免疫力は、私たちの体に備わっている防衛力のことです。これが低下すると、風邪などの感染症やがんなどの病気が発症しやすくなるだけでなく、老化も進行してしまいます。
まずはセルフチェック。そのうえで、免疫力が低下する原因と、ケアの方法を知っておきましょう。
免疫力とは?
免疫系は自律神経系、内分泌系とともに体内時計と連動して、体を一定の状態に保つ(恒常性維持)働きをしています。
アレルゲンや細菌、ウイルスなどの異物が体に侵入してきたときにそれらを排除したり、体内でがん化しかかった細胞ができたり炎症が起き始めたりしたときに、元に戻すために活性化したりするのが主な免疫系の働きです。
また、加齢による遺伝子、細胞レベルでの変性を修復する働きにも免疫系は深く関わっています。免疫力が低下すると感染症やがんが発症しやすくなるだけでなく、老化も進行するということになります。
あなたの免疫力の乱れをセルフチェック
免疫力の乱れには2つのタイプがあります。1つは「過剰反応」タイプ、もう1つが「免疫力の低下」タイプです。
まずは自分の免疫力の乱れをセルフチェックしてみましょう。
- 〔免疫力の過剰反応タイプ〕
- □ 年々花粉症がひどくなっている
- □ いつも鼻水や鼻づまりがある
- □ アトピー性皮膚炎である
- □ 花粉症の時期やほこりを吸い込んだときに喘息が出る
上記に1個以上チェックがついた人は、免疫力の過剰反応タイプの可能性があります。
花粉症やアトピー性皮膚炎、気管支喘息などのアレルギー性疾患は、本来は体にとって害のないものに過剰に免疫反応が生じて症状がおこります。
薬による治療も必要ですが、食生活や睡眠不足などにも気をつけ、心身ともにリラックスすることを心がけて、症状が悪化しないように免疫力を整えましょう。
- 〔免疫力の低下タイプ〕
- □ 風邪をひきやすい
- □ 扁桃炎や口内炎を繰り返す
- □ 口唇ヘルペスができやすい
- □ 喉が腫れやすい
- □ 睡眠が6時間未満である
- □ 疲れがたまっている
上記に3個以上チェックがついた人は、免疫力の低下タイプの可能性があります。
扁桃炎や口内炎、口唇ヘルペスは30代の働き盛りの世代にも多く見られます。
免疫力の低下を改善するには、なぜ下がったのかを知ることが大切。以下の、免疫力が低下する原因に心当たりはありませんか?
免疫力低下の原因
免疫系、自律神経系、内分泌系は自動調節されていますが、それら恒常性維持システムと連動する体内時計は、日々の生活習慣と直結しています。
免疫力が低下する主な8つの原因をご紹介します。
1. 睡眠不足
体の修復システムは睡眠中に活発に働くので、睡眠不足になるとこれがうまく機能せず、免疫力が低下してしまいます。
2. ストレス
人付き合いなどの精神的ストレスだけでなく、時間や情報に追われることも現代人にとっては大きなストレス要因です。
ストレスにさらされると、脳の視床下部(恒常性維持システムの司令塔)から脳下垂体を通して副腎皮質へと、抗ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を促進するためのホルモンのバトンリレーが起こります。
この反応は恒常性維持のために必要なのですが、長期に続くと免疫力はダウンしていきます。ストレスは同時に自律神経系にも負荷になるので、さらに免疫力の低下につながります。
3. 疲労
自律神経系は活動時に活発になる交感神経と、夜間や安静時に活発になる副交感神経がセットになっています。
ストレスが重なったり体を無理に動かし続けたりしていると、交感神経が過剰反応して疲労につながります。これが長引くと、睡眠中の副交感神経優位な状態から起床後の交感神経優位な状態に切り替わりが悪くなります。
そうなると朝のけだるさや頭が重い、微熱が出やすいなどの症状が出てきます。このような状態では免疫力も低下し、単純ヘルペスを繰り返したり帯状疱疹を発症しやすくなったりします。
4. 食生活の乱れ
食生活が乱れたり、高脂肪の食事に偏ったりすると、免疫力の維持に必要な栄養が不足したりします。腸内環境も悪化し、免疫力が低下につながります。
5. 運動不足と運動のし過ぎ
運動不足になると筋力が衰え、代謝が悪くなって免疫力が低下します。
では激しく運動をすればいいかというと、それも逆効果。過度な運動は体にストレスになり、免疫機能の低下をまねきます。
6. 冷え
体が冷えると血流が悪くなり、免疫力の低下につながります。
精神的不安や時間に追われる緊張が続く場合も、交感神経が活性化して心拍数、血圧が上昇し、末梢血管の収縮による手足の冷えを引き起こします。
7. 加齢
免疫系も、運動能力や視力、聴力などと同様に、年齢とともに衰えていきます。
年齢とともに風邪をひきやすくなったり、回復が遅くなったりするのは、免疫力低下の影響と考えられるでしょう。
8. 喫煙
タバコにはニコチンやタールなど多くの有害物質が含まれており、これらが血管を傷つけたり血流を悪くしたりして免疫力を低下させます。
免疫力を高める方法7選
上のように睡眠不足で朝食を摂らず、昼食や夕食で炭水化物と脂質の多い食事をとるという生活に加えて運動不足が続くと、血糖値、中性脂肪、血圧が上昇し、内臓脂肪の蓄積を表すメタボリック症候群から生活習慣病を引き起こします。
