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養命酒

生薬ものしり事典115

やさしい名前の響きに親しみを覚える「ハハコグサ(オギョウ)」

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春の七草「ゴギョウ」としても知られるなど食用にも向く

養命酒のふるさと・信州の四月は、「春」という言葉を心から実感するような季節です。寒さのために家にこもりがちだった人々も外の風景に関心を示し、自然を楽しむようになります。英語で春はspring。この言葉には活気、跳びはねる、心の弾みといった意味があり、春を待ちわびる気持ちをよく表しています。全体が白っぽく見えるハハコグサ(オギョウ)が目につくようになるのもこの頃です。とくに見栄えする植物ではないのですが、名前の響きが優しいからなのか、日本人の心の奥に特別な感情を抱かせるのかもしれません。

ハハコグサは東アジアの温帯から熱帯にかけてごく普通に目にするキク科の越年草で、道端などいたる所に生えています。茎の高さは20〜30cm、基部から分枝して直立し、やや硬さがあります。葉は互生し、線状倒披針形、茎とともに白軟毛がかぶさっていて、触るとふわふわしています。春から夏にかけて茎上端に細小な黄色の頭花を散房状に多数つけます。暖かそうな綿毛に包まれているからか、夏は暑くて枯れてしまうなど、典型的な冬〜春にかけての野草です。『新訂牧野新日本植物図鑑』には「ハハコ」の名が付けられた植物が「ヤマハハコ」、「カワラハハコ」など8種収録されています。また、類似植物に「ハハ」ではなく「チチ」の名前を冠したチチコグサもあります。

現在広く使われているハハコグサの名は『文徳天皇実録』(879年)の嘉祥3年(850年)の記述に、ハハコグサの名前を見ることができます。当時、紙や白い布が高価であったため、庶民が白いハハコグサで体を撫で、穢れや罪を移す形代(かたしろ)として、川に流したことからこの名が生まれたと考えられています。さらに、身代わりとしての人形である形代を、浮かし仏や御形仏(ゴギョウブツ)と呼んでいた記録が『重修本草綱目啓蒙』(1844年)に残っています。このような呼び方や習慣から、形代に使われたハハコグサを御形(オギョウ)と呼ぶようになりました。

『大言海』には、御形を「母子ノ人形ナリ·········御形ハ人形ひとがた人形にんぎょう)ニ由アル語ナルベシ」とあります。御形をゴギョウ、オギョウと読んだり、五行と書くこともありますが、『新大辞典』、『日本語大事典』(ともに講談社)にはオギョウが、『広辞苑』(岩波書店)にはゴギョウ、オギョウが採用されています。

身近な植物だけに、ハハコグサは昔から詩歌に詠まれてきました。

植物名について、牧野富太郎博士は「ハハコグサという名称はおそらく茎の白毛も、頭花の冠毛もほおけ立っていることから付いた名であろう。それを旧仮名遣いではハハケルと書いたことから母子の当て字が生じたと思う。漢字は鼠麹草(ソキクソウ)である。」と述べています。鼠麹草の意味は葉に毛があって鼠の耳に似ているためです。別名は、這子草(ホオコグサ)、糀花草(花の咲く姿から)、モチクサ(草餅の材料から)、兎の耳(外観から)などたくさん知られています。学名はGnaphalium multicepsで、属名はフェルトの意味で(全草が綿毛で覆われているから)、種小名は多くの意味(黄色い小花が数多く咲くから)です。

薬用としては全草を痰、咳に用います。食用は小野蘭山著『本草綱目啓蒙』(1803-1805年)に「三月三日の草餅はこの草で作ったものだが、近ごろはヨモギで作るほうが、緑が濃くて喜ばれるようになった。」と記述しているように、江戸時代中期までは草餅の材料として主流だったようです。ほかにも、若芽を天ぷらにすると美味です。

花言葉は「切実な思い」です。

出典:牧 幸男『植物楽趣』

今月の生薬クイズ
【Q.】 平安時代の人々の「ハハコグサ」。その意外な活用法とは??
正解は?
【A.】 紙や白い布の代わりに穢れや罪を移していた

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