教えてくれた先生
世界の台所探検家岡根谷実里 先生
1989年、長野県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修士修了後、クックパッド株式会社に勤務。世界各地の家庭の台所を訪れて一緒に料理をし、料理を通して見える暮らしや社会の様子を発信している。クックパッドニュース、日経DUAL等で記事やレシピを連載中。また、全国の小中高校への出張授業も精力的に行なっている。訪問国/地域は60以上。
毎日いやになるほど寒いねー。寒くて外には出たくないけど、ずっと家にいても気分がふさいでしまう…。
部屋で暖房をつけていても、体は冷え切っているよね。何か手軽に温まる方法はないかな。
それなら世界各国のホットドリンクを作って、家にいながら海外旅行気分を味わうのはどうですか?
世界のホットドリンク!?でも、材料集めとか作り方とか面倒じゃないですか?
そんなことないですよ。家にあるものやスーパーで普通に手に入るもので、現地の味に近い本格的なホットドリンクが作れるのです。
でもホットドリンクって、温度が高い以外にも体を温める力があるんですか?
はい。寒い地域にはその地域に根ざした寒さ対策の知恵が蓄積されているんです。それは私たちの暮らしにも応用できるので、知っておくと冬の寒さも怖くないですよ。
やったー。世界のホットドリンクが自宅で味わえるなんて楽しみ。さっそく作り方を教えてくださーい!
元気通信編集部員が体当たりで検証! 冷えとりチャンプはどのドリンクに?
今回の企画では、元気通信編集部員の男女3人が、実際に5カ国のホットドリンクを飲んで、ビフォーアフターでどのくらい体温が上昇するか検証。また、味わいや手軽さなども加味して、冷えとりにぴったりのホットドリンクを体感します。
さらに最後には、その世界の冷え対策の知恵を結集させた、「究極に温まるホットドリンク」のレシピを紹介します。
インドネシアの「サラッバー」
■材料(2人分)
生姜 30g
黒糖(きび砂糖でもOK) 40g
ココナッツミルク 50g
水 400ml
卵黄 2個
ブラックペッパー お好みで
■作り方
1.生姜はスライスしてちぎる。卵黄はマグカップに1つずつ入れて割りほぐしておく。
2.鍋に生姜と水を入れて火にかける。沸騰したら火を弱め、黒糖を加えて10分ほど煮る。
3.火からおろし、ココナッツミルクを加えてまぜる。弱火にかけて、ひと煮立ちさせる。
4.卵黄を入れたマグカップに3をスプーン1杯加えてまぜ、残りを注いでよくかきまぜる。お好みでブラックペッパーを加えても。
■備考
現地には卵黄を入れないものもあります。
世界一のココナッツ生産国・インドネシアらしい一杯で、とくにスラウェシ島で飲まれます。一見、チャイに似た見た目ですが、味わいは全く別物。インドネシアは温かい国というイメージかと思いますが、山間部も多く夜は結構冷えます。私もはじめて島に到着した夜、予想外に体が冷えてしまい困っていたのですが、これを飲むと体がカッと熱くなるのを感じました。
生姜が驚くほどたくさん入っていて、生姜には冷え対策によいとされる「ジンゲロール」が含まれ、それを加熱することで血流を促す「ショウガオール」という成分に変わり、いっそう効果が高まるのだと思います。
現地ではこれを風邪をひきそうになる前によく飲んでいます。それと夜、運転しないといけないときにも飲まれていて、幹線道路のドライブインのような店にも売っています。一種のエナジードリンクのような、“元気が出る”ホットドリンクですね。
※体温UP度は飲む前より体温が上昇した幅を、1℃につき20ポイントとしています(3人の平均体温上昇が0.5℃の場合は10ポイント)
「卵黄が入っているからこってりしてるかと思ったけど、意外とさっぱり!生姜のピリッと感が喉にほどよい刺激になって気持ちいい」
「卵黄の“卵っぽさ”を全く感じずまろやか。ココナッツの香りもよくとても美味しい!」
オーストリアの「キンダープンシュ」
■材料(2人分)
ぶどうジュース 200ml
りんごジュース 200ml
オレンジ 1/4個
レモン 1/4個
シナモンスティック 1本(シナモンパウダーで代用する場合小さじ1)
クローブ 3粒(クローブパウダーで代用する場合は少々)
スターアニス(八角) 1/2個(なければ省略、かわりにナツメグ少々をいれても◎)
水 100ml
■作り方
1.レモンとオレンジをスライスする
2.鍋に全ての材料を入れ、10~15分煮る
3.茶漉しでスパイスなどを濾しながらカップに注ぐ
