貧血や虚弱体質、老人性疾患、更年期障害などの改善に用いられる「地黄」。漢方薬では、ほかの生薬と合わせた「地黄丸」の名で知られています。成分や効能、対応する症状などを紹介します。
地黄とは?
地黄はアカヤジオウという植物の根の部分です。中国最古の薬物書『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』にも記され、古くから血(けつ)を補い体力をつける生薬として知られています。増血のほかに、血行やホルモン分泌にも効果があるとされ、貧血、虚弱体質の改善などに処方されます。以下のような加工法があり、それぞれ効能が異なります。
- 〔水(すい)を補う〕
- 乾地黄(かんじおう):水洗いした後にそのまま乾燥する
- 鮮地黄(せんじおう)・生地黄(しょうじおう):特に新鮮な状態のもの
- 〔血(けつ)を補う〕
- 熟地黄(じゅくじおう):乾燥した地黄に酒を加えて黒色になるまで蒸す
地黄はほかの生薬と組み合わせて使われることが多いのも特徴で、不足した体力などを補う「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」、老人性疾患によい「八味地黄丸(はちみじおうがん)」、補血に用いられる「四物湯(しもつとう)」など、多くの漢方薬に配合されています。
- 〔地黄〕
- 分類(科・属名):ゴマノハグサ科アカヤジオウ属
- 原産地:中国北部
- 使用部分:根
- 主な作用:補血、強壮
地黄の効果・効能
地黄は血を補って滋養する効果で知られている、重要な生薬です。増血のほかに、血行やホルモン分泌にも効果があるとされ、具体的には貧血、虚弱体質の改善などに処方されます。
ほかの生薬と組み合わせることで、血行不良によるしびれ、鼻出血、子宮の出血、乾燥性便秘、糖尿病、皮膚の乾燥やかゆみ、前立腺肥大などにも幅広く用いられています。
貧血
地黄は血を補う作用があることから、貧血の改善に使われます。
虚弱体質
古くから血を補い体力をつける強壮の薬として用いられています。
月経不順
血(けつ)が不足する「血虚(けっきょ)」による不調にも地黄は用いられます。漢方では月経不順は血液が不足することが原因と考え、補血効果を持つ地黄などの生薬が使われます。
更年期症状
漢方では更年期による不調を「腎(じん)」の衰え=「腎虚(じんきょ)」と考えます。地黄には「腎」を補う作用があるため、更年期症状の改善に用いられます。
前立腺肥大に伴う排尿困難
男性は前立腺肥大に伴い、排尿困難が起こりやすくなるといわれています。加齢や男性ホルモンの関与が考えられており、地黄が使われることもあります。
地黄に副作用はある?
地黄は消化作用を抑制するため、副作用として胃腸障害(腹痛、下痢)が起こることがあります。そのため胃腸の調子が悪い場合は、ほかの漢方薬が処方される場合があります。
地黄を含む漢方薬を利用して副作用が起こった場合は、必ず医師に相談しましょう。
地黄を含む漢方には何がある?
地黄は以下の漢方薬に含まれています。
八味地黄丸(はちみじおうがん):加齢により体力が低下し、足腰や泌尿生殖器など下半身の衰えがあり、冷えを伴う人におすすめの漢方です。体を温め、体全体の機能低下を改善する効果が期待できます。
六味地黄丸(ろくみじおうがん):血液や潤いが不足している「腎陰虚(じんいんきょ)」に対応する漢方薬で、腎の機能を高める作用があります。頻尿や排尿困難の改善のほか、むくみ、かゆみの治療にも使われます。
四物湯(しもつとう):女性に多い「血虚」で処方されることの多い漢方。熟地黄など、補血作用のある4つの漢方が含まれています。
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう):胃腸の機能を高めて「気(き)」「血」を補う漢方薬。食欲不振を解消し、疲労を回復します。病み上がりの体力低下、貧血や手足の冷え改善などにも用いられます。
杞菊地黄丸(こぎくじおうがん):「六味地黄丸」に菊花と枸杞子(くこし)を加えた漢方薬です。視力減退・目のかすみに適用されます。
知柏地黄丸(ちばくじおうがん):「六味地黄丸」に知母(ちも)と黄柏(おうばく)を加えた漢方薬です。更年期で現れるホットフラッシュ(ほてり、のぼせなど)を和らげることで知られています。
地黄こぼれ話
その昔、地黄を煎じたものは「地黄煎(じおうせん)」と呼ばれ、それに水飴を混ぜたもの、さらにはただの飴も「地黄煎」と呼ばれるようになっていきました。
江代の読みもの『絵本小夜時雨』には、この地黄煎を売る者が盗賊によって命を落とし、「地黄煎火(じおうせんび)」という怪火(火の玉のようなもの)になったという話があります。このようなことから、地黄は古くから日本人の生活に根づいた生薬だったと考えられます。