HOME > 健康の雑学 >  【2019年1月号】 音楽の雑学

音楽の雑学

「年末にベートーヴェンの第九が歌われるワケ」「脳の神経細胞の活動はオーケストラに似ている?」「動物や人の身体も楽器に変身!」——今月は音楽の雑学をお届けします!


年末にベートーヴェンの「第九」が歌われるワケ

「第九」といえば年末の風物詩ですが、実はこれは日本だけの風習なのをご存じですか?「第九」はベートーヴェンが晩年に作曲した『交響曲第9番』の略ですが、中でも最終楽章の『歓喜の歌』は、EUが採択した「ヨーロッパの歌」としても有名で、世界中で歌われています。『交響曲「第九」の秘密』(ワニブックス刊)によると、日本で第九が初めて演奏されたのは第一次世界大戦の真っ只中にあった1918年、徳島県の「板東俘虜収容所」でした。この収容所内には約1,000人のドイツ人捕虜がおり、楽器演奏ができる捕虜たちによるオーケストラによって、第九が演奏されたそうです。第九が年末の風物詩になったきっかけは、太平洋戦争が始まる直前の1938年12月に、歌舞伎座で開催された新交響楽団(現・NHK交響楽団)による特別演奏会の「第九」演奏でした。楽団の名指揮者ヨーゼフ・ローゼンシュトックの働きかけもあって、「第九」演奏が年末の恒例演目になっていったようです。1940年12月には、新交響楽団がラジオで「第九」を生放送したのを機に、日本全国のオーケストラが年末に「第九」を演奏するのが恒例化したのです。ちなみに、「第九」は1時間以上の壮大な交響曲ですが、1980年代にCDが開発された時、ソニーの元会長の大賀典雄氏が「第九」を1枚のCDに収めたいと望んだことから(名指揮者カラヤンが望んだという説もあり)、CDの最大収録時間が74分になったのだとか。年の瀬に壮大な「第九」をゆっくり聴く時間を持ちたいですね。


脳の神経細胞の活動はオーケストラに似ている?

ヒトの脳の中には、1千億個のニューロン(神経細胞)があり、そのつなぎ目をシナプスといいます。各々のニューロンから放たれたさまざまな神経伝達物質が、シナプスを通して他のニューロンに拡散していくことで、興奮したり、リラックスしたりするなど、さまざまな精神状態が生じます。脳科学者の茂木健一郎氏は、ニューロンが響きあって意識を創り出している状態は、「オーケストラのさまざまな楽器が力を合わせて1つの音楽を生み出すプロセスに似ている(『すべては音楽から生まれる』PHP新書より)」と語っています。神経伝達物質は、ドーパミンやセロトニンをはじめ、グルタミン酸、ギャバなど数百種類にのぼるといわれています。1千億個のニューロンと数百種の神経伝達物質が、さまざまなタイミングで響きあっている状態を、茂木氏は「多様なリズムのビートが絶え間なく発生しているようなもの」といい、これを「脳の中のシンフォニー」と表現しています。自分の脳内で、今どんなシンフォニーが鳴り響いているのだろう?——と想像してみるとおもしろいかもしれません。年末年始は、ほっと安らぐようなシンフォニーが脳内に共鳴するといいですね。


動物や人の身体も楽器に変身!


楽器の素材はさまざまですが、動物の身体の一部を利用した楽器も少なくありません。ドイツの洞窟で発掘された世界最古といわれるフルートに似た楽器は、マンモスの牙で作られています。また、ラテン音楽でよく使われる「キハーダ」という打楽器には、ロバや馬の下あごの骨と歯が使われています。ラテン音楽とはかけ離れますが、時代劇の効果音や、北島三郎さんの有名な演歌『与作』に使われている「カーッ」という乾いた音も、キハーダの音です。
骨といえば、人骨が使われた楽器もあります。チベットの楽器「カンリン」には、風葬で弔われた死者の大腿骨がまるごと使われています。また、ラマ教の儀式で使われる太鼓「ダマル」には、なんとヒトの頭蓋骨や皮が使われているそうです。泣く子も“ダマる”ような恐るべき楽器ですが、赤ちゃんをあやすのによく使われる日本の民芸玩具「でんでん太鼓」のルーツも、実はダマルなのではないかという説があります。他にも、日本伝統の「三味線」には猫や犬の皮が使われていますし、沖縄や奄美地方に伝わる民族楽器「三線(さんしん)」には、ヘビの皮が張られています。また、バイオリンの弓には、今も昔も馬のしっぽの毛が使われています。どんなに科学技術が進んでも、楽器の繊細な音は人工素材では補えないものがあるようです。