食品から生活用品まで、幅広く使われているミントの香り。近年ではチョコミントスイーツの市場拡大も話題になっています。
そんなミントには胃腸の調子を整える働きや、気分をリフレッシュさせたり体をクールダウンさせたりする作用以外にも、さまざまな効果・効能があることが明らかになりつつあります。古代から重宝されてきたミントの魅力を紹介します。
ミントとはどんなハーブ?
古代からさまざまな形で暮らしに役立てられてきたハーブ
ミントとは、地中海沿岸やヨーロッパ、アジアを原産とするシソ科ハッカ属の植物の総称で、現在は世界中で見ることができます。ミント特有のすっきりとした香りは、ガムやキャンディ、アイスクリーム、ジュース、お酒といった食品、歯磨き粉やシャンプー、洗剤などの生活用品に幅広く使われており、私たちにとってはなじみ深いものです。
暮らしの中で活用されてきた歴史は古く、古代のギリシャやローマ、メソポタミア、エジプトで、におい消しや料理の風味づけ、入浴に使われていたことがわかっています。また、「聖なる香り」として儀式に用いられたり、薬草として消化不良、頭痛、呼吸器の症状緩和や、抗菌・消毒に役立てられたりしていました。
なお「ミント」という名前は、ギリシャ神話に登場する妖精、メンタ(メンテ)に由来します。美しいメンタは、冥界の王であるハデスに愛されますが、嫉妬に狂ったハデスの妻によって植物に変えられてしまいました。メンタを哀れんだハデスはその植物に甘い香りを与え、それが香り高いミントになったといわれています。
古来の日本では目の薬として活用された「薄荷」
日本に伝わったのは約2,000年以上前といわれ、万葉の時代には疲れ目を癒やす薬としてハッカが使われていたといわれています。江戸時代には本格的な栽培がスタートしました。
ハッカ(薄荷)という和名も用いられますが、ハッカは狭い意味では日本に自生する「和種ハッカ」を指します。和種ハッカはほかのミントよりもメントールが多く含まれているため、清涼感を強く感じます。生薬の「薄荷」も和種ハッカのことで、解熱、発汗、健胃作用があり、漢方処方に配合されます。
繁殖力がとても高く、品種は100以上
ミントの葉は優しく触れるだけで香りが立ち、夏から秋にかけて白や薄い紫色、ピンク色などの花を咲かせます。栽培しやすい多年草ですが、地下茎でどんどん増え、刈り取った茎からも根が出てくるほど繁殖力が高いため、ほかの植物を枯らしてしまったり、敷地を越えて茂ってしまったりすることもあります。
また、自然交配をしやすいため品種が多く、その数はなんと100種類以上。品種によって、葉や花の形や色、大きさ、香りが異なります。代表的な品種には、次のものがあります。このうち、アロマセラピーに多く用いられるのはペパーミントとスペアミントです。
ペパーミント
スペアミントとウォーターミントから生まれた品種。刺激的で強い香りの主成分はℓ-メントール。
スペアミント
比較的原種に近いミントで、ℓ-カルボンを主成分とした穏やかで甘さのある香りをもつ。
和種ハッカ
メントールの含有量がペパーミントよりさらに多く、強い清涼感と香りをもつ。代表的な産地は北海道北見市。
クールミント
独特の香りや苦味が特徴。料理やハーブティーよりガムや歯磨き粉などに使われることが多い。
アップルミント
青りんごを思わせる、優しく爽やかな香りがある。葉や茎に白い綿毛が生えている。
パイナップルミント
パイナップルの香りがすることから名付けられた。葉に白い斑が入っていて観賞用にも人気。
注目されるミントの効果・効能
消化促進効果
ミントは古代ギリシャやローマ、エジプトなどで、消化促進に役立てられてきました。漢方処方でも健胃に効果があるとされます。
消化液の分泌促進や消化器官の筋肉の緊張を和らげる働きがあり、腹痛や下痢、胃もたれなどを緩和するほか、車酔いや二日酔いによる吐き気、ガスが溜まって起こるお腹の張りも和らげます。また、ストレスが原因で下痢などが起こる過敏性腸症候群を改善する可能性も指摘されています。
鎮痛・冷却・抗炎症作用
ミントの香り成分であるメントールには、鎮痛・鎮痒(ちんよう)・冷却作用があります。そのため、湿布や軟膏、かゆみ止めなどによく使われます。また、精油をキャリアオイル(植物油)で0.5%以下に薄め(希釈)、額やこめかみに塗布することは緊張性頭痛に有効とされます。
抗炎症作用により、ティッシュなどにミントの精油を1滴垂らし、静かに吸い込むと、鼻の炎症が抑えられて、鼻づまりがすっきりします。
なお、メントールが含まれるシャンプーやボディシートなどを使うと体が冷えたように感じますが、これはメントールが皮膚の冷感を感じるセンサーに作用しているため。ペパーミントの香りを嗅ぐと体感温度が4℃下がるという実験結果も出ていますが、実際に体温が下がっているわけではありません。
