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生薬ものしり事典61 夏目漱石の名著にも登場する「クコ」


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「枸杞葉」「枸杞子」などの名で知られる生薬

「クコ」は、春のツヤツヤした若芽の姿もさることながら、秋の陽に照らされて、赤いつぶらな実が輝いている姿も一見に値します。その様子から、秋が深まりつつあることを実感できます。クコを身近に感じるのは、生活に密着してきたからといえます。
クコはナス科の小形の落葉低木で、環境に順応しやすく、河原や庭の端、荒れ地などによく群がって生息しています。細長く縦筋がある茎は、高さ1〜2mになり、棘状の小枝がしばしばついています。葉は数枚ずつ集まって付き、倒披針形で、長さ2〜4cm、幅1〜2cm、全縁で短い柄を持ち、葉質は柔らかく無毛です。夏になると、葉の付け根に淡紫色のかわいらしい五弁の花が開きます。秋になると、長さ1.5cm、直径1cm弱の赤い楕円形の実を付けます。


クコ


 クコは生け垣に植えられることも多く、よく詩歌の対象にされています。
「春ふかき この崖下に 移りきて 枸杞の芽たつを つみみけるかも」 土屋文明
「枸杞垣の 似たるに迷う 都人」 与謝蕪村


日本名の「クコ」の名は、漢名の「枸杞」の音読みで、明の本草学者・李時珍(1518〜1593年)の言葉に由来するようです。学名はLycium chinenseで、属名は中央アジアのlyciaに産する棘のある植物に似ているという意味で、種小名のchinenseは中国に多く生育しているからです。
クコは漢方の要薬として古くから知られており、3世紀につくられた中国最古の医学書『神農本草経』には、「久しく服すれば筋骨を堅くし、身を軽くし、老いず、寒暑に耐える」とあり、有用な薬用植物でした。
生薬名としては、葉を「枸杞葉」、果実を「枸杞子」、根の皮を「地骨皮(ちこっぴ)」といい、滋養強壮や消炎、利尿、高血圧に利用されてきました。また、果実は薬用酒や枸杞飯などの薬膳料理に、柔らかい若芽はごま和えやおひたしなどに利用されています。
『徒然草』にも登場する久米の仙人は、大和の国吉備郡竜門寺にこもり、仙人になった人物ですが、クコへの造詣が深いことで知られています。聖武天皇に賜った土地を農民に与え、枸杞酒、枸杞茶、枸杞飯、枸杞団子などの利用をすすめています。自身もクコを愛し、186歳まで長寿したと伝えられています。
夏目漱石の小説『草枕』の一節にも、「家の南面に枸杞の生け垣を植えると、病人が出ない」というくだりが見られます。
花言葉は「お互いに忘れよう」「誠実」です。


出典:牧幸男『植物楽趣』