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哺乳類の雑学

「生きた化石か毒ヘビか?突っ込みどころ満載の哺乳類カモノハシ」「哺乳類最強のラスボスとは?」「ヒトの脳にはワニとウマがいる!?」——今月は哺乳類の雑学をご紹介!


生きた化石か毒ヘビか?突っ込みどころ満載の哺乳類カモノハシ

哺乳類とひとことでいっても実に多様ですが、中には「カモノハシ」のように“哺乳類らしくない哺乳類”もいます。オーストラリア東部に生息するカモノハシは、哺乳類なのに卵から産まれ、鳥のようなクチバシや水かきがあり、爬虫類のように体温調整が苦手です。それでも哺乳類に分類されているのは、授乳するから。ただ、乳首がないため、おなかの皮膚や体毛から汗のように染み出す母乳を子どもになめさせて育てます。
哺乳類と呼ぶにはいろいろと突っ込みどころが多いため、カモノハシのはく製を初めて見たヨーロッパの人々も、「これは、カモとビーバーを縫い合わせた作り物では…?!」とざわついたといいます。「カモの変種か?」「ワニに近い?」などと生物学界で長年物議を醸してきたカモノハシですが、その起源は古く、約1億5千万年前の恐竜時代に出現して以来、姿がほぼ変わっていないといわれています。19世紀に進化論を唱えたダーウィンは、著書『種の起源』の中でカモノハシを「生きた化石」と呼んでいます。
カモノハシの生態はいまだ謎が多いといわれますが、そのルックスは愛嬌のあるほっこり系。ただ、オスのカモノハシの蹴爪は毒ヘビの牙に似ていて猛毒があるのだとか。カモ、生きた化石、毒ヘビ…とさまざまな特徴を持つカモノハシは、やはり“哺乳類らしくない哺乳類”の筆頭といえるのかもしれません。



哺乳類最強のラスボスとは?

多様な哺乳類の中でもケタ違いに大きいのが、体長30 m前後、体重200t近い世界最大の「シロナガスクジラ」です。絶滅した恐竜に匹敵するボリュームですが、シロナガスクジラにも天敵がいます。それは、「キラー・ホエール」の異名を持つ「シャチ」。知能が高く獰猛なシャチは、「海のギャング」とも呼ばれており、シロナガスクジラを集団で襲い、鋭い歯で容赦なく攻撃します。映画『ジョーズ』のモデルになった「ホオジロザメ」も、シャチには歯が立ちません。ホオジロザメの肝臓が大好物なシャチにかかれば、恐ろしい人喰いザメもたちまちデザートにされてしまいます。
では、地上最大級の肉食獣といわれる「ホッキョクグマ」は、シャチに勝てるでしょうか?ホッキョクグマのオスは体長約2m、体重約1tですが、シャチのオスは背びれだけでも2m近くあり、体重も最大10t近くあります。しかも、シャチは水中で生きる哺乳類の中で最速の時速60~70kmで泳ぎ回るので、さすがのホッキョクグマも水中では太刀打ちできません。向かうところ敵なしのシャチは、学名もOrcinus orca=「冥界からの魔物」とラスボス感たっぷりです。
無敵のシャチに天敵がいるとしたら、それは人間による海洋汚染です。シャチは食物連鎖の頂点にいるため、汚染物質が濃縮されてしまい、繁殖力が弱まってしまうのです。2018年に米国の科学誌『サイエンス』に掲載されたデンマークのチームの研究発表によると、100年後には各地のシャチがほぼ絶滅する恐れがあるのだとか。生態系を守るためにも、海洋汚染をこれ以上進行させない対策を急ぐ必要があります。


ヒトの脳にはワニとウマがいる!?

セキツイ動物が魚類や両生類、爬虫類、哺乳類と変化してくる過程で、大脳皮質も変化してきました。人間も含めた哺乳類の大脳皮質には、爬虫類時代から受け継いだ最も古い旧皮質と、その次に古い古皮質を総称する大脳辺縁系、哺乳類になってから発達した新皮質が存在しています。古い皮質は快・不快などの本能や怒りなどの情動を司り、新皮質は学習や思考、情操などを司っています。動物行動学者の日高敏隆氏は、著書『動物はなぜ動物になったか』の中で、古い皮質を「ワニの脳」と「ウマの脳」に例え、「我々人間は、誰でも自分の中に一匹のワニと一頭のウマを持っていることになる。我々が男女を問わず他の人と話しているとき、実はワニやウマと話しているのである」と語っています。つまり、どんなにお行儀よく高尚なことを話していても、「ムッ」としたり、「キャッ」と驚いたり、「ヒーッ」と恐れたり、「食べたい!」とよだれが出たりするような動物的本能や情動が必ずベースにあるということです。
ただ、人間は新皮質が急激に発達したため、例えば旧皮質や古皮質が「怖い!」と感じても、新皮質が「大人なんだから我慢しなきゃ」などと理屈をつけて、本音と相反する指令を出したりします。人間社会では本能や感情をむき出しに動くわけにはいきませんが、あまりにツライときには、自分の頭の中のワニやウマの声にも耳を傾けることが大切なのかもしれません。