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呼吸の雑学

「呼吸はどれだけ止めていられるの?」 「すべての動物は一生の呼吸回数が〇回?!」「スポーツも餅つきも呼吸で決まる!」——今月は呼吸の雑学をお届けします!


呼吸はどれだけ止めていられるの?

人は呼吸ができないと生きられませんが、どのくらい呼吸をガマンすることができるのでしょうか?ギネス世界記録によると、2015年にスペイン人のアレイクス・セグラ氏が、水中で24分3秒も息を止めるという仰天記録を樹立しています。2012年にドイツ人のダイバーが打ち立てた22分22秒を上回る息止め最長記録ですが、いずれも直前に純酸素を吸入したうえで記録に臨んでいるそうです。
さかのぼること1976年に酸素ボンベも何も使わず、人類史上初の水深100mの素潜り記録を打ち立てたのは、映画『グラン・ブルー』のモデルにもなった伝説のフランス人ダイバーのジャック・マイヨール氏です。この時の無呼吸潜水時間は3分40秒だったそうですが、当時「水深40m以上で潜水時間が3分を超えると肺が水圧でつぶれる」といわれていた常識を覆す大快挙でした。彼は日頃から禅やヨガの呼吸法を身につけており、水圧が高まるとイルカのように血液を心臓や肺などに集中させることができたといわれています。
なお、2016年にはニュージーランド人のウィリアム・トゥルブリッジ氏が、約4分半の無呼吸潜水で水深124mの素潜り世界記録を更新しています。勇気ある挑戦は賞賛に値しますが、決してマネしないでくださいね。


呼吸はどれだけ止めていられるの?


すべての動物は一生の呼吸回数が〇回?!

私たちは毎日当たり前のように呼吸をしていますが、一生のうちに何回ぐらい呼吸すると思いますか?生物学者・本川達雄氏の著書『ゾウの時間ネズミの時間』(中公新書)によると、「スーハー」と呼吸する間に心臓が「ドキン、ドキン…」と4回打っており、哺乳類の一生の心拍数は約20億回と考えられており、どの動物も生涯に5億回ほど呼吸をしている計算になるそうです。
といっても、例えば今年の干支であるウシのように大きくてゆったり動く動物と、去年の干支のネズミのようにチョロチョロすばしこく動く小さな動物が、同じリズムで呼吸しているわけではありません。呼吸や心拍数の時間間隔は、動物の体重の4分の1乗に比例するそうです。つまり、呼吸や心拍数がゆったりしている大きな動物ほど、寿命が長いと考えられるのです。実際、巨大なクジラは寿命が70年以上、ゾウは60年以上、ウシは20年前後、ネズミは2年前後と、身体の大きさと寿命が比例しています。
それほど巨大ではない人間が長寿なのは医学の進歩によるものですが、心拍数が基準値(健康な成人の安静時の心拍数は約60~100回:厚生労働省「e-ヘルスネット」より)よりも高い人は心疾患のリスクが高くなるという研究データもあります。心拍数が高いということは、呼吸が速いということです。呼吸は意識して変えられるので、今月の特集「長生き呼吸法」のようにできるだけゆったりした呼吸を心がけたいですね。


スポーツも餅つきも呼吸で決まる!

呼吸ひとつで勝敗が決まるといわれるほどスポーツでは呼吸が重要です。武道では、隙を作らないために腹筋を使ってへその奥に位置するといわれる「丹田」に息を集め、長く息を吐く「丹田呼吸法」を行います。江戸時代中期の医学者・貝原益軒も、著書『養生訓』の中で武人が敵と戦う時は「丹田で呼吸すべき」と説いています。
格闘技のキックボクシングでも、鼻から大きく息を吸って腹圧を高め、絞った息を吐きながら鋭いパンチやキックを繰り出します。
卓球の福原愛選手が現役時代によく発した「サーッ」、張本智和選手の「チョレイ!」、マリア・シャラポワやモニカ・セレシュといったテニス選手が返球時に発するうなり声など、スポーツ選手が発する大きな声も、呼気を勢いよく吐いて気合を入れる呼吸のひとつといえるでしょう。
一方、駅伝やマラソンの場合は、「スッスッハッハッ」と息を2回吸って2回吐く、規則正しい呼吸が理想的といわれています。これは、息が乱れることで体内に十分な酸素を取り込んで全身に巡らせることができなくなるのを防ぐためです。
サッカーやラグビーなどチームプレイの場合は、球をつないで得点を決めるためにチームメイト同士の「阿吽の呼吸」が不可欠です。阿吽は神社の狛犬でもおなじみですが、口を開いて息を吐く「阿」と、息を吸って口を閉じる「吽」が合わさった語で、互いの呼吸がピタリと合うことです。
ちなみにスポーツではありませんが、餅つきもつき手と返し手の阿吽の呼吸が必須です。奈良県の老舗餅店「中谷堂」は、見事な阿吽の呼吸で1秒に3回も餅をつく伝統の高速餅つきで有名です。それによって伸びのよいお餅に仕上がるのだとか。素晴らしい結果を得るためには、何ごとも呼吸を大切にしたいですね。