外出自粛など生活様式の変化で人と話す機会が減っている今、私たちの声がピンチです。
声、すなわち声帯の老化は、全身の老化のサイン。早めに気づいて、声からエイジングケアを始めましょう。
声帯の老化度をチェック!
まずは、自分の声帯がどのくらい老化しているのかチェックしてみましょう。リストのうち2つ以上にチェックがついたら黄色信号です。
- 〔声帯の老化度チェック〕
- □ 人から「声が変わった」と言われた
- □ 昔と同じキーで歌えなくなった
- □ しばらく黙っていた後の第一声が出にくい
- □ 少ししゃべっただけで話し疲れる
- □ 活舌が悪くなった
- □ 声がガラガラしたり、かすれたりする
- □ 「あー」と小さな声を出して、一息で以下の秒数が続かない(※)
- (男性の目安)
50歳未満 ...... 25秒
50~69歳 ...... 15秒
70歳以上 ...... 12秒 - (女性の目安)
50歳未満 ...... 15秒
50~69歳 ...... 12秒
70歳以上 ...... 10秒
※肺に疾患がある場合はこの限りではありません。
声帯の老化の原因には、人と話す機会の減少や日本語特有の口先だけの発声方法、喉の乾燥などがありますが、日常の簡単なトレーニングでケア可能。さっそく、声からエイジングケアを心がけましょう。
声帯の老化は筋肉の衰え
老化による声帯の変化
喉の奥にある声帯は、息を吸う時に開き、声を出す時に閉じます。吐く息によって声帯が振動することで声が出ますが、この時、声帯がピタッと閉じていると、きれいに振動してハリのある声に。
一方、老化により声帯筋や声帯の周囲の筋肉が衰えて声帯にたるみが生じると、声を出す時にピタッと閉じず隙間ができてしまい、ハリのないかすれた声に。加齢と共に声帯筋を覆う粘膜層の潤いが低下してハリがなくなることも、声帯がたるむ原因のひとつです。
また、歳を重ねると声の高さにも変化が生じます。女性は更年期以降、女性ホルモンの分泌量が減ると声帯がむくんで太くなり、声が低くなります。男性は加齢と共に声帯の筋肉が萎縮し硬くなるので、声が高くなる傾向があります。
声帯の老化は全身に影響
声帯がしっかり閉じなくなると、体に力を入れづらくなります。つまずいた時にとっさに踏みとどまれなくなった、瓶の蓋が開けにくくなった、トイレでいきめなくなったなども声帯の老化が影響している可能性が。
体に力を入れようと踏ん張る時、私たちは無意識に声帯を閉じて(息をこらえて)肺をパンパンに張り、上体を安定させます。このとき、声帯がしっかり閉じないと空気が漏れ、力が入りにくくなってしまうのです。
また、声帯は気管の入り口にあるため、ここに隙間ができると食べ物や唾液など食道に入るべきものが気管に入りやすくなり、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクも高くなります。
声帯を鍛えよう! 息こらえトレーニング
体に力を入れると声帯が縮まるので、声帯筋や声帯周囲の首の筋肉が鍛えられます。息こらえトレーニングで、声帯を若返らせましょう。
- 〔How to〕
- 胸の前で手を組み、 大きく息を吸う。
- 組んだ両手を左右に引っ張りながら3~5秒息を止める。
- 力を抜いてゆっくり息を吐く。
- 1~3を5~10回1セットとして朝昼晩 1セットずつ行う。
※ クラクラするまで息を止めないように。無理のない強度と回数で長く続けましょう。
※ 体に力を入れた状態で声を出すと喉を傷めてしまうので、声を出さずに行ってください。
まずは息を止める秒数を短く、回数を少なく設定して1ヶ月続け、トレーニングを始めた当初と比べて声の出しやすさをチェック。慣れてきたら息を止める秒数を長くしたり、回数を増やしたりしてもよいでしょう。
今すぐ実践!声から始めるエイジングケア
マスク装着時の話し方のコツ
声の老化を引き起こす一番の原因は話さなくなることです。特に、定年退職や外出自粛で家にいる時間が多くなるなど、生活様式が大きく変化する時は要注意です。
特に、マスクをつけたまま話すようになると、表情筋を動かさずにマスク内の空間だけで口を動かすため、もごもごとした話し方になってしまいがちです。これまでと比較して発声量が圧倒的に少なくなり声帯の老化に直結。マスクをつけていても、口は大きく開け、口角を上げて話すようにするほか、以下に気をつけて声帯をケアしましょう。
声帯ケア① 人と話す機会を増やす
情報のやり取りを全てメールやSNSなどで済まさず、時には電話や、スマートフォンやPCを活用したテレビ電話などで会話をする機会を増やしましょう。
声帯ケア② 腹式発声の機会をつくる
腹式で発声すると自然と声帯を鍛えることができます。歌や朗読は、息を深く吸って声を出すので腹式発声の練習におすすめです。
また、英語は息を強く吐いて発音する必要があるため、英語を話すと自然と腹式発声に。英会話を始めてみるのもいいですね。
声帯ケア③ 姿勢を正して、肺と声帯をまっすぐに保つ
こんな姿勢になっていませんか?
安定した声を出すためには、呼吸器や腹筋を含めた全身が連動して働く必要があります。
姿勢が悪いと肺から上がってくる空気が遮られるので声の響きに影響が出るほか、顎が前に突き出ていると口が開きやすくなるため、口呼吸になり喉の乾燥にも繋がります。
声帯ケア④ 喉の乾燥を防ぐ
喉の乾燥は声帯を痛める原因のひとつです。マスクや加湿器を活用して喉の潤いを保ちましょう。のど飴をなめると唾液の分泌が促され、喉の潤いを補えます(※)。
※のど飴には糖分が多く含まれているため、とり過ぎると唾液が喉に絡んで発声しにくくなります。適量を心がけてください。
声帯ケア⑤ 声帯に悪影響を及ぼす生活を改める
過労や寝不足、体調不良などのストレス、糖質や脂質、カフェイン、炭酸飲料、アルコールなどのとり過ぎは声帯を傷つける原因となります。
喫煙も、声帯のむくみを引き起こして声帯に隙間ができるので好ましくありません。
この方にお話を伺いました
東京医科大学病院耳 鼻咽喉科・頭頸部外科講師 新宿ポイスクリニック医師 本橋 玲 (もとはし れい)

ボイスクリニックなど声に特化した外来で、喉の病気や声にまつわる疾息、悩みについての治療、指導を行う。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医・耳鼻咽喉科専門研修指導医、日本頭頸部外科学会頭頸部がん専門医、日本気管食道科学会認定気管食道科専門医。共著に『誤嚥性肺炎を自力で撃退するNO.1療法」(マキノ出版)。