生活習慣病は体内の酸化による慢性炎症から免疫力低下、老化、がん化につながります。
下のポイントを心がけながら、今日から、免疫力を高める生活に切り替えましょう。
早寝、早起きはセルフケアの第一歩
子どもの生活指導でよく「早寝、早起き、朝ご飯」と言われますが、これは免疫力低下を防ぐ理にかなった方法です。
睡眠不足を避けることは免疫力低下を防ぐセルフケアの第一歩ですが、何時間眠るかだけでなく、どの時刻に眠るかも大切です。
明け方からの睡眠では深睡眠が減ってしまうので、体の修復だけでなく脳の疲労回復も悪くなります。早い時刻から十分寝て、早起きして太陽の光を浴びることで体内時計のスイッチを入れると免疫系も活性化します。
バランスの良い疲れを意識する
「頭・体・気」を適度にどれも使うと、疲れのバランスがとれてぐっすり眠りやすくなり、免疫力アップにつながります。
デスクワークの人ならストレッチをする、体力を使う仕事なら本を読む、日中人と関わる時間の少ない人は近所の人と話したり社会人サークルに参加したりしてみるなど、仕事と異なるシーンを生活に組み込んでみましょう。
ストレスをためない
ストレス対策には、脳に入ってくる情報量を制限することが役立ちます。スマートフォンなどですぐに情報にアクセスできるのは便利ですが、ずっとしていると常に気が散っているような状態になってしまいます。
スマホやPCの電源を切る時間を作りましょう。明日でもよい返信も多いはず。寝室にスマホを持ち込まないだけでも眠りが深くなると言われています。
紙の本を読む時間をつくることも、情報ストレスの緩和におすすめです。
ストレスを緩和する呼吸法でセルフケア
ストレスによるホルモン系と自律神経系の過剰反応を防ぐセルフケアの1つとして、簡単にできる呼吸法をご紹介します。
方法は「ため息をつく要領で長く息を吐く」だけ。運転中などはフーッと声を出しながらもいいでしょう。吐ききったら吸うのは自然に任せます。
ゆっくり息を吐く呼吸法はリラックスを促します。
一方、リフレッシュの呼吸には歌を歌うのがおすすめです。
小さな「やったー」「嬉しい」といった感情もリフレッシュになるので、よくやりとりをする人と些細なことでも褒め合うのも大切です。
栄養バランスの良い食事をとる
食生活ではなるべく多種類の食材をとることが、免疫力維持に役立ちます。
腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸など)と呼ばれる生理活性物質は、免疫力を高めるだけでなく、他の善玉菌を増やしたり、精神的な健康にも関わったりしていると考えられています。
トマト、ピーマン、ブロッコリーなどの緑黄色野菜もとると、食物繊維と同時にポリフェノールやβカロテン、ビタミンCなどの抗酸化成分も摂れ、さらに免疫力にプラスです。
一人暮らしで多種類の食材をそろえにくい場合は、社員食堂やコンビニ弁当でなるべく食材の数の多いものを選んだり、小鉢を足したりするといいでしょう。
どうしても偏りがちになりやすい人は、下記のような、調理なしで簡単にプラスできる「タンパク質ストック」があると便利です。
- 〔タンパク質ストック食材〕
- ツナ缶、サバ缶
- 魚肉ソーセージ
- プロセスチーズ
- ヨーグルト
- 牛乳
朝食は体内時計を入れるスイッチ
体内時計のスイッチを入れるには朝食がとても大切です。
脳の視床下部にあるマスタークロックだけでなく、内臓や全身の細胞一つ一つにも末梢時計が存在します。
朝食をとることで内臓時計が活動に向かって動き出すと、脳だけでなく新陳代謝も活性化するので、朝食は肥満の予防にもなるのです。
免疫力の過剰反応タイプは「n-3(オメガ3)系脂肪酸」を
免疫力の過剰反応タイプは、アレルギー症状の予防・軽減に効果的といわれている栄養を意識してとるのがおすすめです。
それが、青魚に豊富なDHAやEPAなどの「n-3(オメガ3)系脂肪酸」。
手軽にとる方法として、毎日使うオイルを亜麻仁(フラックスシード)油、エゴマ油、シソ油に変えてみてはいかがでしょうか。酸化しやすいため、熱を加えず料理にそのままかけたり、ドレッシングに使いましょう。
- 〔加熱しない調理に向く油〕
- 亜麻仁(フラックスシード)油、エゴマ油、紫蘇油
- 〔加熱調理に向く油〕
- オリーブオイル、菜種油、ゴマ油
適度な運動を習慣化する
適度な運動をすると、体温が上がって血行がよくなります。すると代謝の向上につながり、免疫力もアップします。
おすすめは、少し汗をかくくらいの軽いジョギングやウォーキング。無理なくできる運動を、習慣にして長く続けることが肝心です。
体を温める
シャワーのみでは体を温める効果が得られません。夏はぬるめの湯にするなどして、毎日湯船につかって体を温める習慣をつけましょう。
冷える季節には湯たんぽや腹巻などを活用して、冷えを防ぐことも大切です。
ジャーマンカモミールやエキナセアなどのハーブを取り入れる
免疫力の過剰反応タイプにおすすめなのが、抗アレルギー作用や、抗炎症作用のあるハーブで、ジャーマンカモミールが代表的です。
発汗・保湿作用のあるエルダーフラワーとのブレンドは、免疫力が低下している人で、特に風邪のひきはじめ、扁桃炎や口内炎を繰り返す人に適しています。
風邪の初期には、エキナセアもおすすめです。
腸内環境の改善が、免疫力アップのカギ!
