「ユネスコ世界記憶遺産の中国最古の医学書にもお灸が登場!」「お灸のもぐさに使われる和ハーブのよもぎ」「燃えるような恋の歌にもお灸が登場!」——今月はお灸の雑学をご紹介します。
ユネスコ世界記憶遺産の中国最古の医学書にもお灸が登場!
頭が痛いと、額を無意識に指で押したり、胃が痛いと、胃のあるあたりをなんとなくさすったりしたことはありませんか?お灸も、身体のあちこちを押したりさすったりする中で、不調が和らぐツボがあることに気づき、それを体系化した人類の知恵のひとつです。お灸が生まれたのは、2,000年以上昔の古代中国といわれています。ユネスコの世界記憶遺産にも選定されている中国最古の医学書『黄帝内経』にも、お灸のことが書かれているそうです。日本には奈良時代に仏教とともにお灸がもたらされたといわれており、貴族から庶民まで、幅広く普及していきました。お灸の基本になるのは、いわゆるツボと呼ばれるポイントで、正式には「経穴(けいけつ)」といいます。WHO(世界保健機関)でも、全身にある361の経穴を標準経穴と認定しています。WHOの発表したレポートでは、鍼灸は頭痛や腰痛からアレルギー性鼻炎や関節リウマチ、つわりなど、さまざまな症状に有効なのだそう。CTスキャンも胃カメラもなかった古代の人々が、試行錯誤の中で見出した鍼灸の英知が、先端医学が発達した現代においても認められていることに改めて驚かされますね。
お灸のもぐさに使われるハーブ「よもぎ」
伝統的なお灸には「もぐさ」が使われます。もぐさの語源は「燃える草」であるという説があり、欧米ではお灸のことを「MOXA」といいます。もぐさの原料は、よもぎの葉の裏にびっしり密生している白い綿毛です。乾燥させたよもぎの葉を石うすで細かく砕き、何度もふるいにかけて綿毛を取り出すのですが、手間がかかるわりに取り出せる綿毛の量はごくわずかです。それでも古くからよもぎがお灸に用いられてきたのは、シネオールをはじめとする精油成分が含まれているため燃えやすく、じんわり適温で火持ちもよいためです。シネオールはユーカリやローズマリーなどにも含まれており、樟脳(しょうのう)のようなシュッと清々しい芳香があります。その香りには邪気を祓う力があると信じられていたため、端午の節句に菖蒲と共によもぎを飾る地方もあります。よもぎのおひたしや天ぷらなども、よもぎの清浄な香りを生かした料理です。もぐさでお灸する時に立つ煙にも、よもぎの芳香成分が含まれているので、香りでもほんわか癒されそうですね。
燃えるような恋の歌にもお灸が登場!
お灸は中国の『三国志』をはじめ、吉田兼好の『徒然草』や松尾芭蕉の『奥の細道』など、日本の古典文学にもたびたび登場します。「かくとだに えやは伊吹の さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを」——『百人一首』の有名な藤原実方朝臣の歌も、思いを寄せる女性へのじんじんと胸焦がれるような情熱的な恋心を、熱く燃えるお灸のもぐさに例えて詠んでいます。歌に出てくる「さしも草」とは、お灸に使うよもぎのことで、滋賀県の伊吹山(いぶきやま)は古来よりよもぎをはじめとする薬草の名産地として知られている霊山です。こうした古典文学に出てくるような昔ながらのお灸は、火をつけたもぐさを使うのが一般的でしたが、昨今では火を使わず、煙も出ないお灸が市販されています。火を使わないお灸は、もぐさが原料になったシートを肌にペタッと貼るタイプのものが多く、発熱剤が内蔵されていたり、使う前に電子レンジで温めたりする仕組みになっています。一見、カイロのような形状のものもあり、若い世代でもお灸を身近に利用する人が増えています。