ジンはヨーロッパ発祥のお酒ですが、最近ではジンを製造する日本国内の蒸留所も増えています。人気が高まっているジンの原料からつくり方、歴史などを解説。養命酒製造の人気クラフトジンと、おすすめの飲み方アレンジもご紹介します。
ジンとはどんなお酒?
ジンは、ベースとなるアルコールに、ジュニパーベリーをはじめとしたボタニカル(香草・薬草類)を加え、蒸留して造られる無色透明のお酒です。ウォッカ、テキーラ、ラムとあわせて「4大スピリッツ」として知られています。
スピリッツとは日本語で「蒸留酒」のことで、「醸造酒」を蒸留して造ったお酒を指します。醸造酒は米や麦、果実などの原料をアルコール発酵させてつくるお酒で、日本酒やワイン、ビールなどがあります。
蒸留酒は、これら醸造酒を蒸留させるのでアルコール度数がより高くなります。ジンのアルコール度数は最低でも37度以上の製品が多く、保存性に優れていて消費期限はありません。
ジンのカロリーは100gあたり280kcal※ とありますが、お酒を蒸留して造られるため糖質はほぼゼロです(100g中0.1g※ )。そのため「太りにくいお酒」と呼ばれることも。
ただし、砂糖の入ったドリンクで割ると糖質やカロリーが増えてしまうので、気になるときはロックや炭酸割りなどの飲み方がおすすめです。
※ アルコール度数47vol%の場合 引用元:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
ジンの原料

ジンの原料は「アルコール」と「ボタニカル」の2つです。
ジンの原料となるアルコールは、「ベーススピリッツ」とも呼ばれます。
ベーススピリッツの原料には穀物(小麦、大麦、とうもろこし、お米など)を使ったものが大半ですが、ぶどうやリンゴなどの果物やハチミツなどを使った個性的なベーススピリッツもあります。
一般的に使用されるのは、「ニュートラルスピリッツ」と呼ばれるアルコール度数を96度まで高められた、風味がクリアでクセのないアルコールです。一方で、アルコール度数をそこまで上げず、原料由来の香りや特徴を残したベーススピリッツが使われることもあります。
ボタニカルとはジンに香りづけする植物由来の原料のことで、中でも一番重要なのがジンには欠かせないジュニパーベリーです。ジュニパーベリーはヒノキ科セイヨウネズという樹木の球果です。
独特の爽やかな香りがあり、肉料理の香辛料やハーブティー、エッセンシャルオイルなどにも使われています。
ジュニパーベリー以外では、コリアンダーやカルダモン、リコリスなどもよく使われています。日本産のジンには、和のテイストを表現するために山椒や柚子、抹茶などが使われることもあります。
このようにジンの原料は幅広く、自由度が高いお酒です。何十種類ものボタニカルを使用したジンもあり、その香り高さやバリエーションの多さは蒸留酒の中でも随一を誇ります。
ジンのつくり方
ジンの種類によってつくり方は細かく異なりますが、ここでは一般的な製造工程をご紹介します。
まず、小麦やトウモロコシなどの穀類のデンプンに水と糖化酵素を加えて糖化させ、そこに酵母菌を加えて発酵させます。これを蒸留してべースピリッツをつくります。これにボタニカルを加えて風味付けを行います。
風味付けの方法として代表的なのが「スティーピング方式(浸漬法)」と呼ばれるもの。ベーススピリッツのアルコール度数を30~60%まで希釈し、ボタニカルを漬け込んで香気成分を抽出する方法です。
漬け込むスピリッツのアルコール度数や浸漬期間によって抽出度合が変化するので、狙いたい香味やボタニカルの特性に合わせて、抽出条件を調整します。
浸漬後は、ベーススピリッツを沸かして再蒸留します。蒸留中に得られる留液は時間とともに成分が変化するため、風味や品質を損なう前半部分(ヘッド)と後半部分(テール)は取り除き、もっとも香りが良い真ん中の部分(ミドル)だけを使用します。蒸留過程でボタニカルの多種多様な香気成分が抽出され、ジンにより豊かな風味を与えることができます。
最後に製品のアルコール度数となるよう加水して調整された後、瓶詰めされます。
養命酒駒ヶ根工場内にある蒸留施設では、日本の森の樹木クロモジを使ったクラフトジン「香の森」「香の雫」の蒸留を行っています。下記記事では蒸留施設見学レポートを紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。
ジンの歴史

ジントニックやマティーニなどカクテルでも広く親しまれているジンですが、そのルーツは意外にも、医療目的の飲料にありました。
薬用酒としてのジンの始まり
ジンの原料であるジュニパーは古くから治療効果のある薬として用いられていました。北アメリカの先住民族にはさまざまな外傷や病気の治療薬として、中国の人々には生薬として、そして、ジンが誕生したヨーロッパでも細菌感染の治療薬として用いられていたのです。
ヨーロッパでは、水で煮出して利用されていたジュニパーベリーですが、12世紀になると蒸留によって成分を抽出する方法が使われるようになり、この頃、編集されたハーブ療法に関する本には、潰したジュニパーベリーとブドウ酒を混ぜ合わせたものから、強壮剤を蒸留するレシピの記載がみられます。
生命の水? 常備薬として活用される蒸留酒
当時の蒸留酒は「aqua vitae(生命の水)」と呼ばれ、医者にもその効果が認められていました。そして14世紀の終わりまでにはジュニパーベリー入りのブドウ酒や蒸留酒は、医師の常備薬となっていきます。
ベルギー人医師のレンベルト・ドドエンスが執筆した『A Nievve Herbal』には、ジュニパーベリーの効果や服用方法が詳しく書かれています。その中ではジュニパーベリーの治療効果が「胃や肺、肝臓や腎臓の疾患に効果があり、慢性的な咳、ひどい腹痛、腸内ガスを治療し、体内の塩分の排出を促進する」と高く評価されていました。
このように14世紀までは、ジュニパーベリー入りの飲料は嗜好品ではありませんでした。しかし、当時からジュニパーベリー入りの飲料、特に蒸留酒を娯楽目的で飲む者も一部いたようです。
そして、医療目的で使われていた蒸留酒やジュニパーベリーは、段々と娯楽目的の飲み物の原材料として重宝されていくことになります。
嗜好品としての蒸留酒の広まり

