自分でコントロールできない「咳」。特にコロナ禍以降は、人前で咳が出ると周囲の視線が気になり、焦ってしまうこともあります。どのように対応するとよいのでしょうか? 現代医学と漢方を併用した治療を行っている橋口玲子先生に、よくある咳の症状、対策におすすめのハーブティーやセルフケア方法を教わりました。
コンコンした咳が止まらなくなる場合
先日受診された気管支喘息(ぜんそく)のAさん(30代女性)から「電車の中で咳が出そうになると止めようと頑張るんですが、そうすると余計にひどく咳き込んでしまい困っています」と相談されました。
Aさんの発作は息苦しさよりも、むせたときのようなコンコンした咳が止まらなくなってしまう咳喘息と呼ばれるタイプ。普段から発作予防の吸入薬を使用していますが、乾いた冷たい空気を吸ったり、小走りに走ったりすると咳発作が起こります。毎年、冬からスギ花粉の飛ぶ春にかけて咳が悪化しやすいので、吸入薬に加えて、呼吸器粘膜を潤して咳を予防する漢方薬と抗アレルギー剤を併用することにしました。
乾いた咳は鼻やのどの粘膜を保湿するセルフケアを
Aさんのように常時治療を要するほどではないけれど、風邪をひいた後や花粉の飛散量の多いときに咳がひどくなる人もいます。このタイプの咳はのどがムズムズして咳き込んでしまうのが特徴です。痰(たん)はあまり絡みません。セルフケアとしては加湿器を使ったり、夜間もガーゼマスクをしたりして鼻やのどの粘膜の乾きを防ぎましょう。
緊張する場所に行く前にジャーマンカモミールティー
ジャーマンカモミールに含まれるフラボノイドのアピゲニンには筋肉の緊張を緩める効果もあるので、ハーブ療法ではこのような咳にも用います。
みなさんは、人が大勢いてシーンと静まり返っているような状況で、のどが詰まるような感じで咳払いをしたくなった経験はないでしょうか。精神的緊張によっても咽頭(いんとう)から喉頭(こうとう)にかけての筋肉は緊張するので、このような症状が起こるのです。
Aさんのように「電車で咳をしてはまずい」と緊張してかえって悪化するような場合、精神的なリラックス効果のあるアピゲニンは二重に咳の予防に役立ちます。水筒にジャーマンカモミールティーを入れておいて、電車に乗る前などに一口飲むといいでしょう。
のど飴を舐めるのも唾液を増やしてのどの潤いを増すだけでなく、嚥下(えんげ)運動を繰り返してのどの筋肉の緊張を緩めることで咳き込みの予防になります。もちろん、咳がひどい場合は医療機関を受診しましょう。
痰が絡んだ咳が長引く場合
一方、新型コロナウイルス感染症の後などは痰の絡んだ咳が長引くことがあります。痰のもとは気管支から分泌される粘液で、健康な人でも1日に60~100mlくらい産生されています。しかし、気管支粘膜表面の線毛の働きで気管支の奥から自然に運び出される間に蒸発したり吸収されたりして、咽頭まで達するのは10mlほどとされています。それも唾液と一緒に無意識に飲み込んでしまうので、ほとんど痰として自覚することはありません。
痰がたくさん出たり、黄色くなったりしているときはウイルスや細菌に感染したせいで、粘液量が増えているということです。また、感染のせいで線毛が傷ついたり働きが低下したりすると痰が気管内に停滞するので、痰を出すための咳反射が起こります。
つまり、痰の絡んだ咳は痰を出すために必要な反応ということになります。そのため、咳止めより痰をサラサラにして出しやすくする薬が使われます。
痰の切れを改善するエルダーフラワーのハーブティー
ハーブティーではエルダーフラワーがおすすめです。含まれるフラボノイドに痰の切れを改善する効果があります。これに合わせて飲みたいのがジャーマンカモミールです。
エルダーフラワーもジャーマンカモミールも抗ウイルス作用、抗炎症作用があるので風邪のひき始めのセルフケアの代表ハーブであり、長期に飲んでも問題ありません。
やはり気管支喘息で風邪をひくと咳や痰が悪化しやすいBさん(50代女性)は、新型コロナウイルス感染症の流行が始まって以来、普段の飲み物としてエルダーフラワーとジャーマンカモミールのブレンドティーを続けています。そのおかげか、約3年、風邪もひかず咳の悪化も起こっていません。
どちらのハーブも味や香りがよく、お子さんにも向きます。保育園に通う子どもは頻繁に風邪をひくものですが、咳をしていても発熱もなく元気な場合はハーブティーで様子を見てもいいでしょう。ただし、黄色い痰や鼻水が出ていたり、夜間にも咳がひどかったりする場合は医療機関を受診しましょう。
咳をするときに守りたい4つのポイント
新型コロナウイルス感染症もあって咳エチケットはだいぶ浸透したように思いますが、マスクをしていても咳やくしゃみで飛沫は飛ぶので以下のことは守っていきましょう。
- 人に向かって咳をしない
- 咳やくしゃみをするときはハンカチやティッシュペーパーでマスクを覆う
- とっさの場合は服の袖でマスクを覆う ※手のひらで覆っても飛沫は防げません
- ハンカチやティッシュペーパーを使った後は手を洗う
今後、マスク着用奨励も緩和されるでしょうが、咳やくしゃみが出るときはエチケットとして着用しましょう。
この方にお話を伺いました
緑蔭診療所 橋口 玲子 (はしぐち れいこ)

1954年鹿児島県生まれ。東邦大学医学部卒。東邦大学医学部客員講師、および薬学部非常勤講師、国際協力事業団専門家を経て、1994年より緑蔭診療所で現代医学と漢方を併用した診療を実施。循環器専門医、認定内科医、医学博士。高血圧、脂質異常症、メンタルヘルス不調などの診療とともに、ハーブティーやアロマセラピーを用いたセルフケアの指導および講演、執筆活動も行う。『医師が教えるアロマ&ハーブセラピー』(マイナビ)、『専門医が教える体にやさしいハーブ生活 』(幻冬舎)、『世界一やさしい! 野菜薬膳食材事典』(マイナビ)などの著書、監修書がある。