HOME > 生薬ものしり事典 > 【2015年5月号】端午の節句の主役「菖蒲根」

生薬ものしり事典32 菖蒲根(しょうぶこん)


今回の「生薬ものしり事典」は、過去にご紹介した生薬百選より、「菖蒲根」をピックアップしました。

菖蒲(しょうぶ)の香りには血行促進や疲労回復効果も

ゴールデンウィークが近づき、気候もどんどん暖かくなってきました。この季節を象徴する「五月晴れ」は本来、旧暦五月の梅雨の合間の晴れ間を指す言葉でした。しかし、新暦の五月に当てはめられてからは、今のように五月のさわやかな晴天を指すようになったようです。
五月の空といえば、やはり子供の日を祝う「鯉のぼり」ですね。子供の日は「端午の節句」ともいい、鯉のぼり以外にもさまざまな習慣があります。そのひとつが、菖蒲の葉を風呂に浮かべて入る「菖蒲湯」です。なぜ菖蒲の葉を浮かべたのかというと、そのまっすぐな葉が刀に似ており、邪気を祓うような爽やかな香りを持つことから、男の子に縁起のいい植物とされたためです。
菖蒲の芳香には、「テルペン」という分類に属する多くの香り成分のほか、アザロン、オイゲノールといった香りの成分が含まれています。これらの成分は、血行促進、疲労回復に効果があります。また、この根茎を乾燥させたものが「菖蒲根」という生薬です。より香りの強いものがよいとされ、漢方では健胃や鎮痛、鎮静に効果を期待して用いられます。


花をつけた菖蒲
花をつけた菖蒲
葉の中ほどから花が出るような変わった形をしています。

昔の端午の節句には、ヨモギや菖蒲といった薬草を摘んだり、そうした薬草や香料を袋に詰めて贈る習慣がありました。このとき送った袋のことを「薬玉(くすだま)」と呼びました。これが後に祝い事などで割る「くす玉」に変化していったそうです。
一般に「ショウブ」と呼ばれている植物には本物と、似て非なるものの2種類あります。園芸などで栽培され、きれいな花を咲かせるショウブは、実は「ハナショウブ」といい、生薬に用いたり、菖蒲湯に入れるものとは全くの別ものです。ハナショウブはアヤメ科の植物ですが、本物の菖蒲はサトイモ科、もしくはショウブ科に属する植物です。

菖蒲の花
菖蒲の花
アヤメやハナショウブやに比べると菖蒲の花は地味です。
アヤメ
アヤメ

葉の形状が似ていることから「ショウブ」と名付けられたハナショウブですが、見た目が派手なことから、本家より目立ってしまっています。なんとも不憫な菖蒲ですが、実はこれは現代に限った話ではなく、菖蒲はかつて「アヤメ」と呼ばれており、現在のハナショウブことアヤメは「ハナアヤメ」と呼ばれていました。やがて、派手で目立つハナアヤメが「アヤメ」として認知され、アヤメから外された菖蒲はそのまま音読みで「ショウブ」と呼ばれるようになったのです。このように、菖蒲は二度も名前を取られてしまいましたが、この季節にはぜひ菖蒲湯に入って、その爽やかな香りを楽しみ、菖蒲本来の素晴らしさを満喫してみてはいかがでしょうか。