり、シャワーだけですませる入浴習慣などによって、体が冷えて、血行不良の原因になることがあります。
運動不足
体を動かして筋肉を収縮させることには、血行を促す作用があります。そのため、体を動かさないと血行が悪くなります。
乱れた食生活
過食や欠食、栄養バランスに偏りのある食事を続けていると、糖質や脂質が過剰になって血液がドロドロになったり、体の冷えや血管の機能低下などが生じて血液が滞りやすくなったり、十分な量の血液がつくれなくなったりします。
水分をあまりとらない
空気の乾燥や発汗で、体内の水分は自然と失われています。十分な水分を摂取しないと血液は濃縮され、スムーズに流れにくくなります。
過度なストレス
ストレスを感じると体は緊張状態になり、血管が収縮して血行が悪くなります。精神的なストレスだけでなく、寒暖差など肉体的な負担となるストレスも影響します。
睡眠不足
血流を司る自律神経は、睡眠中に調整されます。睡眠の量や質が低下すると、自律神経のバランスが乱れ、血行不良を起こしやすくなります。
過度な飲酒

お酒は一時的には血行を促しますが、その利尿作用によって体内が水分不足になったり、過度な飲酒では血管が収縮・硬化する場合もあったりするため、血行不良の原因になります。
締めつけの強い服を着る
コルセットや補正下着など体を締めつけすぎる服を着ると、血管が圧迫されて血流が滞ります。
喫煙
たばこに含まれるニコチンには、血管を収縮させる働きがあります。
体質・身体的な原因

年齢や性別、体質も血行に影響します。
加齢
年齢を重ねると、血管が硬くなったり、毛細血管が減少したりします。また、収縮することで血流を促す筋肉量も減少するため、血行が悪くなります。
女性
女性ホルモンのエストロゲンは、血管拡張や体温調整にかかわります。そのため、月経や妊娠、更年期などでホルモンバランスが変化する女性は、血行不良を起こしやすくなります。また、男性に比べ筋肉量が少ないため、熱を生み出しにくく、血流が滞りやすい傾向があります。
低血圧
血圧が低いと、血液を送り出す力が不足し、全身に巡りにくくなります。低血圧は遺伝的な要素が大きいものです。また、高血圧でも、動脈硬化が進行し血管が硬くなったり狭くなったりすると、やはり血行が悪くなります。
肥満
肥満の人は、過剰な体脂肪によって血管が圧迫されたり、血液中の脂肪やコレステロールの増加によって血液がドロドロになったりします。
貧血
栄養不足や病気、けがによる出血などが原因で貧血になると、血液にのって酸素を運ぶヘモグロビンが不足します。体は生命維持に重要な臓器に酸素を届けることを優先させるため、抹消組織に血液が行き渡りにくくなります。特に女性は、子宮の病気や月経で貧血を起こしやすいので注意しましょう。
何らかの病気による原因

血行不良には、何らかの病気がひそんでいる場合もあります。
生活習慣病
血管が硬くなる動脈硬化や血液の塊ができる血栓症では、血行不良を起こしやすくなります。また、糖尿病で高血糖が続くと、血管がダメージを受けて動脈硬化が進むのに加え、血液がドロドロになったり末梢血管が障害を受けたりもするため、血行に影響します。
生活習慣病で心臓に負担がかかると心不全や心筋梗塞のリスクが高まりますが、これらも血行不良につながります。
その他の病気
血管の収縮・拡張をコントロールする自律神経のバランスが乱れる自律神経失調症、脈拍が低下して心臓が十分な血液を送り出せなくなる甲状腺機能低下症も、血行不良を招くものです。免疫が誤作動を起こして自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患が原因になることも。
女性に多い膠原病(こうげんびょう)では「血管炎」が、全身性エリテマトーデス(SLE)では寒さや冷たさに反応して指先の血管が強く収縮する「レイノー現象」が起こやすくなります。
血行や顔色の悪さには「血虚(けっきょ)」「瘀血(おけつ)」が影響する