寒さの厳しいヨーロッパのクリスマスマーケットで名物といえば赤ワインを使った「ホットワイン」。一方、子どもやアルコールが飲めない人は「キンダープンシュ」を飲みます。ドイツ語で「キンダー」は“子ども”、「プンシュ」は“ポンチ”や“ミックス”のような意味。クリスマスマーケットに行くとこの香りが立ち上っていて、それが日本の初詣の甘酒の記憶とも重なり、温かい気持ちになります。
「キンダープンシュ」ではワインのかわりにぶどうジュースやりんごジュースを使います。マーケットではそれにシナモンやクローブ、スターアニス(八角)など体が温まるスパイスなどを入れて何時間もグツグツと煮込んでいます。また、レモンやオレンジ(とくに皮)に含まれるヘスペリジンも冷え対策に良いとされる成分です。今回はオレンジを使いましたが、温州みかんで代用してもよいと思います。
※体温UP度は飲む前より体温が上昇した幅を、1℃につき20ポイントとしています(3人の平均体温上昇が0.5℃の場合は10ポイント)
「フルーツの香りが清々しく、鼻の調子が悪いときもスーッと通りそう」
「酸味と甘味のバランスがちょうどいい。手足の指が温かくなった気がする」
メキシコの「チョコラテ」
■材料(2人分)
ビターチョコレート 60g
水 300ml
シナモンパウダー 小さじ1/2
一味唐辛子 少々(ひとつまみ)
砂糖 お好みで
■作り方
1. 鍋で水を沸かす。
2. チョコレートを加えて溶かし、シナモンパウダーと一味唐辛子を加えて混ぜる。お好みで砂糖を加える。
3. 泡立て器でまぜて泡立つくらいよくかき混ぜ、マグカップに注ぐ。
■備考
・カカオ分の多い(70%程度)ビターチョコがおすすめですが、スイートやミルクでも作れます。
・砂糖の量はチョコレートの種類にもよるのでお好みで調節してください
・水を牛乳に置き換えてもOK。水だとストレートにカカオの香りと苦さが味わえて、牛乳だとまろやかで甘いドリンクになります。
メキシコの首都・メキシコシティは標高が2,000m越えと富士山の5合目くらいの高地。低緯度にありますが朝晩は冷えます。これはいわゆるホットチョコレートですが、カカオの原産国でもあるメキシコでは古代文明の時代から飲んでいるそうです。ただ、昔はカカオが貴重だったこともあり、薬として大切に飲んでいたようですね。
現地ではマーケットに行くとチョコラテ用の粗いチョコの塊が売っていて、食べるとシナモンなどのスパイシーな風味がします。現地では朝、この「チョコラテ」に甘めのパンを浸して飲む&食べるのがポピュラーです。
カカオは血行を促進するといわれる食材ですし、シナモンも冷え対策では取り入れたいもの。カフェではメキシコ原産の唐辛子が入ったものもあり、今回は一味唐辛子を加えたより温まるレシピをご紹介します。ポイントは液が泡立つくらい混ぜることで、現地ではモリニージョというかき混ぜ棒で泡立てて飲みます。泡立てるくらい混ぜることでチョコの油分と水分が乳化して、口当たりのいい滑らかなチョコラテになります。
※体温UP度は飲む前より体温が上昇した幅を、1℃につき20ポイントとしています(3人の平均体温上昇が0.5℃の場合は10ポイント)
「とろみがあって一口目がびっくりするほど熱い!(笑)チョコレートを飲んでいるようで、クセになる味」
「甘いなかに唐辛子のピリッとした刺激がアクセント。お腹の中から温まる気がする」
ヨルダンの「サハレップ」
■材料(2人分)
牛乳 400ml
片栗粉 大さじ1(12g)
砂糖 大さじ1.5(20g)
シナモンパウダー、ココナッツフレーク、砕いたピスタチオなど(お好みで飾る)
■作り方
1.鍋に牛乳、片栗粉、砂糖を入れ、よく混ぜて均一にしてから火にかける。
2.絶えずかき混ぜ、とろみがついたら火から下ろす。
3.お好みのトッピングをのせる
中東は暑いイメージがありますが、ヨルダンやパレスチナの冬の寒さは東京並み。さらに家が石造りなので外より屋内の方が寒いくらいです。
そんなとき体の中から温まる飲み物として親しまれているのが「サハレップ」。もともとは現地で採れる同名の植物の根を乾燥させた粉に牛乳と砂糖を加えて混ぜたホットドリンク。火にかけながらとろみがつくまでかき混ぜるだけととても簡単で、子どもでも作れる手軽さ。お世話になった家庭では夜になると子どもたちが「サハレップ作っていい?」と家族にお願いし、よく作ってくれました。
日本ではサハレップの粉は入手困難なので(現地の家庭でもコーンスターチで作っていました)片栗粉やコーンスターチで代用。しっかりとろみがあり、この粘度がお腹に入れたあとも温かさを保ってくれると思います。
