一般的に、お風呂は「シャワーだけよりも湯船に浸かった方が健康によい」といわれますが、湯船の設定温度によっても体が受ける影響はずいぶん変わります。
寝る前にお風呂に入る場合、何度の湯が最適で、どのような効果があるのか。お風呂の入り方のコツとあわせて解説します。
ぬるめのお風呂で入眠をスムーズに
睡眠不足や質の悪い睡眠が続くと、ホルモン分泌や血圧、血糖値などを乱し、生活習慣病やうつ病などのリスクを高めることが近年の研究で分かってきています。
そこで注目したいのが、就寝前の入浴。このとき、湯温はぬるめの38~40度が正解。ぬるめの湯に浸かることで、自律神経のうち副交感神経が優位になり、心身は一気にリラックスモードに。スムーズな入眠につながります。
逆に40度を超える湯温では交感神経が優位になってしまいます。神経が高ぶり寝付きを悪くするため、寝る前は熱い湯に浸かるのを控えましょう。
ちなみに、眠りにつく前、体は手足の末端の血管を拡張させて血流を増やし、たまった熱を放散します。これによって深部体温が下がり、眠気が訪れるのです。手足が冷えていると、この熱放射がうまく行えないため、快眠を得るためには就寝前に体を冷やさないようにしましょう。
入浴で自己治癒力を高めよう
入浴のメリットは、ヒートショックプロテイン(HSP)の産出にもあります。
ヒートショックプロテインとは、私たちの体内でつくられているタンパク質の一種で、体温が上がると生み出されます。熱というショック(刺激)を体に与えると増えることから、「ヒートショック」という名前がついています。
ヒートショックプロテインにはダメージを受けた細胞を修復する働きがあり、「自分の体を治すタンパク質」とも。その研究はまだ途中段階ではありますが、傷を治りやすくする抗炎症作用や、風邪などの感染症の予防効果が期待されています。
このヒートショックプロテインがもっとも多くつくられるのは、体温が平熱プラス2度になったとき。入浴は、日常生活で体温を2度上げる絶好の機会です。自己治癒力を高める意味でも、入浴のメリットは大きいと言えます。
ヒートショックプロテインには細胞を修復する働きも
体の細胞をつくっているタンパク質は、ストレスや病気などによりダメージを受けてしまいます。ヒートショックプロテインは、これらダメージを受けたタンパク質を治す働きがあるとされており、以下4つの効果が期待されています。
- 免疫力アップ
- 冷え症の改善
- 体の痛みが和らぐ
- 疲れが回復しやすくなる
お風呂はぬるめの温度で、長く浸かるのが効果的
ヒートショックプロテインを効率よくつくり出すには、湯に長く浸かることが重要。
下の図で示されているように、40度の湯に20分浸かったときと、42度の高温の湯に5分浸かったときとでは前者のほうが多くつくられ、そのピークは2日後であることが分かっています。
出典:伊藤要子 第45回日本臨床生理学会総会
つまり、入浴は「ぬるめ(38~40度)の温度&長めの時間」が、もっともヒートショックプロテインを多く産出できて効果的。湯に浸かるときは全身浴(※)がおすすめです。水圧により下半身の血液が心臓に戻りやすくなり、血液循環が改善します。
※ 心臓の弱い方や高血圧などの持病がある方、高齢者の方には負担となる恐れがあるので注意してください。
なお、「ぬるめ・長め」の入浴で体温が2度上がると大量の汗が出ます。入浴前後は必ず水分補給を行いましょう。水分をとる際は体を冷やさないよう、できるだけ常温以上のものにすることがおすすめです。
お風呂で筋肉トレーニング
実は、入浴中は関節に負担をかけずに筋肉トレーニングをするチャンス。
浴槽の壁に手や足を突っ張り、力を入れた状態で10秒間キープしましょう。6秒以上同じ部位に負荷をかけ続けることで、筋力アップにつながります。
力が入っている部位を意識し、繰り返し行ってください。
就寝前の「ぬるめ・長め」の入浴を習慣にしてその日の疲れをしっかり癒やし、元気に毎日を過ごしましょう。
お風呂の中でできる簡単なストレッチについては、下記記事でもご紹介しています。あわせて参考にしてください。
この方にお話を伺いました
東京有明医療大学保険医学部鍼灸学科教授、東洋医学研究所付属クリニック自然医療部門 川嶋 朗 (かわしま あきら)

北海道大学医学部卒業。ハーバード大学医学部留学などを経て、現職に至る。日本統合医療学会理事。西洋医学と代替・補完・伝統医療を統合した医療を目指す。著書に『心もからだも「冷え」が万病のもと』(集英社)ほか多数。