和ハーブ協会の古谷暢基(ふるや まさき)さんによる不定期連載です。第3回は、植物とウイルスの関係や、クロモジに期待される健康効果について語っていただきました。
前回記事では"和の香りの王様"クロモジと私の出会い、またクロモジと同じような特徴を持つ和ハーブたち(クロモジ三兄弟)についてお話ししました。
クロモジに限らず、和ハーブたちは日本の自然環境をたくましく生き抜いています。そして同じ土地で生きる人間や動物は、和ハーブたちが作り出す成分の恩恵を受け、その生命や健康を守ってきました。
植物とウイルスの戦い
昨今の新型COVID-19の感染拡大のように、医学の歴史はウイルス・細菌など病原体との闘いの歴史でもあります。植物も例外ではなく、人間と同様、植物もウイルスや細菌への感染と闘っています。
人間は喉や鼻などの粘膜がウイルスや細菌に感染した場合、くしゃみや咳などをしてウイルスを外に追い出します。周囲を除菌したり、マスクや手洗いをしたりして、感染リスクを減らすこともできます。
しかし植物はくしゃみをしませんし、そもそも動くことができません。そこで病原となる微生物に対抗するために、体内に成分を作るのです。
このように、植物が周りの環境に応じて生存するために体内に合成する成分を「ファイトアレキシン」と呼びます。特にクロモジのように、様々な環境で逞しく育ち揮発芳香成分が多い樹木には、微生物に対抗するファイトアレキシンが多く含まれる傾向があります。
世界中で活用されてきたファイトアレキシン
日本人がクロモジをはじめとする和ハーブを健康維持に活用してきたのと同様に、世界中のあらゆる地域で人間は自分たちの身体を守るため、同じ環境に育つ植物が作るファイトアレキシンを巧みに役立ててきました。
例を挙げれば、身近な食の世界では、ビタミン類やポリフェノールなどのフィトケミカル(ファイトケミカル)類などの「栄養素」として。
ウイルスや細菌などにとっては"毒ガス"にもなる揮発成分は、アロマテラピーや神事などの「香り」の分野に。そして、その揮発成分の量や濃度などをコントロールすることによって「薬」としても活用してきました。
養命酒製造の研究ではクロモジに含まれる「プロアントシアニジン」が、インフルエンザウイルスの増殖抑制や症状緩和に効果を発揮することが解明されつつあります。クロモジにはまだまだ秘めたるパワーがあるかもしれませんね。
クロモジに期待される健康効果
意外かもしれませんが、クロモジにはダイエット効果が期待されています。
私の師匠の一人で世界の薬草に通じる渡邊高志教授と高知大学の研究では、クロモジの葉に含まれる成分が血糖値上昇を抑制。同時に脂肪の分解・合成を行うリパーゼという酵素を阻害することで、消化管内の脂肪吸収や体内の脂肪蓄積を減らす効果があるとわかりました。
さらに別の研究では、クロモジやダンコウバイなどクロモジ属植物の樹皮や根には、老化や生活習慣病を引き起こす血管内の「メイラード反応」を制御する、つまりちょっとした"若返り成分"が含まれるという報告もされています。
次回は、このようなクロモジの素晴らしい成分を、生活の中で手軽に摂り込む方法などについて、紹介していきたいと思います。
過去の記事
この方にお話を伺いました
(一社)和ハーブ協会代表理事、医学博士 古谷 暢基 (ふるや)

2009年10月日本の植物文化に着目し、その文化を未来へ繋げていくことを使命とした「(一社)和ハーブ協会」を設立、2013年には経済産業省・農林水産省認定事業に。企業や学校、地域での講演、TV番組への出演など多数。著書は『8つの和ハーブ物語』(産学社)、『和ハーブ図鑑』((一社)和ハーブ協会)など。国際補完医療大学日本校学長、日本ダイエット健康協会理事長、医事評論家、健康・美容プロデューサーでもある。