※体温UP度は飲む前より体温が上昇した幅を、1℃につき20ポイントとしています(3人の平均体温上昇が0.5℃の場合は10ポイント)
「じゃがいものポタージュスープのようなボリューム感がうれしい。腹持ちもよくお腹の中が温かく感じる」
「朝ごはんに“飲む”というより“食べたい”ドリンク。温まってじんわり汗が出てきた」
インドの「ジンジャーチャイ」
■材料(2人分)
紅茶ティーバッグ 2つ(茶葉だと4g)
生姜(スライス) 4枚(10g)
砂糖 大さじ1
牛乳 200ml
水 200ml
カルダモンパウダー 小さじ1/4
■作り方
1.鍋に紅茶、生姜スライス、砂糖、水を入れて沸騰させる。紅茶の色がしっかり出るまで5分ほど煮出す。
2.牛乳、カルダモンパウダーを加える。沸騰してあふれそうになったら火から下ろす、というのを3回繰り返す。
3.生姜を取り出してマグカップに注ぐ
インドはもちろん日本でも人気のホットドリンクですね。インドのチャイといえばたくさんのスパイスを使った「マサラチャイ」を思い浮かべるかもしれませんが、意外にも屋台や家庭で飲まれているのは生姜とカルダモンだけを使ったシンプルなチャイ。
インドではスパイスを季節で使い分けており、夏は清涼感のあるフェンネルなど、冬はカルダモンやシナモン、ナツメグなどを多用します。発酵茶である紅茶も寒さ対策に有効といわれます。現地でチャイに使われるのは「ダストティ」と呼ばれるような等級の低い茶葉。繊細な香りはありませんが、ミルクやスパイスと合わせるには力強い茶葉の方が合うようです。
※体温UP度は飲む前より体温が上昇した幅を、1℃につき20ポイントとしています(3人の平均体温上昇が0.5℃の場合は10ポイント)
「生姜と茶葉のバランスがよくあっさり&さっぱり。飲む時間を問わず温まれそう」
「ミルクのコクがありつつもさっぱり飲める」
世界の冷えとりの知恵を結集!
究極に温まるホットドリンクの答えは…
元気通信流「全盛り甘酒」
■材料(2人分)
甘酒 300ml
生姜(すりおろし)小さじ2
ココアパウダー 小さじ2
シナモン(パウダー)少々
■作り方
1.鍋に甘酒、生姜、ココアパウダーを入れてまぜ、火にかける。沸騰寸前の火加減で5~10分ほど煮る。
2.シナモンパウダーを加えてまぜる。
今回紹介した世界のホットドリンクの冷え対策の要素を可能な限り盛り込み、それを「甘酒」と「生姜」という「日本的な食材」を中心に落とし込みました。冷え対策のキーワードは押さえつつも、できるだけ簡単にできるレシピにしています。
材料の「甘酒」は、発酵ととろみというキーワード、それに世界中のホットドリンクでよく用いられている生姜をプラス。ココアパウダーとシナモンはともに血行を促すとされる食材で、甘酒の甘みとの相性もよいです。
甘酒は銘柄によって濃度が異なるので、甘すぎると感じた場合は水を50〜100ml加えてください。
※体温UP度は飲む前より体温が上昇した幅を、1℃につき20ポイントとしています(3人の平均体温上昇が0.5℃の場合は10ポイント)
「すりおろした生姜の食感がグッド!甘酒、ココア、生姜、シナモンとそれぞれの味のグラデーションが感じられる」
「生姜の辛味とココアの風味がよく合う。体温アップ度の最高値をマークしました!」
「甘酒と生姜湯を一緒に飲んだようで身も心もホッと温まる。まろやかな甘酒がすべての材料の個性をまとめてくれている」
冷えとりホットドリンクBEST3
1位 91点 元気通信流「全盛り甘酒」
2位 90点 サハレップ(中東)
3位 87点 チョコラテ(メキシコ)
「どのホットドリンクも異国情緒が感じられて、しかも飲みやすくて美味しかった!」
「いろんな国で親しまれているホットドリンクを飲み比べて、改めて生姜パワーのすごさに気付かされたね。6つのドリンク中、生姜を使ったものが3種類も!とくにインドネシアの『サラッバー』は生姜の風味が強烈で、体がカーッと熱を帯びたように感じたよ」
「中東の『サハレップ』や甘酒を使った元気通信流『全盛り甘酒』などとろみのある飲み物は、飲んだあと胃の中に入ってもまだ熱を保っているような感覚があったね。飲み物を入れた器も冷めにくいから手も温まって一石二鳥♪」
「私を含め、実際に体温が上がった数値では元気通信流『全盛り甘酒』が上昇率トップだったけど、メキシコの『チョコラテ』もそれに迫る体温UP度と体感上昇度があったよね」
「今回ご紹介したホットドリンクは自宅でも気軽に作れるものばかりなので、この冬ホットひと息つける時間をお過ごしください」