HOME > 生薬ものしり事典 > 【2021年3月号】和紙の原料として有名な「ミツマタ」

生薬ものしり事典102
和紙の原料として有名な「ミツマタ」

ライン

春を告げる黄金色の小花

3月は日差しも強くなり、動植物にとってうれしい季節です。この時期に咲き始める「ミツマタ」は、春を告げる花の一つです。葉が全くでないうちに花芽がほころび出し、沈丁花のような花を咲かせます。花の色は、はじめは地味な灰黄色ですが、暖かくなるにつれて黄金色に変わります。よく観察すると小花が寄り添って咲いており、まるで薬玉のように見えます。
ミツマタはジンチョウゲ科の落葉低木で、中国中南部からヒマラヤ付近が原産地といわれています。成長すると高さ1~2mほどになり、枝が必ず3つに分かれるという特徴があります。12月頃から蕾を生じ、小型の蜂の巣のような蕾のまま越冬し、気温が高くなるのを待って開花し始めます。
花は花弁のない萼片が筒状に発達した無弁花で、反りかえるようにして咲きます。先端は四裂し、外面には白毛が密生します。内側は無毛で鮮明な黄色です。
生育場所は日当たりのよいところより、少し日陰になるような木の下を好みます。山野に野生化するものも一部ありますが、多くは和紙の原料として栽培されています。花の少ない時期に咲く植物だけに、庭木として楽しむ人も多くいます。


ミツマタ


ミツマタの種類は、樹皮の色によって赤木種と青木種に分けられます。一般に赤木種のほうが花の数が多く、観賞用に適しています。花は黄色が主ですが、戦後改良された紅色もあります。花としては地味ですが、俳味に富んでいるので、茶花としても利用されます。
日本原産の植物ではありませんが、渡来した時期は明確にわかっていません。『万葉集』(7~8世紀)にサキクサ(三枝)と呼んだ和歌が収載されており、これがミツマタと同じとする説があります。栽培の記録は室町時代以降といわれていますが、江戸時代に編まれた『大和本草』や『和漢三才図絵』(ともに18世紀)に書かれた和紙の原料や観賞用に栽培しているという記述が初出とされています。
ミツマタは和紙の原料として有名ですが、同じジンチョウゲ科の「ガンピ」や、クワ科の「コウゾ(楮)」も和紙の原料に使われています。
飛鳥時代の有名な歌人、柿本人麻呂もミツマタの歌を詠んでいますが、ミツマタが歌題となるのは明治以降が多いようです。

春されば 先ず三枝(さきくさ)の 幸(さき)くあれば 後にも逢はむ な恋ひそ吾妹(わぎも)

柿本人麻呂


ミツマタの名前の由来については、牧野富太郎博士は「三叉はその枝が3本ずつに分かれていることによる」と述べています。漢名は「黄瑞香(おうずいこう)」で、黄色い花が咲く沈丁花を意味します。
別名に「三枝(サキクサ)」「三枝(ミツエダ)」「三叉楮(サンサコウゾ)」「三叉(サンサ)」「三股(ミツマタ)」「結黄(ムスビキ)」「数珠草(ジュズソウ)」などがあり、別名の多くは花の姿に由来するようです。
学名はEdgeworthia chrysanthaで、属名はイギリスの植物学者名、種小名は黄色い花姿に由来します。
英名は「Paperbush」で、紙の原料であることにちなんでいるようです。
ミツマタは茎の靭皮繊維が発達しているので、和紙の原料としては最高の品といわれ、紙幣や鳥の子紙などに利用されています。日本ではコウゾを利用した和紙が最も古く、次にガンピが使われていました。いずれも奈良時代です。ミツマタは江戸時代になってから利用されるようになりました。現在はガンピの栽培が難しいため、和紙の原料にはミツマタが最も多く使われています。
ミツマタの花言葉は「強靭」「意外な思い」「壮健」です。


出典:牧幸男『植物楽趣』