HOME > 生薬ものしり事典 > 【2019年12月号】魔よけに使われた「ヒイラギ」

生薬ものしり事典87 魔よけに使われた「ヒイラギ」


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クリスマスの飾りとは実は別物

「木」偏に「冬」で「柊(ヒイラギ)」と書くように、ヒイラギは冬を代表する植物です。
ただし、クリスマスの飾り用に使われるのはモチノキ科の「ヒイラギモチ」。昭和時代に輸入された植物で、5月に花期を迎え、秋から冬にかけて赤い実を結実します。一方、日本特産の「ヒイラギ」はモクセイ科で、11月頃に花期を迎え、春に黒い実が熟します。
植物学者の牧野富太郎博士は、「ヒイラギモチはクリスマスの飾りに使うこの葉を、ノコギリ葉の点だけに着目してヒイラギと呼んだもの。よい名ではない」と述べています。


ヒイラギ


日本に生育するヒイラギは関東以西から台湾の山地に自生するか、庭木や垣根に植えられている常緑の小高木です。葉の周辺部はノコギリ状で、各側が1~3カ所ずつ先が鋭く尖(とが)ってとげのようになっており、老樹になるとノコギリ状の切れ込みをもたない丸みのある葉が多く見られます。
秋になると、葉の付け根に白色の小さな花が放射状に束になって咲き、よい香りがほのかにします。実は楕円(だえん)形で、黒紫色に熟します。


ヒイラギと日本人の生活のかかわりは、魔よけの効果が信じられるようになった頃からです。『続日本紀(しょくにほんぎ)』(797年)には、献上された大きなヒイラギを、文武天皇が伊勢大神宮に奉じた記録があります。
また、紀貫之の『土佐日記』(935年頃)に記された元旦の項には、「今日都のみぞ思ひやらるる、小家の門の端出之縄、なよしの頭の、ひひらぎ等いかにとぞ言ひあへなる」と、京の風習を懐かしむ箇所があります。「なよし」とは鯔(ぼら)のことで、節分の時に門口に鰯(いわし)の頭とヒイラギを飾る伝統風習の原型です。この風習は、邪鬼がヒイラギのとげを恐れ、鰯の頭の腐敗臭に驚いて逃げることを願って今日まで受け継がれています。


自生するヒイラギを園芸用に改良するのが盛んになったのは江戸時代中期で、『花壇地錦抄(かだんちきんしょう)』(1695年)にもその経緯が記述されています。
江戸時代後期になると、さらに品種改良が進み、『草木奇品家雅見(そうもくきひんかがみ)』(1827年)には、黄斑の入った「黄金ヒイラギ」や、芽出しの時に紅紫色になる「染井五三郎つづれ」など7種が紹介されています。


詩歌にヒイラギが多く詠まれるようになったのは、明治時代以降です。


ひひらぎの 白き小花の咲く時に いつとしもなき 冬は来むかふ

斎藤 茂吉

柊の 花一本の 香かな

高野 素十


ヒイラギの日本名の漢字は「疼木」と書くこともあります。「疼」は「ひいらぐ(痛む)」の意味で、葉のとげに触れると疼痛を起こすことに由来します。漢名に「枸骨」を当てる場合はヒイラギモチのことです。
別名に「ひらぎ」「鬼の目突き」「杠谷樹」などがあります。
学名はOsmanthus heterophyllusで、属名はギリシア語のosme(香り)+anthos(花)の合成語、種小名は「ヒイラギモチのような葉」という意味です。
花言葉は「保護」「用心深さ」「先見の明」などです。


出典:牧幸男『植物楽趣』