アレルギー症状緩和効果
ペパーミントから精油成分を抽出した後に残るミントポリフェノールは、花粉症の症状緩和に期待が寄せられています。これは、アレルギーを引き起こすヒスタミンの生成を抑えられるからです。
ただし、ミントポリフェノールは、ペパーミント以外のミントにはほとんど含まれていません。
殺菌・抗菌作用
ミントの殺菌・抗菌作用は、紀元前から感染症対策や食品の保存に活用されていたといわれています。特にペパーミントのメントールには、食中毒や皮膚トラブルの原因となる黄色ブドウ球菌への抗菌効果が報告されています。
また、風邪などの感染症の予防、喉の痛みや咳の緩和といった効果も期待できます。
カビや雑菌の繁殖を抑える効果もあるので、お風呂場などの掃除にも活躍してくれるでしょう。
鎮静・リフレッシュ作用
スーッとするミントの香りの主な成分がメントールです。メントールには、気持ちを落ち着かせ、イライラや不安を和らげたり、ストレスを緩和してリラックスさせたりする働きがあります。
また、メントールには、頭や気分をリフレッシュさせ、集中力を高めたり眠気を覚ましたりする作用もあります。
ダイエット効果
最近の研究でメントールが内臓脂肪を燃やす褐色脂肪組織(BAT)を活性化することも明らかになりました。
ペパーミントの香りが食欲を抑えるという実験結果もあり、ミントはダイエットに役立つハーブとしても注目されています。
虫除け効果
メントールは虫にとって苦手な香りなので、虫除けに有効です。室内にフレッシュなハーブを置いたり、ディフューザーで香らせたり、虫除けスプレーをつくったりして対策ができます。特に、蚊やアリ、ダニなどに有効です。
ミントの使い方はいろいろ!
胃腸や鼻の不調におすすめ! ミントティーのつくり方
フレッシュなミントの葉を10g、または乾燥させたミントの葉大さじ1杯をポットに入れ、お湯を注いでふたをし、5~10分ほど蒸らせば清涼感のあるミントティーの完成です。
香りや味は、ミントの種類によって異なります。夏は冷やして飲んだり、レモン果汁やほかのハーブとブレンドしたりしても美味しくいただけます。ハチミツを加えるとより飲みやすくなるでしょう。胃腸の調子が悪いときや鼻づまりのとき、吐き気があるときにおすすめです。
ミントオイルの使い方とその効果
日本ではペパーミントなどの精油はほかの精油と同様に「雑貨」として扱われますが、ハッカの精油は、薬局でも「ハッカ油」として手に入ります。
使い方は簡単です。ぜひセルフケアに活用してみましょう。
頭痛のときはアロママッサージ
ペパーミントの精油をホホバオイルなどのキャリアオイル(植物油)に加えてよく混ぜ、少量をこめかみなどにすり込むと頭痛が和らぎます。
- 〔用意するもの〕
- ペパーミント精油 ...... 1滴
- ホホバオイルなどのキャリアオイル ...... 10ml
- ガラス容器
- 〔How to〕
- ガラス容器にキャリアオイルを入れ、精油を加える。
- よく混ぜ合わせて出来上がり。
リフレッシュ、頭痛や目の疲れ、日焼け後の肌ケアに冷湿布
精油を混ぜた冷水または冷やしたペパーミントティーに浸けたタオルを、額や首の後ろに当てると、気分のリフレッシュや緊張性頭痛の緩和に有効です。
また、目元に当てれば眼の疲れを癒やし、日焼け後の肌に当てればクールダウンになります。
- 〔用意するもの〕※ 精油を使う場合
- ペパーミント精油 ...... 1滴
- 冷水 ...... 洗面器1杯分
- 〔How to〕
- 洗面器に冷水を入れ、精油を加えてよく混ぜる。
- 1にタオルを浸し、精油がついた面を内側にたたんで水気を絞る。
蒸気吸入やアロママスクで鼻づまりを緩和
熱湯を入れたマグカップにペパーミント精油を1滴垂らし、蒸気と共に香りをゆっくりと吸い込むと鼻づまりがスッキリします。
外出時には、ペパーミント精油を使ったマスクスプレーをマスクの外側に付けると、鼻や喉の不快感を抑えられます。
※ マスクスプレーのつくり方はこちらをご覧ください。
胃の調子が悪いときや食欲を抑えたいときは手軽な芳香浴を
ミントには胃の調子を整えたり、食欲を抑えたりする働きがあります。ティッシュペーパーにペパーミントの精油を1滴垂らし、ゆっくり香りをかぎながら深呼吸しましょう。
眠気防止や乗り物酔いの予防に役立つルームスプレー
ミントのすっきりとした香りを部屋に漂わせれば、眠気を抑えたり、逆にやる気をアップさせたりするのに効果的です。
また、乗り物酔いにも役立つので、車や船などに乗るときに用意するとよいでしょう。
- 〔用意するもの〕