ボタニカルによって香り付けされた蒸留酒は、次第に「美味しくて簡単に酔える飲み物」として人々に認識されていきました。しかし、蒸留酒の原料となる果物や、ボタニカルとなる香辛料は、庶民には手が届かないほど高価で、誰でも気軽に飲めるような代物ではありません。
そこで、ボタニカルとして脚光を浴びたのがジュニパーベリーです。東南アジアでしか手に入らないほかの香辛料と比べ、広範囲に分布していて手に入りやすく安価でした。その上風味も抜群。一躍ボタニカルの象徴ともいえる存在になったのです。
そのことを示すように、1495年にネーデルラント(現在のオランダやベルギーのあたり)で発行された書籍にも、ジュニパーベリーをふんだんに使用した蒸留酒のレシピが掲職されています。
ジンの原型となる「ジュネヴァ」の誕生
16世紀、ネーデルラントでは、20年もブドウの不作が続きました。そのためブドウの価格が上がり、蒸留酒の原料としてライ麦や大麦麦芽が注目されるようになります。
これらの蒸留酒はコーン・ブランデーワイン(グレーンアルコール)と呼ばれ、それらを香り付けしたものの呼称には、主なボタニカルの名称が取り入れられていたといいます。そのうちのひとつがジュニパーベリーで香り付けをした「ジュネヴァ」。ジンの原型です。
1689年には、オランダからイングランド国王に迎えられたウィリアム三世とともにイギリスに広まりました。そして18世紀にはジンの飲用はさらに拡大し、ジン・クレイズ(狂気のジン時代)を迎えます。
その後アメリカに渡ったジンは、カクテルベースとして注目され、世界的なスピリッツへと成長していきました。
クラフトジンの登場
クラフトジンとは、職人の強いこだわりを反映させた個性的なジン。2015年頃から、本場イギリス・アメリカを中心にクラフトジンブームがおきています。

ジンの蒸留器
日本でのクラフトブームの始まりといえるのが1994年4月頃。酒税法改正により、小規模ビール醸造会社が登場し「地ビール」が誕生しました。ご当地ブームもあり、地ビールの人気は拡大しましたが、一旦終息。
そして、2004年頃から美味しさと素材へのこだわりをうち出した「クラフトビール」が誕生します。2010年頃からクラフトビールの人気は拡大し、2015年大手ビール会社が本格的にクラフトビール市場に参入。また、ビール以外にも日本酒やウイスキーなどもクラフト化の流れが大きくなっています。
ジンも、2018年には国内外200銘柄を超えるジンが出展する「ジンフェスTOKYO」が開かれるなど、クラフトジンのムーブメントに火がついています。まだまだ始まったばかりの日本のジンカルチャー。今後の盛り上がりにも注目していきたいですね。
新緑の森をイメージしたクラフトジン「香の雫」ができるまで

養命酒製造の人気のクラフトジン「香の雫(かのしずく)」は、養命酒製造が長年研究を続けてきた和製ハーブで、爽やかな森日本固有の香木クロモジを主役に、レモンピールなど11種類のボタニカルを調合。新緑の森のような爽やかな香りと、ほのかな甘みが余韻として残る心地よさが特長です。
下記ページでは「香の雫」がつくられている工場や使用されているボタニカルの説明など、詳しい情報をご紹介しています。こちらもぜひご覧ください。
養命酒製造のジンはほかにも、爽やかなクロモジと18種類のボタニカルの豊かな香りが楽しめる「香の森」や、「香の雫」をベースにローズマリーなどのハーブを加えて本格的なカクテルに仕上げた「2種のグレープフルーツとハーブのクラフトジンカクテル」などがあります。
詳しくは下記サイトでご覧いただけます。
養命酒製造クラフトジン おすすめの飲み方とアレンジレシピ
ジンというとバーで飲むカクテルのイメージが強いかもしれませんが、好みにあわせてアレンジしやすいのもジンの魅力の1つ。
最後に、クラフトジン「香の森」「香の雫」開発担当こだわりの、自宅で簡単にできるおすすめの飲み方をご紹介します。
暑い日おすすめのジンカクテルは、下記ページでご覧いただけます。
ハーブやスパイスを使ったものを中心にドリンクレシピなどの監修・開発をされているドリンクスタイリストでソムリエの資格も持つ齋藤久平さんに、おすすめのレシピを教えていただきました。
この方にお話を伺いました
養命酒製造株式会社 商品開発部 入江 陽 (いりえ あきら)
2009年養命酒製造株式会社入社後、中央研究所でハーブを使ったリキュール類の商品開発に携わる。2014年よりマーケティング部にて酒類の商品企画を担当した後、2017年より商品開発センターでクラフトジン、リキュール、機能性表示食品など商品開発全般に従事。2025年より商品開発部商品開発グループリーダーを務める。

















