甘・酸・辛・苦・鹹の5つの味があるとされるつる性の植物
晩秋になると里山ではほとんどの木々が葉を落とし、常緑樹の緑色が目立つようになります。つる性で常緑の植物は珍しく、サネカズラはその代表といえます。
サネカズラは日本特産の植物で、各地の山野に生え、また庭木としても植えられるマツブサ科の常緑のつる性木本です。古い茎の径は約2cmになり、褐色で柔軟な厚いコルク質の外被を持ち、枝はその皮に粘液を含んでいます。初夏には小さな淡黄色の花を葉腋に、花托によって垂れ下がるような姿で咲かせます。花後、直径5mmほどの小球形が固まって結び、秋が深まると花托と一緒に赤くなります。その姿はまるでお菓子の鹿の子のようにも見えます。
この植物が珍重されるのは、葉の表面が輝くような光沢があることや、冬になると葉の裏側が紫色に変わる面白さ、さらに赤色の果実が緑の葉に目立つ姿などさまざまな姿が楽しめるからでしょう。変種の少ない植物ですが、最近では白実や桃色の実の改良種も生まれています。
サネカズラの樹皮の粘液は、整髪料や製紙の糊料などに使われ、古くから日常生活に深く関わってきました。『延喜式』(967年)の貢進の中に、五味子の名前で収録されています。『万葉集』(629〜759年)にはサネカズラを詠んだ歌が10首も収載されています。つるが長く延び、いくつにも分かれてもつれあう植物の姿から、人生のさまざまなつながりを託した歌が多くみられます。

別名の五味子の名前の由来は、『和名抄』(932年)によると、「この果実の皮と果肉には甘酸の二味、種子には辛、苦、鹹(かん※塩気)の三味があり、合計五味になるためだろう」と記述があります。
薬用は、果実を生薬名・南五味子と呼び、去痰や滋養強壮に利用します。ほかにもあかぎれの治療に効果があるとされています。また、実を焼酎漬けにすると薄い葡萄酒色に仕上がり、補精強壮、疲労回復、冷え症によい果実酒として楽しめます。ほかにもつるを細かく刻んで少量の水に浸けておくと粘質になり、寝癖などの頭髪のくせ毛直しに用いてきました。
花言葉は「好機をつかむ」「再会」です。
出典:牧 幸男『植物楽趣』