HOME > 特集記事> 【2009年5月号】上野“発酵”散歩


上野“発酵”散歩


今月の特集テーマは「発酵」。カラダを健やかに保つ発酵食品の数々を探し求めて、国際色豊かな上野の街を散策してきました!


上野公園からアメ横をサーチ!!


味噌や醤油、みりん、醸造酢、パン、お酒など、私達の食生活に欠かせない発酵食品。とりわけ日本は発酵食品の数が多いといわれていますが、海外にもさまざまな発酵食品があり、人々の健康を支えています。そこで今回は、国際色豊かな食材の宝庫、上野の街を巡り、さまざまな国の発酵食品を探してみることにしました!

4月某日、サクラは満開。発酵食品を探し求めるということで、本来なら食材の宝庫「アメヤ横丁」に真っ先に向かうところですが、まずは景気づけ!ということで上野公園に向かってみました。といっても、単に花見をするだけじゃありません。この季節ですと、あの発酵食品があるはず。大勢の花見客で賑わう中、キョロキョロと探してみたところ・・・ありました!

甘酒の屋台
<甘酒の屋台>
甘酒です。ご承知の通り、世界中にあるお酒はそのほとんどが菌のチカラ、つまり「発酵」によって作られています。甘酒もしかり。日本酒同様、炊いたお米を発酵させて作ります。甘酒というと冬の飲み物と思われがちですが、江戸時代には主に夏に売られていました。俳句の世界でも、甘酒の季語は夏なんです。消化が良く、豊富なビタミン類を含んでいることから、夏バテ対策にも効果的といえるでしょう。

さて、気分が軽やかになったところで、さっそくアメヤ横丁に向かいます。山手線の線路に沿って、上野駅から御徒町駅に連なるアメ横ができたのは第二次大戦後。以来、都民の胃袋を満たすべく繁栄を続けてきました。

塩辛
<塩辛>
そぞろ歩いてみると、やはり目につくのは鮮魚店。「はいマグロ千円千円千円千円〜」としゃがれ声が飛び交い、マグロにイクラ、毛ガニ、そして旬のスズキなどがズラリと並んでいます。うーむ、どれも新鮮でおいしそうだけど、今回の主旨は発酵食品探し。鮮魚よりも加工食品店を中心に探していかないと。
そこで店内に入ってみると、さっそく「かつお酒盗(しゅとう)」と「いか塩辛」を発見。れっきとした発酵食品です。「酒盗」とは、かつおの内臓を発酵・熟成させた塩辛のこと。一般的に塩辛は、魚介類などの素材に塩をなじませ、陰干しして乾燥させたものを冷蔵。その間、発酵が進んでできあがります。塩辛はビタミン・ミネラルを豊富に含み、とりわけイカの塩辛などは発酵のチカラによってコラーゲンの吸収率も格段に高まっています。美容効果も期待できる一品です。

さて、しばらく歩くのちに、沖縄物産ショップとして全国展開している「わしたショップ」を発見しました。ここでは当然、アレを探しますよ〜。
すくがらす
<すくがらす>
豆腐よう
<豆腐よう>
ありました。「すくがらす」に「豆腐よう」。すくがらすはアイゴという魚の稚魚を塩漬けにしたもの。とても塩っ気が強いので、そのまま食べるには不向き。沖縄では小さく切った豆腐に1匹ずつ乗せて食べることが一般的です。そして「豆腐よう」は、麹と泡盛などをあわせた漬け汁に豆腐を漬け込んだもの。いわば「豆腐の漬物」です。かつて琉球王朝の時代では貴族達の食卓に上るほど珍重されてきました。豊富なタンパク質を含み、胃壁の保護や血圧・コレステロール値を正常に保つ効果が期待できます。

さて、次にみつけたのは、日本人なら誰もが知っている、あの食材。

かつおぶし
<かつおぶし>
かつおぶしも発酵食品なんです。発酵の権威として知られる東京農大の小泉武夫教授をして「世界一硬い発酵食品」といわしめた、かつおぶし。アメ横に店を構える「伊勢音」さんでは、このように削る前の段階のかつおぶしが「かんな」とともに並んでいます。扱っているのは、初がつおを原料にした「本枯鰹節」が中心。かつおの身を煮てから干し、天日乾燥を繰り返して麹カビのカビ付けを施しながら作ります。日本料理には欠かせない一品です。

さて次は、国際都市・上野の本領を発揮してもらうべく、地下に潜ってみます!!