免疫に関わる細胞の約7割が、腸にあると言われています。腸内に善玉菌が多いと、免疫力アップにつながります。
腸内環境改善に役立つ栄養素と、胃腸を温める効果のある生薬・スパイスをご紹介します。
食物繊維や発酵食品は毎日欠かさず取り入れよう
腸内細菌叢にとって重要なのは、どれか一つの菌種が多いことではなく、多種多様な菌種が存在することです。腸内細菌のエサは食物繊維なので、根菜、キノコ、豆、海藻などいろいろな植物食材から食物繊維をとりましょう。
食物繊維は大きく分けて、水に溶ける水溶性と、水に溶けにくい不溶性の2種類があります。水溶性は便を柔らかくして善玉菌を増やす働きがあり、不溶性食物繊維は腸の動き(蠕動(ぜんどう)運動)をよくする効果が期待できます。
不溶性・水溶性のどちらか一方を摂取するのではなく、両方をバランスよく補うことが大切です。
また、発酵食品には、腸内の善玉菌を活性化する働きがあります。毎日欠かさずとることで、腸内環境を整えるのに役立ちます。発酵食品によって含まれる菌や栄養素が異なるため、複数とることがおすすめです。
- 〔水溶性食物繊維を多く含む主な食べ物〕
- 果物や海藻類など
- 〔不溶性食物繊維を多く含む主な食べ物〕
- 穀物・根菜・きのこ類・豆類など
- 〔主な発酵食品〕
- 納豆・ヨーグルト・みそ・キムチ・漬物など
発酵食品の効果については、下記の記事で詳しく解説しています。こちらも参考にしてくださいね。
胃腸を温めるには内側からのケアが大事
東洋医学では、胃腸の冷えが免疫力低下につながると考えられています。胃腸を温めるには内側からのケアが肝心。温かい飲料をとるほか、温める作用のある生薬やスパイスを活用するのもおすすめです。
温め効果のあるスパイス
八角
体内の代謝や消化活動を活発にして胃腸を整える効果や、血行促進などの効果があります。
シナモン
漢方では「桂皮(ケイヒ)」と呼ばれています。体の冷えを取り除き、血の巡りをよくする成分が含まれる他、食欲不振を解消して胃腸を整える作用があり、多くの胃腸薬に配合されています。
フェンネル
日本では「茴香(ういきょう)」と呼ばれるハーブで、胃腸の調子を整え、便秘を解消する効果や、体の新陳代謝を活発化させるなどの効果が期待できます。
ナツメグ
漢方では消化不良や下痢の薬として処方されています。日本でも古くから胃腸薬に配合されており、整腸作用が期待できます。
この方にお話を伺いました
緑蔭診療所 橋口 玲子 (はしぐち れいこ)
1954年鹿児島県生まれ。東邦大学医学部卒。東邦大学医学部客員講師、および薬学部非常勤講師、国際協力事業団専門家を経て、1994年より緑蔭診療所で現代医学と漢方を併用した診療を実施。循環器専門医、小児科専門医、認定内科医、医学博士。高血圧、脂質異常症、メンタルヘルス不調などの診療とともに、ハーブティやアロマセラピーを用いたセルフケアの指導および講演、執筆活動も行う。『医師が教えるアロマ&ハーブセラピー』(マイナビ)、『専門医が教える体にやさしいハーブ生活 』(幻冬舎)、『世界一やさしい! 野菜薬膳食材事典』(マイナビ)などの著書、監修書がある。