HOME > 健康の雑学 > 【2009年5月号】発酵の雑学

人間にとって計り知れない恩恵をもたらしてくれる微生物。その微生物が行なう発酵。食品のみならず、さまざまな分野で駆使される発酵についての雑学です。
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発酵は微生物(菌)の力によって行なわれます。食品に、人間にとって有益な菌が作用したら「発酵」、害のある菌が作用したら「腐敗」。呼び方はかわりますが、菌が働いているという点では同じことなんです。現在では、食品を発酵させたものが珍味として親しまれています。どのくらいの期間、どの食材に、どの菌が作用して発酵するかにより、匂いや味が変わってくるわけです。独特の匂いがしたり、コクのある味や酸味が生まれたりして、チーズひとつとってもそのバリエーションの豊富さは目を見張るものがあります。 また、発酵させる前よりも、発酵させたあとのほうが栄養価が高まっているケースも多く見受けられます。たとえば納豆。煮た大豆に納豆菌が付着して生まれる納豆は、煮豆の段階よりもビタミンB2の量がおよそ6倍近く含まれます。 しかし、いにしえの人々はビタミンの存在もしらなければ、地球上にミクロの微生物が無数に存在していることすら知りません。「食べるのを忘れて放置しておいたら、あれ?コレ食べられるぞ」「さらに放置してても食べられるぞ」「しかもなんか、美味くなってるぞ」というところから出発し、さまざまな工夫がなされて無数の発酵食品が生まれてきました(その陰ではお腹を壊した人もたくさんいるはず)。 当初の目的としては、「保存」の意味合いが大きかったと思います。ビタミンやミネラルが不足し、食物も採れづらくなる冬、保存食として発酵食品は大活躍しました。日本では、糠に漬け込む漬物などもそうですね。とりわけ冬の寒さが厳しい東北地方で、漬物文化が大きく花開きました。 |

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発酵の力を余すところなく活用したもののひとつが、お酒。世界中の至るところで、発酵を利用した酒づくりが行なわれています。酒づくりの基本は、「糖」を発酵させて、アルコールと、シュワーッと爽快な「炭酸ガス」に分解することです。たとえば日本酒。ご存知のとおり、蒸したお米から作るのですが、お米の段階では「デンプン」があるだけで、糖が含まれていません。そこで麹カビを活用し、まずデンプンを糖に分解したのちに、酵母菌を用いてアルコール発酵させます。 一方、最初から糖が含まれているもの、たとえば果物などの場合は極端な話、「放っておけば」空気中にある乳酸菌などが作用して、お酒になるわけです。東南アジアやミクロネシア、アフリカなどの熱帯地域でよく飲まれている椰子酒は、椰子の樹液から作られるお酒。樹液を採取してすぐに飲めばジュースで、赤ちゃんでも飲みます。1日くらいすると炭酸ガスが発生し、少しづつアルコール分が高まっていきます。いわば微発泡の「シャンパン」の段階ですね。さらに1日ほど置いておくと発泡はおさまり、コクと酸味、アルコール分がだんだんと増えていき、焼酎のような味わいになります。 このように自然に発酵がなされて生まれた酒は古代からあり、「猿酒」などと呼ばれています。一説には、猿が洞穴に放置していた果実がお酒となり、飲んでみたらうまかった!ということが由来として残っています。 また、デンプンを糖にする技、つまり麹の利用がまだ発見されていなかった頃には「口噛み酒」がありました。これは蒸したお米を口に入れて噛んで吐き出し、唾液の作用によって糖にする手法です。今となって考えると「えー!きたなーい!」といわれるかもしれませんが、いやはや、最初にこの技を発見した人は純粋にスゴイと思いますよ。今ではさまざまな微生物が発見され、その仕組みが科学的に解明されている「発酵」ですが、日々の暮らしの中で生じる「偶然」を積み重ねてきた先人の知恵には、あらためて驚かされます。 |