和ハーブ協会の古谷暢基(ふるや まさき)さんによる不定期連載。第5回は、同協会で行っている「和ハーブ検定」で実際に出題している問題から、少し珍しい和ハーブの知識をお話しいただきました。
クイズ形式なので、皆さんもぜひ答えながら読み進めてみてください。全5問、全て正解したあなたは和ハーブマスターかも!?
前回記事では、クロモジを始めとする和ハーブが自然界で生き残るために作る成分(ファイトアレキシン)を、人が病気の治療や予防などに研究・実践しているということを紹介しました。(前回記事参照)
今回はちょっと趣向を変え、当協会が年に3回ほど全国で開催している「和ハーブ検定」の問題にチャレンジしてもらいながら、私たちのご祖先様の生活と命を支えてきた和ハーブについてどれだけご存知か、あるいはどれだけ忘れてしまっているかを確認していきたいと思います。
それぞれ問題のあとに解説がついているので、ぜひチェックしてくださいね。
事前知識:和ハーブとは日本古来の有用植物
和ハーブとは日本で古くから親しまれ、有用されてきた植物の総称。
西洋ハーブ(ヨーロッパの伝承医療に使われ、料理の香りづけや、保存料、防虫剤としても利用されてきた有用植物)に比べ、和ハーブは香りや味わいがおだやかなものが多いといわれています。
和ハーブはどれだ?
前半は、和ハーブを見分ける問題です。ハーブと聞くと薬効が強いイメージがありますが、"有用植物"という意味では、野菜もハーブに含まれる点に注目してください。
- 問題1 次のうち、和ハーブのカテゴリに入らない植物は?
- シナモン
- タイム
- ラベンダー
正解はこちら。
シナモンやタイムという名称はいかにも海外由来のハーブを連想させますが、日本の野生にも生息し、古くから活用されていました。
一般的によく使われるシナモンは「セイロンシナモン」。"和のシナモン"は「ヤブニッケイ」(学名:Cinammomum japonicum)といい、関東地方以西の海岸に近い森林に多く見られます。
セイロンシナモンと比べると香りは柔らかいですが、和ハーブらしい優しい芳香を持ち、古い文献を見ると薬用や果実のオイルとして有用されていたようです。
ヤブニッケイ
また、西洋料理で魚や肉などの匂い消しとして使われるタイムも、「イブキジャコウソウ」(学名:Thymus quinquecostatus)という日本原産種が存在します。
日本の寒冷地~亜高山の岩場など痩せ地に生息しますが、特に名称の由来となった"薬草の聖地"伊吹山では、入浴剤やお茶として古くから有用されてきました。
イブキジャコウソウ
ということで、正解はラベンダーです。
北海道富良野市の風景やアロマオイルの原料として、日本人には有名でしょうか。西洋ハーブの方が私たちのご先祖様の命を支えてきた和ハーブより有名という現実は、少し歯がゆい気がしますね。和ハーブ検定は、そんな"足元の宝物"を再認識してもらうための活動でもあります。
問題1の答え → 3.ラベンダー
- 問題2 次の日本の食卓で親しまれる野菜のうち、和ハーブでないものは?
- ハクサイ
- レタス
- ダイコン
正解はこちら。
ハーブと聞いてこれらを連想することは少ないかもしれません。しかし、"有用植物"という意味で野菜も立派なハーブです。
西洋のイメージが強いレタスを選ぶ人が多いですが、「チシャ」という名称にて古くから食されていました。1697年の『農業全書』(宮崎貞夫)にも栽培法から調理法まで詳しく掲載され、特に西日本ではダイコンと並んで庶民の日常野菜でした。
意外と思われるかもしれませんが、正解はハクサイ。現代では鍋物やお漬物の代表的な素材で日本古来の食材と思われがちですが、日本に導入されたのは明治時代以降です。
問題2の答え → 1.ハクサイ
- 問題3 次の"和のスパイス"のうち、韓国でトウガラシが入る以前にキムチの辛み付けに使われていた植物を1つ選びなさい。
- サンショウ
- ショウガ
- ピパーチ
正解はこちら。
食文化や生活習慣が類似している(日本文化のルーツともいわれる)お隣の韓国ハーブと、和ハーブの共通性についての問題です。
韓国といえばトウガラシのイメージがありますが、実際に導入されたのは16世紀の後半。それも豊臣秀吉の朝鮮遠征を通じ、日本から伝わったといわれています。
ではそれ以前のキムチの風味付けは何を使っていたかといえば、日本と同様に自然に豊富に生えているサンショウです。それも日本ではあまり使われない「イヌザンショウ」の果実のオイルを使って、各種野菜などの食材を漬け込んでいたようです。