東洋医学では、健康維持には「気・血(血液と栄養)・水」がバランスよく巡っていることが大切と考えます。このうち「血」が不足する体質を「血虚」、「血」の巡りが悪い体質を「瘀血」と呼びます。この2つは血行不良や顔色の悪さともかかわりが深いものです。
「血虚」と「瘀血」ではどのような症状が現れる?
「血虚」
血液の量が不足していて、全身の細胞に栄養や酸素を十分に行き渡らせることができない体質を指します。ケガや手術などで出血した後に「血虚」の状態になることも。冷えに弱く、肌や髪の乾燥、爪のトラブルが起こりやすくなり、手足のしびれや立ちくらみ、不眠、集中力低下、こむら返りなどに悩まされる場合もあります。
「瘀血」
血液量は不足していないものの巡りが悪い体質で、「血虚」が原因になることもあります。痔や疼痛、口の渇き、腹部膨満感、舌の色の悪さなどが生じます。また、顔のシミや浅黒さ、赤ら顔っぽくなるのは「瘀血」の特徴です。この体質の女性は月経困難症を起こしやすい傾向があるので注意しましょう。
血行不良が引き起こす症状

血行不良によって次のような不調が起こりやすくなり、ときには病気になってしまうこともあります。特に女性は、冷え性や頭痛、月経トラブルに悩まされる人が多く見られます。
冷え性(冷え症)
体のすみずみにまで血液が巡りにくくなり、体が冷えてしまいます。
冷え性について詳しい解説や対策は以下の記事で詳しく紹介しています。ぜひ併せてチェックしてみてください。
むくみ
血流が滞ると特に下肢ではうっ血による水分の間質への移動が起こり、むくみが現れます。
肩こり・腰痛・頭痛
筋肉に蓄積された老廃物は、通常は血液によって処理されますが、血行不良の状態では適切な処理が行われません。その結果、筋肉が緊張状態になったり炎症を起こしたりして、肩こりや腰痛などが生じます。また、肩や首のこりによって頭痛が起こる場合もあります。血流不足そのもので神経が障害され、痛みの原因となることもあります。
眼精疲労
目やその周辺の血行が悪くなると、栄養素や酸素が行き渡らず、老廃物も処理できなくなって、目が疲れやすくなります。眼精疲労に伴って頭痛が起こることもあります。
肌トラブル
血液によって肌に届けられる栄養素や酸素が不足し、ターンオーバーが乱れて肌荒れやくすみなどが起こります。
めまい
脳への血流が不足したり、血行不良に起因するリンパの流れの障害が起こったりすると、めまいが生じます。
手足のしびれ・こわばり・痛み
血行不良によって、手足の神経に障害が起こったり筋肉が硬くなったりすると、しびれやこわばり、痛みを感じることがあります。
倦怠感

筋肉に酸素と栄養が十分に届けられないのに加えて老廃物が処理できないため、疲れやだるさを感じやすくなります。
月経トラブル
骨盤内の血流が不足したり滞ったりすることで、生理痛や生理不順、PMS(月経前症候群)などが起こりやすくなります。
傷が治りにくくなる
血行不良の状態では、傷を治すために必要な栄養や酸素が傷ついた部分に十分に届けられず、完治するまでに時間がかかります。ささいな傷でも血行が悪いと治癒に時間がかかるだけでなく、悪化して周囲の組織に影響を及ぼす可能性があります。
風邪などの感染症にかかりやすくなる
血行不良に伴って血液中に含まれる免疫細胞の働きも低下するため、感染症にかかりやすくなります。
血行障害に起因する病気になる
血行不良はさまざまな臓器に影響をもたらします。特に以下の病気には注意が必要です。
- 〔血行障害に起因する重要な病気〕
- 脳血管障害(脳梗塞など):脳への血流が低下することで起こります。
- 虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など):心臓への血流が低下することで起こります。
ほかにも、目に見えやすい血行障害の例として下記があげられます。
- 静脈瘤:下肢にある静脈弁の働きが低下して血流が滞り、血液が滞留して静脈が膨れます。
血行不良の改善策9選
血行不良を改善するには、体を温める食材を食べたり、適度な運動・ストレッチ、湯船に浸かったりなど、さまざまな方法があります。
体を温める食材を食べる

