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生薬ものしり事典112

正月飾りに使われる「ユズリハ」

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新葉と古い葉が入れ替わる様が新旧交代を象徴

石川啄木が詠んだように新しい年を迎えた日は、昨日とは何かが変わったわけではないですが、特別な感じを受けます。改まった年の行事に欠かせない植物はいくつかありますが、ユズリハもその一つです。ユズリハの古葉は3年越しで新葉と入れ替わります。新葉が出てきて古い葉が落ちるので、代を譲るかのように見えます。それが新旧交代を示しているからと、縁起物として正月の飾りに使われてきました。この種の落葉現象は植物学的には珍しいことではなく、常緑樹にはしばしば見られますが、ユズリハは葉が大型で人目につきやすいために注目されるのでしょうか。

ユズリハは日本では中部以南の内陸に自生し、また庭木としても植えられています。ユズリハ科の常緑高木で高さは4〜10m、幹は直立して太い枝を出します。葉は枝の先に集まって互生し、長い柄があります。大きさは15〜20cmの長楕円形で、皮質無毛。表面は濃い緑色で光沢があって滑らかで、裏面は粉白を帯びています。雌雄異株で初夏には緑黄色の小花を咲かせ、秋には楕円形の黒味がかった実を結びます。似たような植物にはエゾユズリハ(本州中部以北に生育、内陸性で高さ1.5m以下)、ヒメユズリハ(本州中部以南の暖地海岸に生育、高木となるが葉が小さい)、シマユズリハ(沖縄から台湾に生育、ヒメユズリハより葉が小さい)などがあります。

ユズリハをおめでたい儀式で用いるようになったのは、神仏の供物をのせたのがはじまりといわれます。その後、正月の飾りに用いられるようになりました。この点について『仁徳天皇紀』や『延喜式』(927年)などにユズリハ、ホオノキ、カシワ、ナラガシワなどは無土器時代から食物を盛ったりしていましたが、土器が豊富になった時代になっても古式を重んずる神事に残ったのだろうと触れられています。平安時代になると『枕草子』(1001年ごろ)に「なべての月には見えぬ物の、師走のつごもりのみ時めきて、亡き人のくひ物に敷く物にやとあはれなるに、また、よわい延ぶる歯固めの具に持てつかひかためるは、いかなる世にか、……」と記述があります。内容は、大晦日に御魂に供える食べ物の下に敷いたり、新年の長寿を祝う膳の飾りに用いる行事の説明になります。江戸時代の『大和本草』(1709年)に「わが国では歳首の賀具とする」の記述があり、正月の飾りとしているのが見られます。このように生活との結びつきが強く、古くから詩歌に使われてきました。

日本名の譲葉は、新旧の葉の入れ替わりが著しく目立つために付けられました。別名には由豆流波、杠葉、本譲、譲柴、青葉木、親子草、黄金葉、兎隠、正月木などがあり、それらの名前の由来は形態や利用方法から生まれています。万葉表記では「ゆづるは」で表記は弓絃葉や由豆流波です。学名はDaphniphyllum macropodum、属名は月桂樹のような意味で、種小名は長脚の意味があり葉柄が長いことを示しています。

薬用には樹皮や葉を煎じて、湿疹やおできの患部を洗ったり、去痰、駆虫薬として用いたりしてきました。材質は心材、辺材の区別がないので、細工が施しやすい漆器の生地や箱、ろくろ細工などに使われます。樹皮は染料としても活用。食用に関しては有毒植物になるので、口にしないように注意しましょう。和歌山県の熊野では、これを正月菜と呼んでいます。

花言葉は「若返り」「世代交代」「新生」「譲渡」です。

出典:牧 幸男『植物楽趣』

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