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疲れの雑学

「“疲れ”の語源にまつわるヨレヨレ具合」「“お疲れさま”に当たる英語は?」「疲れ知らずの恐るべき鉄人たち」——今月は疲れに関する雑学をご紹介します。


「疲れ」の語源にまつわるヨレヨレ具合

「疲」という漢字を見るだけで元気がなくなりそうですが、それは部首に「やまいだれ(疒)」が使われているからかもしれません。やまいだれは、病んだ人が寝台にぐったり座っている様子を表した象形文字です。やまいだれの下の「皮」という漢字は、一説では足を引きずり、身体が傾いている様子を表しているのだとか。まさに、一文字でヨレヨレな雰囲気が伝わってくる漢字ですね。
「つかれる」の語源は諸説ありますが、「尽く」あるいは「憑く」ではないかという説があります。疲れた状態は、エネルギーが尽き、何かもののけが憑いたように見えたことに由来するのかもしれません。漢文学者の白川静氏は、「病」の音読みの「ヘイ」や 、「疲弊」の「弊(ヘイ)」は、疲れた人の乱れた息の音と関連性があるのではないかと指摘しています。「ヘイ」は掛け声のようで少々威勢がいい感じもしますが、もっと苦しい青息吐息な様子を示しているのかもしれません。
とことん疲れきった時、「精根尽き果てる」という慣用表現を使うことがありますが、精根とは精力と根気のことです。精根込めてものごとに打ち込むことも大切ですが、精根尽き果てて抜け殻のようになってしまわないように気をつけましょう。


「お疲れさま」に当たる英語は?

「お疲れさま」という他者の労苦をねぎらう言葉は、もしかしたら日本の組織で最もよく使われているフレーズかもしれません。帰社する時はもちろん、まだそれほど疲れていない出勤時でも、ランチから帰ってきただけでも、「お疲れさまです」と声をかける習慣が一般化しています。
しかし、英米には日本語の「お疲れさま」にピタリとはまる言葉がありません。「Good job!」「Well done!」は目上の人が目下の人に「よくできました」とねぎらう意味で使われます。しかし、社内で同僚とすれ違った時などにいきなりお疲れさま感覚で言うと違和感があります。同僚とすれ違った時は「How are you doing?」と相手の調子を伺うのが自然です。相手が疲れていることを前提に言う「You must be tired」も、親しい関係性がない人には使えません。相手の労力に対して感謝とねぎらいの意を伝えるなら「Thank you for~」で伝わります。
日本人が何気なく使っている「お疲れさま」は、こうした幅広い意味を包括しています。「お疲れさま」は他者の「疲れ」に「お」と「さま」をつけて丁寧にした言葉ですが、他者から受けた恩恵を意味する「おかげ」に「さま」をつけた「おかげさま」に通じる日本特有のコミュニケーションワードです。そこには、和を大切にする思いやりの心が宿っているのではないでしょうか。


疲れ知らずの恐るべき鉄人たち


疲れ知らずの恐るべき鉄人たち


マラソンやトライアスロンなど、疲れの限界を超えてゴールを目指す耐久レースが世界各地で繰り広げられています。最高気温が50℃に迫るサハラ砂漠を約240kmに渡って走り抜ける「サハラマラソン」は、地球上で最も過酷なレースのひとつといえるかもしれません。
一方、アメリカ南部のテネシー州で行われている「バークレイ・マラソン」は、なんと1986年以来、完走者が十数人しかいないという超難関レース。約160kmの険しい山道を60時間以内に走破しなければならず、しかもコースの全容は前日まで謎のままなのだとか。完走者が極端に少ないのは、道に迷ってゴールにたどり着けないからのようです。
イギリスで開催されている「ブルータル・エクストリーム・トライアスロン」は、距離が尋常ではありません。水泳約7.7km+バイク約360km+マラソン約84kmという、通常の鉄人レースの2倍の距離を完遂しなければならないので、並みの人では道半ばで精根尽き果ててしまいます。
さらに、アメリカの12の州を横断する「レース・アクロス・アメリカ」のソロレースは12日以内にゴールをする必要があり、参加者はほとんど寝ずに自転車をこぎ続けるため、中には幻覚を見る選手もいるようです。
そんな辛い目にあってまで自分の限界にチャレンジする鉄人たちには頭が下がりますね。でも、ムリして体を壊しては元も子もありません。松下幸之助氏はこんな名言を残しています。「苦しかったらやめればいい、無理をしてはならない。真剣に生きる人ほど無理はしない。努力はしても天命に従う。これが疲れないコツである」。