HOME > 生薬百選 > 【2010年1月号】生薬百選 70 板藍根(ばんらんこん)


生薬百選 70 板藍根(ばんらんこん)


風邪やインフルエンザが流行するこの時期、予防には手洗い・うがいが有効であるといわれています。日本では昔から塩水うがいが行われたり、最近では緑茶・紅茶うがいが試みられていますが、漢方の本場・中国では「板藍根」という生薬を煎じて飲んだり、うがいをする習慣があるそうです。また、中国の小中学校では板藍根を煎じた液を子供たちの喉に吹きかけ、風邪の予防に活用しています。以前、中国を中心に起こったSARSの流行の際には板藍根の需要が非常に高まり日本でも注目を集めました。今回は冬の季節に重宝される生薬「板藍根」について紹介します。

板藍根は五月ごろに小さな十字状の花を咲かせるアブラナ科の植物、ホソバタイセイ(松藍)またはタイセイ(草大青)の根を乾燥したものです。中国ではキツネゴマ科のリュウキュウアイの根および根茎も板藍根(馬藍)として同様に用いています。板藍根(松藍)は中国葯典(中国の医薬品の公定書)にも記載され、重要な生薬のひとつとして扱われています。


タイセイ(5月中旬)
タイセイ(5月中旬)
タイセイの花
タイセイの花

板藍根の東洋医学的な薬効は清熱・涼血・解毒であり、西洋医学的には解熱・抗炎症・抗菌・抗ウイルス作用などと解釈できます。実際には風邪、流行性感冒(インフルエンザ)、肺炎、流行性結膜炎(はやり目)、顔面の発赤・腫れ、発熱を伴う扁桃炎、口内炎、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、丹毒(細菌感染によって起こる皮膚の化膿性炎症)など様々な感染症や炎症に用いることができるとされています。基礎研究においても板藍根は抗菌作用の幅が広く、多種類の細菌の増殖を抑制することや、多くのウイルスの働きを抑制し、インフルエンザウイルスの増殖も抑制することが報告されています。


生薬 板藍根
生薬 板藍根


板藍根の抗ウイルス有効成分はインドキシル−β−グリコシドという物質であると報告されましたが、その後行われた実験によってこの物質には抗菌作用も抗ウイルス作用も認められず、加えて体内から速やかに排出されてしまうことが証明されたため、長らく有効成分の正体は分からないままとなっていました。近年、熊本大学のグループが検討した結果、板藍根の抗ウイルス作用を示す成分の一つがルペオールという物質であると報告され、今後の研究の発展が期待されています。

これから冬本番となりますが、風邪やインフルエンザ対策には手洗い・うがいを徹底し、抵抗力・免疫力を高めることが大切です。私も栄養と休息をしっかりとって寒さ厳しい信州の冬を乗り切りたいと気合を入れ直しているところです。

■ 鈴木 和重(養命酒中央研究所・基盤研究グループ)