アジアの発酵食品を探し求めて、上野の地下へ!


アメ横にある、アメ横センタービル。衣料品や化粧品、靴、雑貨、貴金属などの店が軒を連ねる5階建てのビルですが、皆さんは地下1階に足を運んだことがありますか?現在、アメ横センタービルの地下街は、インド、ベトナム、タイ、台湾、中国、韓国の食材が揃う、インターナショナルな市場が広がっているんです。どのくらい国際色豊かなのかといいますと、5分間歩き回る間、1回しか日本語が耳に入ってこないくらい豊か(笑)。プチ海外旅行気分も味わえちゃいます!

ピータン
<ピータン>
ザーサイ
<ザーサイ>
左がアヒルのたまごを発酵熟成させた「ピータン」。右が中国を代表する発酵漬物「ザーサイ」です。ザーサイはアブラナ科の植物で、その茎にできるコブを天日干しにした後に一旦塩漬けにします。その後、塩を抜いたところで山椒やトウガラシ、中国の焼酎といえる「白酒(パイチュウ)」などとともに甕(かめ)に漬け込んで作ります。豊富な食物繊維とミネラルを含み、八角や桂皮、甘草などの生薬が使われることも。そういった意味では「薬酒」も似ていますね。アルコールのチカラで生薬の効能をさらに引き出すという、先人の知恵が注がれています。
ナンプラー
<ナンプラー>
ニョクマム
<ニョクマム>
発酵調味料も豊富。左の写真はタイの魚醤(ぎょしょう)「ナンプラー」。業務用ボトルに入っているので一見するとカー用品店のような写真になっています(笑)。そして右はベトナムの魚醤「ニョクマム」。魚を塩とともに漬け込んで発酵させた際に生じる液体の部分を「魚醤」といいます。日本でも、ハタハタから作る秋田県の「しょっつる」、いわしなどの内臓から作る石川県の「いしる」などの魚醤があります。

それにしても、中国の発酵食品として有名なアレはないかな・・・と店員さんに聞いたところ、あったあった。たくさんありました。
腐乳(フニュウ・フールゥ)
<腐乳(フニュウ・フールゥ)>
これが豆腐の発酵させて作る「腐乳(フニュウ・フールゥ)」です。先に紹介した沖縄の「豆腐よう」のルーツともいわれています。豆腐に麹をつけ、塩水に漬けて発酵させたものです。「腐」の字が入っていると、いかにも怖い印象を受けますが、それをいうなら「豆腐」も「腐」の字が入ってますし、なにより中国では、「腐」は「ブヨブヨとした状態で固まる」という意味で使われていますので、ご安心あれ(といいつも、けっこう匂いは強烈だったりする・・・)。 店員さんに食べ方を聞いたところ「塩辛いのでそのまま食べないほうがいいデスヨ」とのこと。火鍋のタレとして利用したり、炒め物に混ぜたりして使うそうです。ただ、「そのまま食べたらダメ」といわれたら、そのまま食べたくなる衝動が起こるのもまた事実なんだな(笑)。

自家製キムチを探し求めて、東へ!


今度は、アメ横からちょっと東の方角へ移動します。JRの線路をくぐり、さらに高速道路の下をくぐって100メートルほど歩くと、知る人ぞ知る「東上野コリアンタウン」が広がっています。広がっているといっても、こぢんまりとしていて、焼肉・韓国家庭料理店や食材店が点在しています。ここでのお目当ては、やっぱりコレ!