問題3の答え → 1.サンショウ
イヌザンショウ
薬効のある和ハーブ
日本には、漢方につながるノウハウが伝わる以前から、独自の薬草文化が存在しました。薬草とは、民間療法として人びとの経験の積み重ねから築き上げられた民間薬で、日本で古くから庶民の間で使われてきた薬草を、漢方薬に対して「和薬」といいます。協会ではこの忘れられた日本人の健康を支えてきた文化にスポットを当てています。
次の2問は、そんな日本の薬草を見分ける問題と、薬効成分にまつわる問題です。
- 問題4 次のうちから「日本三大薬草」でないものを1つ選びなさい。
- ドクダミ
- ヨモギ
- ゲンノショウコ
正解はこちら。
日本三大薬草は「ドクダミ」「ゲンノショウコ」「センブリ」、さらにそこに「カキドオシ」「ウラジロガシ」「タラノキ」が加わり日本六大薬草となります。
この6種は漢方のルーツとなった中医学ではあまり使われておらず、"日本特有のメディカルカルチャー"と言えるでしょう。
特に和薬研究の第一人者として知られる水野瑞夫(薬学博士、和ハーブ協会最高顧問)が"日本人が最も使ってきた薬草"とするゲンノショウコは、下痢にも便秘にも効くお腹の万能薬として重宝されてきました。江戸の町の風物詩として、町中の民家の軒先にはゲンノショウコが干されていたという記録も残っています。
ゲンノショウコの花
日本三大薬草でないのはヨモギ。三大薬草ではないものの、ヨモギも民間薬として使われてきた和ハーブのひとつです。皮膚の炎症や出血止めとしての外用薬になったほか、琉球文化においては血圧や熱を下げる"サギグスイ(下げ薬)"としても活躍。さらに、オオヨモギの葉の裏の毛はお灸の原料として使われていました。
問題4の答え → 2.ヨモギ
- 問題5 次の和ハーブの薬効成分から、活性酸素が多く発生する人の細胞内にて抗酸化作用を発揮すると考えられる成分を1つ選びなさい。
- カロテノイド
- アントシアニン
- タンニン
正解はこちら。
次は少しアカデミックな問題です。活性酸素による老化や生活習慣病リスクについてはよく知られるところですが、それに対して、植物素材に含まれるフィトケミカル成分による抗酸化作用が注目されています。
人の細胞内では、太古の時代に人と共生を選んだミトコンドリア周辺に、多く活性酸素が発生すると考えられています。
ミトコンドリア自体は人の生命維持に欠かせない重要な細胞器官ですが、酸素を大量に使用してエネルギーを生産するために、活性酸素が副産物として多く出るのです。
抗酸化作用としては、紫や赤の色素で知られるアントシアニンが有名ですが、水溶性であり、脂質でできている人の細胞膜を通り抜けられません(※)。
一方で、カロテノイド類や、ビタミンE(トコフェロール)は脂溶性なので、細胞膜を潜り抜けてミトコンドリア周辺にて抗酸化作用を発揮すると考えられます。
※アントシアニンと同様に水溶性のビタミンC=アスコルビン酸は、主に細胞外で抗酸化の働きをしていると考えられています。
ちなみにタンニン類は、タンパク質・鉄・アルカロイド(植物が合成する薬・毒成分)などと結合する性質を持つ成分の総称で、皮膚や粘膜などの抗炎症や、皮なめし、媒染(色の固定)など、多くの生活文化の側面で有用されてきた成分です。
アントシアニンと同じ水溶性のタンニンは、渋みを感じる特徴があります。和薬の代表であるゲンノシヨウコやヨモギの薬効はこのタンニンによるものです。
問題5の答え → 1.カロテノイド
このように和ハーブ検定では、単に植物の種類や生態のみならず、日本人がどのように日本の自然に生えている植物の特徴を捉え、生活の中に有用してきたかの知恵を文化的・科学的に分析します。
さらに"伝統の知恵の掘り起こし"とともに、それをどう未来に活用していくかの視点から解明し、身につけられる内容となっています。
次回は、和ハーブ検定に挑戦!の第2弾「生活文化編」を紹介したいと思います。
過去の記事
この方にお話を伺いました
(一社)和ハーブ協会代表理事、医学博士 古谷 暢基 (ふるや まさき)

2009年10月日本の植物文化に着目し、その文化を未来へ繋げていくことを使命とした「(一社)和ハーブ協会」を設立、2013年には経済産業省・農林水産省認定事業に。企業や学校、地域での講演、TV番組への出演など多数。著書は『和ハーブ にほんのたからもの〈和ハーブ検定公式テキスト〉』(コスモの本)、『和ハーブ図鑑』((一社)和ハーブ協会/素材図書)など。国際補完医療大学日本校学長、日本ダイエット健康協会理事長、医事評論家、健康・美容プロデューサーでもある。