温かな食事をとるほか、東洋医学の食養生で「陽性」とされる食べ物をとると、体が温まり血行が促されます。
- 〔陽性の食べ物〕
- 生姜、ねぎ、鶏むね肉、かぼちゃ、みかん、豚レバーなど
体を温める・冷やす食べ物の見分け方や食事の工夫については以下の記事で詳しく紹介しています。
血液をサラサラにするものを食べる
悪玉コレステロールや中性脂肪を増やしたり、血糖値が急激に上昇したりするような食生活を避けます。糖が増えるのを抑えるものや、抗酸化作用があるもの、血栓をできにくくするものを食べるとよいでしょう。
- 〔おすすめの食べ物〕
- 玉ねぎ、納豆、サケ、サバ、納豆、かぼちゃ、人参、ブロッコリー、菜の花、海藻類、きのこ類など
血管の健康を保つビタミンEを摂取する
血管の健康を保つ働きのあるビタミンEも意識して摂取しましょう。
- 〔おすすめの食べ物〕
- ナッツ類、植物油など
適度な運動・ストレッチをする

肩関節や股関節などの大きな関節には、たくさんの血管が集まっています。肩や腕を回したりウォーキングをしたりして、大きな関節を動かすと血行が促されます。
また、脊椎(背骨)は脳から続く神経が通る場所。血流をコントロールする自律神経とも深くかかわるため、ストレッチなどで背中、特に肩甲骨周辺のこわばりをほぐすことは血行促進に有効です。
座っている時間が長い人は、お茶を入れたりトイレに行ったりするタイミングで、定期的に体を動かすことを心がけましょう。座ったままかかとやつま先の上げ下ろしを行うのも、血液を心臓に戻す役割をもつふくらはぎの刺激になるのでおすすめです。
湯船につかる習慣をつける

適度な温度のお湯につかると、血管が拡張して血行が促されます。疲労回復や心身のリラックスにも役立つので、入浴はシャワーで済まさないようにするとよいでしょう。
こまめな水分補給
水分補給は、喉が渇く前に少量ずつ、こまめに行うようにしましょう。体の水分が失われやすい運動、入浴、就寝の前後の水分補給は特に大切です。糖質やカフェインなどが入っておらず体を冷やさない、常温の水や白湯がおすすめです。
締め付けのある衣類を避ける
お腹や脚のつけ根、脇などにも太い血管が通っています。サイズの小さな服やタイトなシルエットの服、ボディラインを矯正する下着は避けましょう。
禁煙する
血管収縮作用があるニコチンの摂取を止めることで、血行改善が期待できます。
マッサージやツボ押しをする
筋肉や筋肉を包む筋膜がこり固まっていると、血管が圧迫されて血行が悪くなります。体を触れてみて、硬かったり伸ばしにくかったりする部分があればもみほぐすようにしましょう。
血行促進するツボの位置や押し方は、以下の記事で詳しく紹介しています。
ストレスをためない、ストレスを管理する

ストレスをためないためには、自分にとってのストレス要因を明らかにし、その要因から距離を置くようにすることが大切です。また、自分なりのストレス発散法やリラックス法を見つけるとよいでしょう。腹式呼吸(深呼吸)は心身のリラックスにつながり、血行の改善にも有効です。
この方にお話を伺いました
御苑アンジェリカクリニック院長 / 東京慈恵会医科大学大学院 非常勤講師 / 医師・博士(医学) 神藤 慧玲 (しんとう えり)
千葉大学医学部卒。千葉県内の大学病院にて研修・北里研究所病院東洋医学研究所にて漢方研修終了。東京都内大学病院・総合病院の勤務を経て東京都新宿区にクリニック開業。月経困難症や更年期の女性の痛みの診療をはじめ、漢方診療を行う。
















