9月頃に開花する葛。葛の根は、「葛根(カッコン)」の生薬名で知られ、風邪のひき始めに処方される「葛根湯」にも配合されています。
野山が黄金色に染まりかけてくる頃、秋の植物を山上憶良(やまのうえのおくら)は『万葉集』でこう歌いました。
「萩の花 尾花 葛花 なでしこの花
女郎花(おみなえし)また藤袴 朝顔の花」。
秋の七草(ハギ、ススキ、クズ、ナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウ)はここから言われるようになったそうです。
日本で親しまれてきた和製ハーブのひとつである葛。効能や活用方法をご紹介します。
葛の効能
血行促進作用のある「葛根」
葛根は葛の周皮を除いた根のことで、発汗、解熱、鎮痙剤として使われる生薬です。血行促進や発汗作用などがあり、風邪や発熱などの症状を和らげるといわれています。
また、葛湯は病人の滋養強壮として古くから用いられてきました。
二日酔いの改善に「葛花(カッカ)」
葛の花は葛花と呼ばれる生薬として、二日酔いに処方されていました。
かの水戸黄門さまが編纂を命じた『救民妙薬』には、「酒毒には 葛の花かげぼし 粉にして ゆにて用いてよし」と花が二日酔いに効くことが記されています。酒好きで美食家といわれた黄門さまにはしっかりと効能が感じられたのでしょう。
葛の主成分
主要な成分は、大豆の成分としても有名なダイジン、ダイゼインおよびプエラリンなどのイソフラボンです。
葛の活用法
葛は、葛もち、葛切り、葛まんじゅうなど食用としても大活躍します。
とろりとした葛あんをつくるときにも葛粉は欠かせません。寒い冬、ふうふうといいながらかけうどんを食べると、体が温まります。
体温を上げて免疫力をアップさせるためにも、血行を促進させる作用のある本葛を積極的に食事に取り入れたいですね。
葛湯
葛粉を水で溶き、お好みで砂糖などを加えて作る葛湯。
風邪のひき始めや、飲み過ぎた翌朝のだるさや吐き気を和らげたいときには葛湯に生姜をいれていただくのがおすすめ。甘酒やハチミツを入れた葛湯に生姜のしぼり汁を入れていただきましょう。
風邪っぽいな、と感じたら、手作り葛生姜茶をいただくのもおすすめです。
葛の花酢
葛は花も味わえます。赤紫色の葛の花穂は下から上に向かって咲いているのが特徴で、一斉に太陽を仰いでいるかのようです。
花を砂糖水に漬け込めば酢ができます。花の天然酵母で自然発酵するので、半年ぐらいのんびり待つと赤い色の酢になります。酢飯など、いろいろな料理に使ってみてください。
葛こぼれ話
葛という名は、奈良の吉野川上流の国栖(くず)出身の人たちが方々に葛粉を売りに歩いていたことに由来しています。
その吉野地方の山野に自生する葛の根より作られるのが吉野本葛。
冬の寒い時期に、山のなか、地中深くから葛の根を掘り出して細かく砕き、冷たい地下水で不純物を取り除く作業を何十回も行います。
この昔ながらの「吉野晒(さら)し」という製法を用いて葛の根をつぶして取り出したでんぷんを精製し、乾燥します。
多くの根を掘り出したとしても、最終的にはほんの少量しかでき上がらないので当然ながら高値になるようです。
葛はその旺盛な繁殖力から時には有害植物と見なされてしまうこともありますが、とても身近で有用な植物です。
この方にお話を伺いました
養命酒製造株式会社 商品開発センター 丸山 徹也 (まるやま てつや)

1958年長野県生まれ。1981年静岡薬科大学薬学部卒業後、養命酒製造株式会社入社。中央研究所研究部長、商品開発センター長を歴任。薬剤師。