クロモジ茶を飲む習慣が伝わる島根県では、県内にクロモジが自生しています。
そこで、県をあげて期待されるのが和のハーブ「クロモジ」。
葉からはハーブティーや粉末を練り込んだお菓子、小枝からは煮出し茶や入浴剤など、いずれも香りを活かした特産品が魅力です。
「クロモジを県の特産品」にとの声が上がり、県内の市町村では、栽培、商品化、研究が進められています。
世界遺産・石見銀山で、クロモジ染めの衣類が人気!
2007年に世界遺産に登録された「石見銀山遺跡とその文化的景観」を有する大田市大森町。
この町にある(株)石見銀山生活文化研究所は、衣食住のブランド「石見銀山 群言堂(ぐんげんどう)」を全国展開している企業です。
本社は、取り壊される予定だった茅葺の豪農屋敷をこの地に移築し、シンボルとして活用。
里山に暮らしながら、素材にこだわった商品を手がけ、暮らしに根ざしたライフスタイルを発信しています。
石見銀山生活文化研究所本社前の水田 合鴨農法で育てる稲
クロモジをはじめ里山の植物で染めた衣類「里山パレット」は、全国にファンを持ちます。
またクロモジを使用したお茶は、「からだ想いの里茶」の名で、未来に残していくべき生活文化の一つとして販売されています。
里山の植物で染められる「里山パレット」の衣類
クロモジは身近な「お宝」! 玉造温泉では旅館のおもてなし料理に
玉造温泉 長楽園でのクロモジ料理の一品
クロモジ研究会の会員でもある(有)ユーエムディー(松江市)の大谷修司さんは、クロモジの様々な活用法を生み出しているお一人。
子どもの頃から身近だったクロモジを県の「お宝」にするために活躍されています。
原料調達から製造販売まで手がけ、クロモジのお茶はもちろん、すりこぎ棒やツボ押し棒、食品開発まで...。
日本最古の湯のひとつに数えられ、神の湯ともいわれる「玉造温泉」の旅館でいただけるクロモジ料理など、アイデアを次々と形にしています。
香り高いクロモジのお茶「リンデラティー」
旧正月の伝統イベント「もち花祭り」復活でクロモジ知名度もアップ!
美保神社参道にて餅つきを行い、 「もち花飾り」を掲げて祭りを盛り上げる
島根県の東端、松江市美保関町では、クロモジの木のことを「もち花の木」や「ふくぎ」ともいい、
お正月にクロモジの枝に餅をさして神棚や床の間に飾る、「もち花飾り」の風習が昭和の頃までありました。
近年では、旧正月にこの風習を復活させようと「もち花祭り」が行われています。
「もち花飾り」を掲げるだけでなく、香り高きクロモジの木の演出を楽しめる工夫を凝らし、祭りを盛り上げています。
島根県内ではこの様子が毎年報道されることから、県内のクロモジ知名度が上がっているようです。
ここではクロモジ茶は「もち花茶」といわれ、親しまれています。
出雲大社の飯南町、クロモジの試験栽培、産業化と共同研究
出雲大社に納める大しめ縄を作るなど大役を担ってきた島根県飯南町は、Iターン移住者の拡大策や町の観光資源の再構築を始めています。
島根県の中でも、飯南町周辺は特にクロモジの育ちがよく、クロモジの産業化に期待が寄せられています。
しかし、そのほとんどが森林に自生しているため、収穫に労力がかかり、安定供給が困難でした。
そこで、この町にある島根県中山間地域研究センターでは、近年、県内農家の協力のもと試験栽培の研究を開始。
他に先駆けてクロモジ栽培による耕作放棄地の解消と、新たな特産品の開発を目指しました。
島根県中山間地域研究センターで種から育てたクロモジ。
研究の結果、クロモジの実は果肉を落とし、ポットに植えると4割から7割発芽することが分かってきました。
これらの苗は、圃場に試験的に植えられ、活用されます。
採取されたクロモジはお茶として、また料理などにも応用されています。
さらに、県産業技術センターなどと抗腫瘍、抗ウイルス作用についても共同研究。薬用としての効能にも注目が集まっています。今後もますます島根県のクロモジ文化、産業の発展が期待されます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
《お話を伺った皆さま》
石見銀山 群言堂グループ 取締役 松場 忠さん、関わり社員 鈴木 良拓さん
松江観光協会美保関町支部 事務局長 住吉 裕さん
(有)ユーエムディー(松江市)代表執行役 大谷 修司さん
島根県中山間地域研究センター/冨川 康之さん、大場 寛文さん、堂領 正巳さん、藤原 かおりさん
飯南町役場/森山 篤さん、林 泰宏さん
皆さんの肩書は取材時(2020年8月)のものです。