HOME > 健康の雑学 >  【2011年10月号】 腸とお通じの雑学

腸とお通じの雑学


盲腸が1.5mもある動物とは?腸内細菌の活用でエネルギー問題が解消する?落語にも登場する便秘薬とは?腸とお通じに関する雑学です。


赤ちゃんコアラが”離乳食”として食べるものとは?


食物の栄養を吸収するという大切な機能を備えている腸。この腸の長さは、肉食動物と草食動物では差があることをご存じでしょうか。

肉などの動物性食品は比較的速やかに消化吸収がおこなわれますが、食物繊維を大量に含んだ植物性のものは時間がかかります。いわゆる“腹持ち”が良くなってお腹が空きづらくなるというメリットもありますが、その分、じっくりと消化吸収できるスペースが必要となるわけです。

そのため、草食動物の腸は肉食動物に比べて、長くなっています。さらに、大腸、小腸、直腸といった腸のスペース配分も、動物によってまちまちです。面白いのは、ユーカリの葉が大好物のコアラ。草食動物なので長い腸を持っていますが、特に長いのは盲腸。なんと、あの体の大きさで1.5mから2m近くにも及ぶ長い盲腸を持ってます。人間の盲腸は、約5cm程度。しかも退化してほとんど機能しておらず、たまに盲腸から繋がっている虫垂が炎症を起こしてお腹が痛くなる・・・どちらかというと厄介なものという印象ですよね。しかしコアラの盲腸は、ちゃんと機能しています。

コアラが主食とするユーカリの葉には大量のタンニンが含まれ、タンパク質と結合することで消化できなくなってしまいます。そのため、コアラやごく一部の動物を除けば、ユーカリを食べる草食動物はほとんどいません。しかしコアラの場合は、長い盲腸が発酵を促し、タンパク質との結合を回避!ユーカリを“栄養価の高い、消化できる食べ物”にしてしまう体のメカニズムを持っています。

ただし、赤ちゃんコアラの場合は、まだメカニズムが備わっていません。そこで“離乳食”として、程よくユーカリが消化されているお母さんコアラの盲腸で作られた、やわらかい糞を食べます。そうすることで、ユーカリの味を覚えると同時に、ユーカリの消化に欠かせない微生物も摂り入れ、大人になる準備をするのです。

ちなみに、コアラもカンガルー同様、お腹に袋がついていて、その中で子育てをします。カンガルーと異なるのは、袋の口が下向きになっていること。その袋からヒョコッと顔を出せば、すぐそばにお母さんの肛門があります。そこから直接、糞を食べるわけです。

パンダがエネルギー問題を解消する!?


人間の腸の中にいる無数の細菌は、3つに分類することができます。ビフィズス菌や乳酸菌などの「善玉菌」と、ブドウ球菌などの「悪玉菌」は有名ですが、みなさんは「日和見菌」と呼ばれる菌をご存知ですか。

善玉菌は読んで字のごとく、消化吸収や免疫強化をつかさどる、人間にとってありがたい菌。一方、悪玉菌は有害物質を作り出す菌です。日和見菌は、いわば“どっちつかず”の菌。普段は良いことも悪いこともしないのですが、腸内で善玉菌が増えるとビタミン合成などの良い作用を及ぼし、逆に悪玉菌が増えると有害物質を作り出してしまうこともあります。多いほうの味方をする、まさに日和見主義な菌です。

この3つの菌が、腸の中で縄張り争いをしているわけですね。悪玉菌が増殖すると、下痢や便秘になりやすく、免疫力も低下しがちになります。また、年齢を重ねるにつれてビフィズス菌は減る傾向があることも近年わかってきました。ビフィズス菌は、栄養の吸収をサポートしたり、腸内を酸性に保って悪玉菌が増えるのを抑える効果が期待できる菌。ヨーグルトを連想する方も多いかと思いますが、すべてのヨーグルトに入っているわけではありません。

そんな腸内細菌について、最近新たな研究結果が相次いでいます。興味深いところでは、パンダの腸内細菌が作り出す酵素を使って、バイオ燃料を効率よく作ろうとする研究です。

バイオ燃料といえば、トウモロコシやサトウキビを原料にしたものが脚光を集めていますが、現在の生成方法ではコストや環境への負荷などが課題として取り沙汰されていました。そこで、バイオ燃料の原料となる竹、その竹(笹)を主食とするパンダの腸内細菌に着目して研究がスタート。腸内細菌により、笹が効率的に糖に変換されたことが明るみになりました。研究はまだ始まったばかり。近い将来、パンダが「カワイイ」という要素以外で世界の檜舞台に上がるかもしれませんね。

秀吉の正室は便秘気味だった!?


いわゆる“お通じ”が3日以上ない状態のことを「便秘」と呼びます。生活の乱れやストレスも原因のひとつと言われているため現代病かと思いきや、昔の人々も便秘に悩むケースがなかったわけではありません。

全国統一を成し遂げた戦国武将、豊臣秀吉。その正室は、北政所(きたのまんどころ)こと「ねね」です。政略結婚が当たり前に行われいた時代において、秀吉とねねは恋愛結婚だったといわれています。惜しむことなく愛情を注いだ秀吉ですが、ねねの侍女に充てた書簡の中に気になる一節が。便秘がちなねねを気遣い、下剤を使うことを勧めたり、便通について良い知らせを待っているなどと書き記しています。

この時、実際にねねがどんな対処をしたのかはわかりませんが、昔から便秘に良いとされる薬が東西問わず重宝されていたことは事実です。

たとえば「大黄(だいおう)」というタデ科の植物。昔から便秘に効果があるといわれている大黄は、落語の中にも登場しているほどです。「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」という噺では、人を飲みこむ地獄の鬼が登場します。しかし、飲みこんだ人がお腹の中で暴れ、困った鬼は閻魔大王のところへ行き、「こうなったら、あなたを飲む!」と言い放ちます。「大王(大黄)を飲んでスッキリする!」というサゲ(オチ)ですね。大黄が下剤であることを知っていて初めて笑うことができます。また「夏の医者」という古典落語では、ウワバミ(大蛇)に飲まこまれた医師らが胃の中から脱出を図るため、薬かごの中に入っていた大黄をパラパラと撒いたところウワバミが腹を下し、肛門から無事脱出するというくだりが登場します。庶民の娯楽である落語にしばしば登場するということは、大黄は下剤として広く浸透していたといえそうです。