HOME > 研究員のウンチク > 【2008年10月号】可哀想な植物 ミョウガ


可哀想な植物 ミョウガ



記憶力は身につけたいと思っていてもなかなか身に付かないものです。大昔、古代ローマ時代から記憶するために色々な方法が考えられてきたようです。その中で特に有効であった記憶法の一つにギリシアの雄弁家が発明した「場所記憶法」というものがあります。修道院まで行く道の途中にある建築物や中庭、礼拝堂などの馴染みのある場所に、スピーチの中で話す要点を配置しておきます。スピーチを行う時には、頭の中で修道院までの道筋をたどりながら、通過点に置かれた要点を思い出しながらスピーチをするというものです。この時代ではメモを用意しての弁論が許されなかったことから記憶術が発達したようで、昔から覚えるために色々と苦労をしてきたようです。

ところで「ミョウガを食べると物忘れがひどくなる」という話を聞いたことがあると思いますが、せっかく苦労して覚えたものもミョウガを食べたら全部忘れてしまってはたまったものではありません。実はこの言伝えは全くの迷信なのです。昔、自分の名前も忘れてしまう程、物忘れの激しいお釈迦様のお弟子さんがいて、このお坊さんはとうとう死ぬまで自分の名前を覚えることができなかったようです。その後、お弟子さんのお墓にいくと、見慣れない草が生えていました。そこで「自分の名前を荷って苦労してきた」ということで、「名」を「荷う」ことから、この草に「茗荷」と名付けたことが始まりのようです。

ミョウガはショウガ科の植物ですが、あの香りと風味を出しているのは−ピネンと呼ばれる精油成分が多く含まれているからです。この成分は食欲増進、発汗作用などがあるようですが、驚くことに脳を刺激し逆に記憶力が向上するという話もあります。

ミョウガは薬味として大活躍しますが、酢の物や漬物としても広く利用されています。その反面、その独特な強い香りから嫌われることも多く、食べると「物忘れがひどくなる」、「頭が悪くなる」などとも言われる可哀想な植物なのです。


ミョウガの葉 葉はショウガに似ています。
ミョウガの葉
葉はショウガに似ています。


ミョウガの花 咲く前が食べごろです。
ミョウガの花
咲く前が食べごろです。


ミョウガの味噌漬け お酒によく合います。
ミョウガの味噌漬け
お酒によく合います。


ミョウガの味噌汁 ミョウガの食欲増進作用によりご飯が進みます。
ミョウガの味噌汁
ミョウガの食欲増進作用により
ご飯が進みます。



■松見 繁(養命酒中央研究所・基盤研究グループチームリーダー)