HOME > 生薬百選 > 【2009年10月号】生薬百選 67 冬虫夏草(トウチュウカソウ)
信州はすっかり秋らしくなってまいりました。秋といえば、食欲、スポーツ、芸術・・・といろんな秋がありますが、私は秋といえばキノコ。食べることはもちろんですが、山の匂いや川のせせらぎ、小鳥の鳴き声を聞きながら、フカフカの落ち葉を歩いて探すキノコ採りは、秋ならではの最高の楽しみです。今回は、私の好きなキノコに因んで冬虫夏草をご紹介します。
古来よりキノコは薬用に供されてきましたが、中国では漢方をはじめ、薬膳料理などに用いられてきました。冬虫夏草は、1757年に清の呉儀洛が著した医学書「本草従新」に初めて登場しますが、これ以前から薬用として用いられていたとされています。日本には1728年(享保13年)に中国から輸入され、以来その名が知られるようになりました。
冬虫夏草は、キノコが昆虫やクモに寄生して、体内に菌糸の集合体である菌核を形成し、その後、昆虫の頭部や間接部などから棒状の子実体を形成したものの総称として用いられていますが、この仲間には菌類や一部高等植物の果実に発生するものも含まれています。
本来、中国の冬虫夏草は、子嚢菌類、バッカク菌科Cordyceps sinensis(BERK.)SACC.とその寄主であるコウモリガ(Hepialus armoricanus OBER)の幼虫の複合体に与えられた名称で、冬は虫で夏になると草(キノコ)になると信じられていたことから、この名がつけれらたといわれています。中国の四川、雲南、甘粛、青海、湖北、浙江の各省、チベットなどに分布し、市場ではその大きさによって虫草王(ちゅうそうおう)、散虫草(さんちゅうそう)、把虫草(はちゅうそう)の3種に分類され、日本では把虫草が主に輸入されています。
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主な成分はCordyceptic acid(キナ酸の異性体)7%で、その他ステロール(ergosterol、cholesterol、campesterol、sitosterol)や抗菌成分cordycepinを含むことが報告されています。漢方では古来より不老長寿、強壮の秘薬として重用され、鎮静、鎮咳薬として病後の衰弱、肺結核などに用いられています。近年では化学療法後のガン患者の生活の質(QOL)と細胞性免疫の向上、B型肝炎の患者の肝機能の向上に対して、有効性が認められています。 冬虫夏草は虫とキノコの合体した珍奇な生物で、古くから多くの研究者の注目を集めている一方で、まだまだ多くの新種が発見されています。特定の昆虫に特定の菌類だけが寄生する寄主特異性や昆虫の生態防御機構を打ち破る仕組など、未だ解明されていない多くの謎につつまれています。今後研究が進み、生態の解明や新たな薬理作用の発見、新薬の応用など、興味の尽きない生薬の一つです。 |
■ 鳥羽 定良 (養命酒中央研究所・商品開発グループ グループリーダー)