キムチ
<キムチ>
韓国を代表する発酵食品、キムチです。以前、韓国の知人に「日本のキムチは辛すぎるよね」と言われ、この一画のキムチが本来の味だよと聞いていました。食材店「第一物産」さんをのぞいてみると、オーソドックスな白菜のキムチ以外にも、エゴマの葉、小松菜、大根(カクテキ)、きゅうり、そして生薬としても知られている「キキョウの根(トラジ)」など、さまざまな野菜を使ったキムチが並んでいます。

かつて、日本の家々で漬物をつけていたように、韓国ではそれぞれの家庭で「我が家オリジナル」のキムチを漬ける習慣が今も残っています。ここで売られているキムチは、白菜などの材料は日本国産のものを使い、「技」は韓国の技術を駆使して自家製キムチを作っています。ここで売られているオーソドックスなキムチの原材料は、白菜、大根。漬け原材料としてトウガラシ粉、人参、ニラ、長ネギ、にんにく、セロリ、たまねぎ、アミの塩辛、りんご、昆布、ショウガ、煮干、いわし塩辛、砂糖を使っています。日本産のキムチよりも多くの原材料が使われている印象を受けますね。

また、タラの内臓をコチュジャン、トウガラシ粉、おろしにんにく、砂糖、ごま、ごま油、パプリカ、かつおだしなどと漬け込み、塩辛にした「チャンジャ」もありました。お酒の肴としても、あつあつご飯に乗せて食べてもおいしそう。

さて、春の日差しの中、のんびりぶらぶらとしながら「発酵食品探し」の散策は終了。じつにさまざまな発酵食品に出会うことができました。皆さんも上野を訪れた際には、ぜひ探してみてはいかがでしょう。

探すだけじゃ物足りない!やっぱり、食べないと!


やっぱり「探す」だけじゃ物足りない!ということで、上野でみつけた発酵食品のうち、いくつかを買って帰りました。これらひとクセある食材の数々を、どのようにして食べたらいいだろう・・・ひとしきり考えたあげく、良い方法を思いつきました。

お粥と発酵食品群
<お粥と発酵食品群>
そう、お粥です。さっぱりとしたお粥と、クセのある発酵食品の数々。お粥を中心とした“発酵食品サミット”の始まりです!一番上の青いお皿が豆腐よう。そこから時計回りにキムチ、ピータン、かつおだし、チャンジャ、ザーサイ、そして腐乳。どれもお粥との相性は抜群でしたが、特筆すべきはキムチ。口に入れるとまずは旨味がじんわりと広がり、後から柔らかい辛味がやってくるような感覚です。舌の上に刺さるような辛味とは正反対ですね。
一方、チャンジャはねっとりとコクのあるコチジャンと、タラの食感がお粥とよく合います。気になっていた腐乳は、そのまま食べるとやはりしょっぱい!脳天をつきぬけるような塩っ気。しかし、「かつては豆腐だった」ことを思わせる旨味もあり、予想よりは食べやすいものでした。XO醤などの中華調味料と混ぜてもよさそうです。かたや豆腐よう、こっちのほうがクセが強いですね。少し多めに口に運ぶと泡盛の風味でむせ返るほどです。お粥よりも、お酒との相性がよさそう。最後はかつおぶしと醤油、みりんで味を整えたダシをかけて締め。
さっぱりとした余韻が残り、とても美味しくいただけました!

今回発酵食品を購入したお店
※価格は2009年4月現在のものです。
◇わしたショップ上野店
http://www.washita.co.jp/
沖縄料理の食材をはじめ、ちんすこうや塩せんべいなどの菓子類や泡盛などの酒類も取り揃えています。豆腐ようは1個入りで315円(税込)から。

◇伊勢音
http://www.iseoto.com/
アメ横にある「和風だし」の老舗。本枯鰹節は1本1000円台から3000円台まであり、大きさや部位によって価格が上下します。削った状態の「けずり節」や椎茸、昆布なども揃っています。

◇むら珍
http://www.ameyoko-center-bldg.com/shop/b1/murachin.html
アメ横センタービル地下1階にある「むら珍」は、中国、タイ、インドネシア等の食材が揃うお店。新鮮なタイの野菜も現地から空輸しています。

◇第一物産
http://www.d1b.jp/
東上野コリアンタウンにある韓国食材店。日本国産の白菜を使ったキムチは100g当たり147円。小松菜やきゅうり、ラッキョウなどのキムチや海鮮キムチも充実しています。