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生薬ものしり事典106

可憐な響き「月見草」と呼ばれる花「ツキミソウ」「マツヨイグサ」

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いろいろと間違えられるその花の名前

ツキミソウという植物名は可憐な響きがあり、竹久夢二の詩や太宰治の小説から親しみを覚えてきた人も多いでしょう。しかし、植物学上のツキミソウと私たちが思い浮かべるツキミソウでは別物なことが多いといえます。まず、ツキミソウと総称して呼んでいる一連の植物のうち、夕闇が迫る頃開花し、朝萎んでしまう黄色花の植物は日本に5種ほど存在し、これらの植物が混同して呼ばれていることが多いようです。それぞれの特徴を簡単に紹介すると、マツヨイグサ(南米チリ原産の多年生草本)、メマツヨイグサ(北アメリカ原産の二年草)、コマツヨイグサ(北アメリカ東南部原産の二年草)、ツキミソウ(北アメリカ原産)、そして歌や物語の題材としてよく登場するオオマツヨイグサ(北アメリカ原産でヨーロッパで生まれた園芸種)になります。いずれもアカバナ科の植物で、類似植物は世界に約20種生育しています。

竹久夢二は、宵になり花を咲かせる姿を、来ぬ人を待つ様子に重ね「宵待草」と呼びました。大正6(1917)年発表の歌詞では、千葉での失恋の思いを故郷岡山の旭川河原のオオマツヨイグサを見て作ったと言われています。発表後「待宵草」を誤って「宵待草」にしたことに気づきますが、改めずにそのままにしたと伝わっています。

太宰治は『富嶽百景』のなかで「三七七六米の富士の山と、立派に相対峙し、みじんもゆるがず、なんと言ふのか、金剛力草とでも言ひたいくらゐ、けなげにすくっと立つてゐたあの月見草は、よかつた。富士には月見草がよく似合う。」と書いています。ただ、ツキミソウを金剛力草と表現していますが、本来はそんなに強い植物ではありません。この小説の舞台、御坂峠はツキミソウの生育環境としては厳しく、登場した植物はオオマツヨイグサだったのではと考えられます。これらの記述から、いわゆるツキミソウは、オオマツヨイグサが一番近く、次がツキミソウと思われます。いずれにしても、花の一生に人生のはかなさを重ね合わせ共感を覚えるのか、日本人に比較的好まれる植物のようです。

相馬御風
長塚節

月見草(ツキミソウ)は花弁が白く、夕方に開花するので、これを夕月に例えて詠むこともあるようです。月見草の学名はOenothera tetraptera。根にブドウ酒のような香気があり、野獣が好むという意味から属名はinoso(酒)+ther(野獣)です。

月見草関連はいずれも観賞用として日本に導入されましたが、繁殖力が旺盛なこともあり各地に広がりました。ただし、肝心の月見草は花の色は白色で寒さに弱く、きゃしゃな植物で野生化せず、今日ではほとんど目にすることはありません。

薬用としてはメマツヨイグサは全草や種子、根を鎮痙薬や抗血液凝固薬として、また咳や風邪のときに内服します。待宵草は感冒や咽頭炎に用います。

オオマツヨイグサやマツヨイグサを「月見草」と呼ぶことは植物学上は間違いかもしれませんが、その違いを意識したうえで呼ぶことが肝要ではないでしょうか。もっともオオマツヨイグサはメマツヨイグサの勢いに押され、なかなか目にすることができなくなっています。

花言葉は、「ほのかな」「移り」「静かな恋」「協調」です。

出典:牧 幸男『植物楽趣』

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