HOME > 特集記事 > 【2019年1月号】 平成最後の年末年始はテルミンの音色に癒されて

平成最後の年末年始は
テルミンの音色に癒されて

平成最後の年末年始はテルミンの音色に癒されて

100年前にロシアで生まれた世界最古の電子楽器「テルミン」。楽器に触れずに奏でるテルミンの不思議な音色には、心の癒しや近年話題の「マインドフルネス」に通じるものがあるのだとか。日本のテルミン演奏の第一人者である竹内正実さんに、テルミンをはじめ、マトリョーシカ型テルミン「マトリョミン」の魅力を教えていただきました。

お話を伺った先生
テルミン奏者/マンダリンエレクトロン代表 竹内 正実さん
藤井直樹(たてふじ ともき)先生

1967年生まれ。大阪芸術大学音楽学科音楽工学専攻卒。1993年、ロシアに渡り、テルミン博士の愛弟子リディア・カヴィナに師事。2001年、日本オーディオ協会より「音の匠」に選定。2003年、マトリョーシカ型テルミン「マトリョミン」を開発。2010年、映画『のだめカンタービレ最終楽章・後編』でテルミン演奏の吹き替えと演奏法指導を担当。国内外で250回以上のコンサートに出演。CDを3枚リリース、著名ミュージシャンのCDへのゲスト参加も多数。2013年に272名によるマトリョミン合奏でギネス世界記録を樹立。マンダリンエレクトロン代表。
https://www.mandarinelectron.com/

誕生100年を迎える
「テルミン」とはどんな楽器?

テルミン(Theremin)は、1919年(1920年という説もあり)にロシアの物理学者レフ・テルミン博士(1896~1993年)によって発明された世界最古の電子楽器です。竹内さんいわく、既存のアコースティック楽器を電子化したものではなく、全く新しい発想で考案されたオリジナルの楽器である点が素晴らしいといいます。垂直方向と水平方向に伸びたアンテナの周囲には、微弱な電波が流れています。アンテナに手を近づけたり遠ざけたりすることで電波状態を変えながら、音の高さや大きさをコントロールし、楽器に直接触れずに音楽を奏でることができます。

竹内さんによる演奏

テルミンが“癒しの音”といわれるのはなぜ?

電子キーボードは鍵盤を押すだけで目指す音がすぐに出せますが、揺れのないピッチ(音の高さ)の音しか出ません。生理学的には、同じ聴神経(聴覚を伝える感覚神経)を刺激する揺れのないピッチは不快に感じるかもしれません。
一方、テルミンには音律や音階を定める基準となる鍵盤などがないので、ピッチに微妙な揺らぎが生じます。例えるなら、電子キーボードの音は定規で引いたように直線的であるのに対して、テルミンの音はフリーハンドで描いた線のような味わい深さがあります。複数の演奏者がテルミンを合奏すれば、十人十色のズレが絶妙に重なりあい、心地よく太い癒しの音に聴こえます。竹内さんのファンの中には、竹内さんのテルミン音楽のCDを流して手術に臨んだ方もいたそうです。

コラム 猫もテルミンに癒される!?

テルミンの不思議な音は、猫の声色にも似たところがあるという竹内さん。かつてロシアから連れ帰ってきた賢い愛猫は、竹内さんがテルミン演奏を始めると、邪魔をしないように隣の部屋で穏やかに聞き入っていたそうです。元気通信編集部スタッフの愛猫も、テルミン演奏の動画を流すと、ゴロゴロ、スリスリが止まらなくなります。猫と暮らしている方はぜひお試しを!

竹内さんの愛猫・菊千代

竹内さんの愛猫・菊千代

テルミンを演奏すると雑念から解放される

演奏者もテルミンを奏でることで心が安定します。なぜなら、テルミンを演奏する時は非常に集中するため、スポーツ選手や将棋指しが競技中に“ゾーン”に入るように、雑念が取り付く島もなくなるからです。演奏に集中することで、一切の雑念から解き放たれるのです。これはヨガや瞑想をはじめ、“今ここで起きていること”に意識を集中する「マインドフルネス」のアプローチに似ています。テルミンを演奏している人は、菩薩のような表情をしており、集中して演奏した後はとても疲れるけれど、雑念のストレスから解放され、心が健やかになるといいます。

日本人はテルミン演奏に向いている?

日本はテルミン演奏者の数や水準が世界トップレベルのテルミン先進国です。欧米のようにナイフやフォークではなく、2本の箸だけを使って食事をする文化がベースにあることも、テルミン演奏に欠かせない指先の繊細な動きに役立っているのかもしれません。また、テルミンはどんなに熟練した演奏者でも揺れを完全に取り除くことはできず、それこそが音色の妙を創っていることからも、とても啓示的な楽器といえるでしょう。完全なものでなく、あえて未完成なものこそ“をかし”なものとして美を見いだす日本古来の文化に通じるものがあるといえます。
竹内さんと弟子が教える演奏教室「マンダリン・スコラ」では、小学校低学年の子どもや、全盲の方も演奏しているそうです。ピアノやバイオリンは指が長く手が大きなほうが有利といわれていますが、テルミンは微細な動きが音に反映されるので、手が比較的小さな日本人に向いているようです。

テルミンとマトリョーシカが合体した
「マトリョミン」で大合奏!

音楽工学に精通している竹内さんは、テルミンの身近な入り口としてマトリョーシカ型のテルミン「マトリョミン」を2003年に開発。ご存じの通り、マトリョーシカはいくつもの人形が入れ子状になったロシアの有名な民芸品です。そのボディに使われている菩提樹は柔らかく、楽器の共鳴体に向いていることから、マトリョーシカにスピーカーを入れて共鳴させるマトリョミンが誕生しました。四半世紀前にたったひとりでテルミンを始めた竹内さんですが、2013年には272名ものマトリョミン演奏者を集めて大合奏を行い、ギネス世界記録も打ち立てました。

272名のマトリョミン演奏者によるギネス記録の「アメイジング・グレース」大合奏

マトリョーシカ型テルミン「マトリョミン」

マトリョーシカ型テルミン「マトリョミン」

竹内さんのパートナーの濱口晶生さん

竹内さんのパートナーの濱口晶生さんは、テルミン歴18年、マトリョミン歴13年のベテラン。
「テルミンやマトリョミンを演奏する時はとにかく集中するので、他のことは一切考えられない無心の境地になり、心配事や雑念が全部吹き飛んでしまいます。演奏し終わった後は、雑念がきれいに消えているので、ものすごく穏やかな気持ちになるんですよ!」



まとめ

年末年始に雑念を払っていい年を迎えよう!

「年末年始はやることが多くてゆっくりできない…」という人も少なくないと思いますが、テルミンやマトリョミンを演奏して集中すると雑念が消えるように、年末年始でいそがしい時こそ、雑念から解放されるいい機会かもしれません。また、「お正月休みが続くと、かえってストレスが溜まる」という人は、マトリョミンのようにぐっと集中できることにチャレンジしてみてはいかがでしょう。



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