- ハッカ油またはペパーミント精油 ...... 6~7滴
- 無水エタノール ...... 10ml
- 精製水 ...... 20ml
- ビーカー(ガラス容器)
- スプレー容器30ml
- 〔How to〕※ 精油を使用する場合
- ビーカー(ガラス容器)に無水エタノール、精油を入れる。
- 精製水を加えてよく混ぜ、スプレー容器に移す。
ミントでつくる虫除けスプレー
ミントの虫除け効果を活かします。精油をグリセリン、精製水とよく混ぜてボトルに入れ、外出の際などに肌や服にスプレーして使います。
ただし、3歳未満は精油が入ったスプレーを肌に直接噴霧できません。また、3歳以上のお子さんに使う場合でも、精油の濃度は大人用の半分以下を目安にしましょう。
- 〔用意するもの〕
- ハッカ油またはミント精油 ...... 5~6滴
- グリセリン(またはハチミツ) ...... 小さじ1/4
※ グリセリンは保湿成分として入れます。なければハチミツで代用もできます。 - 精製水 ...... 25ml
- ビーカー(またはガラス容器)
- スプレー容器30ml
- 〔How to〕※ 精油を使用する場合
- ビーカー(ガラス容器)にグリセリンを入れ、精油を垂らしてよく混ぜ合わせる。
- 1に精製水を注ぎ、さらに混ぜ合わせ、スプレー容器に移す。
※ スプレーをつくる際の注意点はこちらをご覧ください。
ミントを使った料理レシピとその効果
薬膳でミントは、「気」の巡りを促し、喉の腫れや痛み、熱、ほてりを和らげると考えられています。ただし、体を冷やすため、とり過ぎには注意しましょう。
日本ではスイーツやドリンクに飾りとして使われることが多いミントですが、東南アジアなどでは、生のまま料理の付け合わせやサラダにしたり、ジュースやお酒に使われたりしています。
タイの伝統料理「ラープ・ムー」もミントを使ったサラダです。
- 〔ラープ・ムーのつくり方〕
- 熱した鶏ガラスープに豚ひき肉を加え、火を通す。
- 煎り米、こぶみかんの葉、ナンプラー、唐辛子、ライムの絞り汁を加えてさらに炒める。
- 火から下ろして、刻んだミント、パクチー、紫玉ねぎ、小ねぎなどを和える。
- お皿に盛り付け、さらにミントやパクチー、バジルなどを散らす。キャベツやレタスなどで包んで食べる。
- 〔材料〕
- 豚ひき肉
- 煎り米(砕いて煎った米)
- こぶみかんの葉
- ミント
- パクチー
- バジル
- 紫玉ねぎ
- 小ねぎ
- キャベツまたはレタス
- ライムまたはレモン
- ナンプラー
- 一味唐辛子
- 鶏ガラスープの素
- 水
ミントを使った料理のレシピはこちらの記事でも公開中です。
ミントを使ったドリンクというとキューバ発祥のカクテル、モヒートが有名です。ラム酒を炭酸水やトニックウォーターに代えれば、ノンアルコールモヒートが楽しめます。
- 〔モヒートのつくり方〕
- タンブラーにグラニュー糖と絞ったライムを入れてよく混ぜる。
- ミントを加えて、スプーンなどでつぶす。
- ラムと炭酸水、氷を加えてゆっくりと混ぜる。
- 仕上げに手で叩いて香りを立てたミントを添える。
- 〔材料〕
- ラム
- 炭酸水
- ミント
- ライム
- グラニュー糖
- 氷
基本のモヒートやアレンジレシピは以下の記事で詳しく紹介しています。
ミントを使用する際の注意点
妊娠・授乳中の使用は医師に相談を
ミントのスーッとする香りはつわりのつらさを和らげてくれますが、その元となる香り成分には、胃酸の逆流や子宮を収縮させる働きがあるものも含まれるため注意が必要です。
高濃度で大量にとらなければ問題ありませんが、念のため、精油の使用やハーブティーの摂取は医師に相談したほうがよいでしょう。
3歳未満の乳幼児には使用しない
舌の痙攣や呼吸停止を起こす場合があるほか、皮膚や粘膜への刺激も強いため、3歳未満の乳幼児にミントの精油は使えません。
高血圧や胆石、逆流性食道炎の人は使用を避ける
血圧を上げる場合があるので、高血圧の人は使用を避けましょう。また、胆石の痛みを強めたり、逆流性食道炎を悪化させたりする場合もあります。
この方にお話を伺いました
株式会社ジャパンライフデザインシステムズ所属 葛和 恵奈子 (くずわ えなこ)

英国IFAアロマセラピスト/AEAJアロマセラピスト/AEAJアロマセラピーインストラクター/メディカルハーブコーディネーター/RTAベビーマッサージセラピスト
編集者として取材で出会ったハーブ&アロマのチカラに魅せられ、メディカルハーブ健康術&生活術を学ぶ。専門学校講師として、またイベントやセミナーでTPOに合わせたハーブ&アロマ活用方法を伝えている。2児男子の母。